微小球状樹脂(ミクロスフェア)表面のカルボキシル基を利用して,金属イオン鋳型の新しいミクロスフェアを合成した.合成は,ジビニルベンゼン,スチレン,アクリル酸ブチル,メタクリル酸の重合モノマーを用いてシードエマルション重合法で行った.鋳型は,重合過程で,金属イオンとカルボキシル基との錯生成反応を利用し,カルボキシル基をミクロスフェア表面で再配列させることによって形成した.得られたCu(II),Ni(II),及びCo(II)-鋳型のミクロスフェアは,平均粒子径約0.55~0.60μmのサブミクロン粒子であり,その粒子表面に鋳型が形成されているため使用に際して粉砕,分級の必要がない.金属イオン{Cu(II),Ni(II),Co(II),及びZn(II)}の吸着を調べたところ,鋳型効果が観察できた.すなわち,鋳型ミクロスフェアの鋳型金属イオンに対する吸着率は,リファレンス(鋳型なし)のミクロスフェアのそれより大きい値を示した.鋳型発現のメカニズムを調べるために,重合時pHを変化させ(4.0,5.0,5.6,6.0),Cu(II)-鋳型及び非鋳型ミクロスフェアを合成した.Cu(II)の吸着平衡試験によってそれぞれのミクロスフェアへのCu(II)吸着能を調べた.その結果より,鋳型発現は,油水界面におけるCu(II)-カルボキシル基の相互作用に基づいており,カルボキシル基の解離,Cu(II)-カルボキシル基の錯生成,Cu(II)の加水分解などの反応が大きく関与していることが分かった.更に,分光学的検討及び錯生成に関する理論的考察の結果も期待どおり油水界面を利用した鋳型発現機構であることを支持した.本報は,著者らが提案した新しい鋳型合成法"鋳型ゲストと樹脂上の反応性部位との相互作用を通じて,それら部位を油水界面(樹脂)上で再配列させ鋳型構造を構築する方法"(Surface Imprintingと命名)を,鋳型ゲストとして金属イオン,反応性部位としてミクロスフェア上のカルボキシル基を用いて具現化した例である.
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