分析化学
Print ISSN : 0525-1931
53 巻, 2 号
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総合論文
  • 森 良弘, 上村 賢一
    2004 年 53 巻 2 号 p. 61-69
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    半導体基板材料として用いられるシリコンウェハーには高度な表面汚染制御が要求され,そのための評価手法の一つとして全反射蛍光X線(total-reflection X-ray fluorescence analysis, TXRF)分析法が広く普及している.しかしTXRF法における信号強度は分析対象元素の深さ方向分布に敏感なため,精確な定量分析やクロスチェックを行うためには深さ方向分布の再現性の良い標準試料が必要である.本論文では,その要求を満たす標準試料作製法としてアルカリ性過酸化水素水浸せき法を提案し,その標準試料としての特性を評価した.その結果,本法で作製した試料は濃度水準間・元素間での深さ方向分布の再現性に優れるのみならず均一性も良好であり,TXRF用標準試料に適していることが確認された.そして実際にこの標準試料を定量分析及びクロスチェック実験に利用し,従来の標準試料を用いた場合よりも精確な結果が得られることを示した.
報文
  • 渡辺 邦洋, 山元 良馬, 板垣 昌幸
    2004 年 53 巻 2 号 p. 71-77
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    フローインジェクション分析におけるガラスキャピラリーを利用した予備濃縮法について検討した.ガラスキャピラリー内表面に吸着濃縮されたZn(II),Cu(II),Pb(II),Cd(II) は微少量の希硝酸で溶離することができ,濃縮効率はZn(II): 166倍,Cu(II): 143倍,Pb(II): 394倍,Cd(II): 102倍であった.溶離後は4-(2-ピリジルアゾ)レゾルシノールにより吸光光度定量された.また,本法とアルカリ処理したテフロンチューブを濃縮材として用いた方法を比較した結果,本法の分析感度はテフロンチューブを濃縮材としたときの方法と比べて濃縮時間5分でZn(II): 約5倍,Pb(II): 約4.5倍,Cd(II): 約2.5倍となり,濃縮時間10分でZn(II) は約10倍となった.再現性もガラスキャピラリーのほうが優れており,5分間の濃縮でZn(II) の検出限界(0.07 ppb)は,濃縮なしの誘導結合プラズマ質量分析法と同程度の値が得られた.また,水道水中のZn(II) を定量する場合は,共存するCu(II),Fe(III) をチオ硫酸ナトリウムで,Cd(II) をヨウ化カリウムで,Mn(II) をトリエタノールアミンでマスクキングした.これらのマスキング剤を使用し,水道水中のZn(II) を定量した結果は,誘導結合プラズマ原子発光分析法の結果とよく一致した.
  • 内田 太郎, 樋口 精一郎
    2004 年 53 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,市販の銀粒子を用いて簡便に近赤外励起フーリエ変換-表面増強ラマン散乱(FT-SERS)スペクトルを得る方法を示した.この方法を用いて,置換位置の異なる2種類の構造異性体のピリジン系試料を用いて,近赤外領域において希薄溶液のSERSスペクトルの測定を行った.この方法によって得られスペクトルは通常のラマンスペクトルにより得られたものの約103倍の増強であり,定量を可能にするには十分の強度であった.更に構造化学的に新しい知見を得ることを目的とし,得られたスペクトルの1600 cm-1付近の測定試料による信号波形の違いを強度的に評価を行った.その結果,3位置換体の配座異性が1600 cm-1のショルダーを起こす主な原因と考えられ,ショルダーは配座異性の存在が環を構成する振動の振動形自体が変化を起こさない程度の影響を与えるものと考えられた.
