分析化学
Print ISSN : 0525-1931
45 巻, 11 号
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  • 塚越 一彦, 前田 瑞夫, 高木 誠
    1996 年 45 巻 11 号 p. 975-986
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    微小球状樹脂(ミクロスフェア)表面のカルボキシル基を利用して,金属イオン鋳型の新しいミクロスフェアを合成した.合成は,ジビニルベンゼン,スチレン,アクリル酸ブチル,メタクリル酸の重合モノマーを用いてシードエマルション重合法で行った.鋳型は,重合過程で,金属イオンとカルボキシル基との錯生成反応を利用し,カルボキシル基をミクロスフェア表面で再配列させることによって形成した.得られたCu(II),Ni(II),及びCo(II)-鋳型のミクロスフェアは,平均粒子径約0.55~0.60μmのサブミクロン粒子であり,その粒子表面に鋳型が形成されているため使用に際して粉砕,分級の必要がない.金属イオン{Cu(II),Ni(II),Co(II),及びZn(II)}の吸着を調べたところ,鋳型効果が観察できた.すなわち,鋳型ミクロスフェアの鋳型金属イオンに対する吸着率は,リファレンス(鋳型なし)のミクロスフェアのそれより大きい値を示した.鋳型発現のメカニズムを調べるために,重合時pHを変化させ(4.0,5.0,5.6,6.0),Cu(II)-鋳型及び非鋳型ミクロスフェアを合成した.Cu(II)の吸着平衡試験によってそれぞれのミクロスフェアへのCu(II)吸着能を調べた.その結果より,鋳型発現は,油水界面におけるCu(II)-カルボキシル基の相互作用に基づいており,カルボキシル基の解離,Cu(II)-カルボキシル基の錯生成,Cu(II)の加水分解などの反応が大きく関与していることが分かった.更に,分光学的検討及び錯生成に関する理論的考察の結果も期待どおり油水界面を利用した鋳型発現機構であることを支持した.本報は,著者らが提案した新しい鋳型合成法"鋳型ゲストと樹脂上の反応性部位との相互作用を通じて,それら部位を油水界面(樹脂)上で再配列させ鋳型構造を構築する方法"(Surface Imprintingと命名)を,鋳型ゲストとして金属イオン,反応性部位としてミクロスフェア上のカルボキシル基を用いて具現化した例である.
  • 渡辺 邦洋, 高橋 知, 板垣 昌幸
    1996 年 45 巻 11 号 p. 987-991
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    2-ヒドロキシ-1-(2-ヒドロキシ-4-スルホ-1-ナフチルアゾ)-3-ナフトエ酸(NANA)のラジカル分解反応による接触分析法を利用して,水道水中のマンガン(II)の分析を試みた.本法は,不純物金属イオンとして含まれる鉄(III)や銅(II)が正の妨害を示す.これらの妨害を取り除くためにマスキング剤の検討を行ったところ,トリエタノールアミンがマスキング剤として有効であった.マスキング剤の使用により銅(II)はマンガン(II)の125倍まで許容できるようになり,鉄(III)は100倍まで妨害しなかった.検出限界は0.06ppbであり,0.1~1.0ppbの範囲で定量可能であった.本法を水道水中のマンガン(II)の分析に適用したところ,黒鉛炉原子吸光法の結果とほぼ同様の結果が得られた.
