容量法によって鉄鋼中のバナジウムを定量する場合,バナジウムが単独で含有されているもの,例えば,砂鉄から製造された銑鉄のごときものでは,その定量は比較的容易であるが,普通鉄鋼中にはバナジウムは単独で含有されていることは少なく,一般にクロム,タングステン,コバルト,モリブデンなどと共存していることは周知の通りである.そして,これら共存成分のある試料中のバナジウムを定量するのは,いずれの方法によっても相当熟練を要し,一般の分析作業者にとって困難な作業の一つとなっている.
それは,現在知られている鉄鋼中のバナジウム定量方法がいずれも若干の難点を持っているからで,例えば,今回JISに採用された硫酸第一鉄アンモニウム滴定法も旧JES法の過マンガン酸カリウム滴定法にくらべれば,種々すぐれた点を持っているが,なお,かつ,バナジウムを酸化したあと過剰の酸化剤である過マンガン酸を亜硝酸で還元する操作,さらに,微量に生成することのある重クロム酸の影響を亜ヒ酸で除去する操作などに幾分の疑問がある.このJIS法がバナジウム含有量が少量の試料の場合,信頼性が少ないと云われるのは主として,これらの操作に原因があるように考えられる.
そこで筆者は従来の方法の持つ種々の難点を除去し,さらに一層簡単容易な方法について考究した結果,過塩素酸によってバナジウムを酸化し,ただちに硫酸第一鉄アンモニウムによって滴定する方法を案出し,その目的を達し得たので,以下その経過を報告する.
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