  • 坪井 知則, 中村 孝洋, 松倉 亜希子, 本水 昌二
    1996 年 45 巻 11 号 p. 993-998
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    火力発電所のボイラ給水中に脱酸素剤として添加され,酸素と反応後残留している微量ヒドラジンのフローインジェクション-吸光光度定量について,p-ジメチルアミノベンズアルデヒド(DMBA)を用いて検討を行った.DMBAを用いる従来のバッチ式マニュアル分析法では,DMBAの溶解に塩酸と多量のアルコールを用いているが,試薬液調製の簡便化,取り扱いの容易さ,廃液処理の容易さから,アルコールを全く用いない反応系の開発について検討した.その結果,水と塩酸で調製した反応試薬液を用いても,従来法の反応試薬液と比較すると若干感度は劣るが十分定量に使用できることが分かった.FIAへの適用の詳細な検討の結果,検量線は0~100ppbの範囲で良好な直線性が得られた.S/N=3に相当する検出限界は0.2ppbであり,5ppbのヒドラジン試料に対する相対標準偏差は1.1%であった.本FIAは,共存金属イオンの影響もなく,微量ヒドラジンのボイラ給水管理分析に適用可能であることが分かった.
  • 小嶋 純
    1996 年 45 巻 11 号 p. 999-1004
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    粉じんの有害性を正しく評価し適正な環境評価を行うには,粉じんの粒度分布を知ることが重要である.本研究では,赤外法によって石英粉じんの粒度分布を測定する手法を考案した.赤外吸収スペクトルは,試料が粉体であった場合,その粒径に影響を受けることが知られる.そこでこの現象を利用して,スペクトルから粒径に関する情報を得ることも可能である.その際のスペクトル解読には重回帰分析を適用した.この場合,測定されたスペクトルは吸光度値に換算したベクトルとして表示し,同様に粒度分布も重量基準積算分率のベクトルとして表す.こうして得られたベクトルに重回帰分析を施し,回帰係数が行列形式で求められる.この行列を用いれば,赤外スペクトルから粒度分布を推計することができる.粒度分布ベクトルはこの行列にスペクトルベクトルを乗じることで得られるからである.この方法の適否を検討するため,標準石英を試験試料に用いて粒度分布を回帰計算によって求め,粒度分布測定装置で得た結果と比較したところ良好な一致を示し,その妥当性が明らかになった.
  • 中村 佳右, 高橋 旦征, 長谷川 良佑
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1005-1012
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    ロングトーチを用い,高分解能エッシェル分光器で,水平の誘導結合プラズマ(ICP)の軸方向観測(エンドオン測定)を行った.波長範囲210~770nmに入る24元素についてロングトーチと通常トーチの分析性能を比較検討した.通常トーチの場合に比べ,発光強度が増加するとともにバックグラウンド強度は30%以上低下し,正味の発光強度は20~40%増加した.その結果,S/σ(バックグラウンド強度の標準偏差に対する発光強度の比)及びBECが著しく改善された.検出限界の改善は1.5倍(Be)~6.9倍(Al)であった.他方,繰り返し精度及びダイナミックレンジ(5けた)は通常トーチの場合とほぼ同じであった.又,カルシウムの分析線に対するナトリウムの干渉はロングトーチ,通常トーチのいずれの場合にも見られ,リン酸の影響は双方のトーチとも現れなかった.ロングトーチを使用して多元素を含む標準試料(NIST SRM 1643 c)を直接定量し,認証値とほぼ一致する良好な結果を得た.
  • 門上 希和夫, 佐藤 健司, 岩村 幸美, 花田 喜文
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1013-1018
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    固相マイクロ抽出/GC/MSを用いて水質及び底質中の1-プロパノール,2-プロパノール,1-ブタノール,2-ブタノール及び tert-ブタノールの分析法を開発した.水試料は,塩析剤として炭酸カリウムを加え,ファイバーを直接浸して対象物質を抽出し,GC/MS-SIMで測定した.1.0~15μg/lでの添加回収試験結果は,回収率の平均が93.6%,相対標準偏差の平均が11.6%であった.又,検出限界は0.63~4.3μg/lであった.底質試料は精製水を加えて抽出後,水試料と同様に分析した.20μg/kgでの添加回収試験結果は,平均回収率が93.5%であり,相対標準偏差が20.9%であった.検出限界は6.9~84μg/lであった.本法により実際の環境試料を分析した結果,海域底質から1-プロパノール及び2-プロパノールが,乾重量当たりそれぞれ140,500μg/kg検出された.
  • 脇阪 達司, 森田 尚喜, 田中 正次, 中原 武利
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1019-1023
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/01/15
    ジャーナル フリー
    Mo-KαX線管球を分光結晶により単色化したエネルギー分散型蛍光X線装置による微量ヒ素の直接定量法を確立し,ヒ素限度試験法(化粧品原料基準,日本薬局方)の迅速分析法として応用した.軽元素が主体である有機物試料中での本法のヒ素の検出下限は0.08μg g-1,又ヒ素2μg g-1の測定の再現性も相対標準偏差1.2%と良好であった.ヒ素を標準添加した各種試料について,ヒ素限度試験法と本法とを比較した結果,回収率及び再現性は同等以上の良好な結果が得られた.本法は前処理不要の直接定量法で,かつ正確さ・精度も良好であり,ヒ素限度試験法の代替法として30分で迅速分析できることを示した.
  • 脇阪 達司, 森田 尚喜, 田中 正次, 中原 武利
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1025-1031
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/05/25
    ジャーナル フリー
    単色化X線源を用いたエネルギー分散型蛍光X線装置による微量重金属元素の直接定量法を確立し,重金属限度試験法(化粧品原料基準,日本薬局方)の迅速分析法として応用した.有機物試料中の V~Bi までの 26 元素の検出下限は,0.08~0.64μg g-1(鉛0.25,平均0.35μg g-1)と低い値が得られ,鉛20μg g-1の測定の再現性は相対標準偏差1.0%以下と良好な値が得られた.鉛及び重金属を標準添加した各種試料について,重金属限度試験法との比較を行った結果,回収率及び再現性共に本法のほうが良好であった.更に,本法は各元素ごとの正確な定量結果を得ることも可能で,又重金属限度試験法の値に換算も可能であることを示した.本法は前処理不要の直接分析法で,かつ正確さ,再現性も良好で重金属限度試験法の代替法として迅速分析(30~60分)できることを示した.
  • 酒井 忠雄, 渡邊 志央, 大野 典子
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1033-1039
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/01/15
    ジャーナル フリー
    テトラブロモフェノールフタレインエチルエステルは1,2-ジクロロエタン中で脂肪族アミンと電荷移動錯体を形成する.これらの錯体の生成定数は一級アミン,二級アミン,三級アミンとも異なった値を示し,一級アミンから順に大きくなる.しかしその大きさは炭素数に支配されず,級ごとに類似の値を示す.それぞれの錯体が温度変化に対して可逆的なサーモクロミズムを示すことから,この現象を利用するアミン間の分別分析を試みた.その結果一級アミンと二級アミン,及び一級アミンと三級アミンとの分別分析が可能となった.又,錯体の性質を解明するため,熱力学パラメーターΔG°,ΔH°,ΔS°を求め,サーモクロミズムの差を支配する因子について検討した.
  • 楢崎 久武, 林 久美子, 保科 敦子
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1041-1044
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    Stibine, generated by mixing a 0.7 M sulfuric acid solution of antimony(III)with a 2% sodium tetrahydroborate solution in a mixing coil for 30 s, was separated from solution in a gas-liquid separator, and then swept into an electrically heated quartz furnace by manipulating electromagnetic relays and timers.Sharp peaks were recorded on a recorder. The detection limit (three times signal to noise ratio) for antimony(III)was 0.6 ng ml-1.It took five minutes for one sample measurement.Interference from transition metals could eliminated by Chelex 100 separation.Antimony(V)was reduced by using a 0.1 M potassium iodide solution. The accuracy, checked with a biological standard reference material obtained from the National Institute of Standard and Technology (NIST) of USA, was within the certified value. Antimony in river water was determined by the present method.
  • 澤田 惠夫, 大堺 利行, 千田 貢
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1045-1049
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    水溶液滴電極を用いた油水界面イオン移動のポーラログラフ測定用の小型電解セルを試作し,その特性を調べた.水溶液を油相中に上昇させるための毛細管はテフロン盤(直径10mm,厚さ5mm)を用いて作製し,これを小型の三電極式の電解セル(油相の容量0.5cm3)に組み込んだ.この電解セルをニトロベンゼン/水界面でのテトラメチルアンモニウムイオンの移動及びバリノマイシンによるK+の促進移動に適用したところ,油相の容量が大きな従来の電極と同様に,いずれの場合も明りょうな電流-電位曲線を得ることができた.
  • 寺島 滋, 谷口 政碩
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1051-1058
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    地質標準試料中As,Sbの形態別分析における逐次溶解法の有効性を研究した.基礎的諸条件の検討結果から,As,Sbを五つの形態に区分することにし,1M硝酸マグネシウム(pH7)溶液で溶出する部分を交換吸着態,0.05M EDTA溶液でのそれをEDTA可溶態,0.2Mシュウ酸アンモニウム-0.2Mシュウ酸-0.1Mアスコルビン酸-0.01M塩酸混合溶液でのそれを酸化物態,0.7M次亜塩素酸ナトリウム溶液(pH8.5)でのそれを硫化物態,HF-HNO3-HClO4-KMnO4溶液でのそれを残留物態とした.As2S3,Sb2S3等の硫化物は試料の粉砕・混合の過程で一部が酸化物態やEDTA可溶態に変化する.確立した逐次溶解法は地質試料中As,Sbの存在形態を把握する方法として有効であり,各種地質標準試料(火成岩類,堆積岩類,堆積物,鉱石,鉱物等)中As,Sbの形態別分析の結果によれば,火成岩類では残留物態が多く,堆積物や堆積岩では酸化物態が多い傾向があった.
  • 内山 一美, 寺田 周弘, 大沢 敬子, 今枝 一男
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1059-1062
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2010/05/07
    ジャーナル フリー
    電気泳動法に用いられるポリアクリルアミドゲルの熱的性質を光音響分光法により測定した.モデル試料として,乾燥した10及び50μmのポリアクリルアミドゲルにカーボンブラックを塗布し,ポリアクリルアミドゲル層の厚さの異なる試料を作製した.この試料に19.3~134Hzの範囲で変調したレーザー光(He-Neレーザー,Hughss Aircraft,model 3230-HPC,10mW)を照射し,参照信号の位相の変化を測定し,乾燥したアクリルアミドゲルの熱拡散率を求めた.この結果,ゲルの熱拡散率は2.0~2.4×10-3であった.タンパク質として卵製アルブミンを用い,ゲルに一様に溶解し銀染色した.このゲルを試料として用い,同様の実験を行いゲルの熱拡散長に対する信号強度の測定を行った.ゲルの銀染色された部分の厚さはゲル全体の厚さ(400μm)の1/10程度で表面付近に分布していることが分かった.この結果は顕微鏡での観察より小さな値となった.
  • 奥山 修司
    1996 年 45 巻 11 号 p. 1063-1064
    発行日: 1996/11/05
    公開日: 2009/05/29
    ジャーナル フリー
    Multivariate analyses (quantification IV, cluster analysis and principal component analysis) were applied to some signals obtained from the X-ray diffraction method, the spectrophotometric method, Fourier transform infrared spectroscopy and gas chromatography. The reproducibility and accuracy of an analysis of the desired components in binary and ternary systems were investigated. Multivariate analyses are particularly useful, because in forensic science the amount of sample is usually too small to measure repeatedly. In the conventional calibration method, one peak in one sample was generally used for the determination, and the peak for the determination was arbitrarily selected by the analyst. In this method, many peaks in one sample were selected according to a definite rule, and were used for the determination by multivariate analyses. By this method, the analysis of inorganic and organic substances could be accomplished with a high degree of reproducibility and accuracy.
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