  • 野ざき 修, 宗末 眞徳, 河本 裕子
    2004 年 53 巻 2 号 p. 85-90
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    本研究では,電磁気泳動法による赤血球膜糖化度測定法を開発した.糖尿病患者の死因の大半は血管障害に起因するものであり,その発症予知が糖尿病治療に重要である.現行の糖尿病の日常検査は,主として早朝空腹時血糖及びグリコヘモグロビンA1c(HbA1c)測定で行われているが,これらの検査法では,糖尿患者の細胞障害及び血管障害程度を評価することはできない.本研究は,それを可能にする方法の開発を目的とした.本法の原理は,赤血球膜表面糖量に相関したホウ酸磁気ビーズが赤血球膜に結合し,赤血球膜に結合した磁気ビーズの数に比例して外部磁力の影響を強く受けるので,その電気泳動度が抑制されるというものであった.よって,赤血球のホウ酸磁気ビーズ結合体の分離は,電気泳動(駆動)と磁気引力(制動)を利用して行った.本研究では,ホウ酸磁気ビーズを自家合成して使用した.磁気ビーズ結合赤血球泳動の至適制動用外部磁力を選択するために,3種の外部磁力(0,300及び850 G)を検討した.その結果,外部磁力の強度(0,300,850 G)に応じて磁気ビーズ結合赤血球の電気泳動による泳動度は制動された.検討した外部磁力(3種)のうち,本研究の目的に適した磁気ビーズ結合赤血球の制動を示したのは,300 Gの磁力であった.赤血球の電気泳動と電磁気泳動との移動像を比較したところ2種類の赤血球(HbA1c 5.4%,11.3%)では,いずれも両極方向への移動度が電気泳動よりも電磁気泳動で減少した.この傾向はHbA1c 11.3% の赤血球でいっそう顕著に見られた.その理由は,電気泳動法は赤血球表面電荷度の分布を表しているのに対して,電磁気泳動法では赤血球膜糖化度の分布を表しているためである.糖化度(HbA1c=5.4,7.7,8.6,9.3 及び11.3%)の電磁気泳動への影響を検討したところ,HbA1c値増加につれて磁気ビーズ結合赤血球の両極側への移動距離が共にしだいに減少した.これは,本法は糖尿病高血糖状態に応じて赤血球膜糖付着量の増加を具現化したことを示している.よって,本研究で開発した方法は,血糖状態に応じた赤血球膜糖化度を測定できることが判明した.
  • 坂元 秀之, 山本 和子, 白崎 俊浩, 山崎 秀夫
    2004 年 53 巻 2 号 p. 91-99
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    誘導結合プラズマ三次元質量分析装置(ICP/3DQMS)を用いて,陸水試料中の極微量ウランと主成分元素のナトリウム,マグネシウム,カリウム,カルシウムを迅速に分析する方法を確立した.ICP/3DQMSの感度にかかわるパラメーターとしてイオン取り込み時間とバッファーガス圧力について分析条件の最適化を検討した.本法によるウランの分析精度は標準物質Riverine Water(NRC•CNRC SLRS-4)の分析と実試料への添加回収実験によって検討し,良好な結果が得られた.また,ナトリウム,マグネシウム,カリウム,カルシウムの分析精度は,実試料を用いて,ICP発光分析法によりクロスチェックを行い,これらの元素も精度よく定量できることを明らかにした.本法によるウランの検出限界(空試験溶液のイオン信号強度の3σに相当する濃度)を求めたところ0.7 ng/lであった.琵琶湖湖水及び周辺河川水の分析に本法を適用した.これら元素は河川水では周辺域の環境の影響を受けて比較的大きな濃度変動を示したが,琵琶湖の表層水ではほぼ一定の値を示した.琵琶湖北湖におけるこれら元素の平均濃度はそれぞれU: 22.0 ng/l,Na: 8.3 mg/l,Mg: 2.28 mg/l,K: 1.48 mg/l,Ca: 12.1 mg/lであった.また,成層期の琵琶湖水中でウランの鉛直分布は深度とともに大きく変動した.ウラン及び主成分元素の分析結果から,琵琶湖水系におけるウランの動態に関して興味深い知見が得られた.
  • 小林 仁美, 佐藤 敬一, 澤田 清
    2004 年 53 巻 2 号 p. 101-107
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    炭酸カルシウム(カルサイト)結晶表面上への2価重金属イオンM2+(Co2+,Cu2+,Zn2+,Cd2+,Pb2+)の吸着挙動を25.0℃ で調べた.カルサイトで飽和した溶液から,重金属イオンをカルサイトへ吸着させ,溶液内の金属イオン濃度(CM)及び結晶上の濃度(CM,S)を誘導結合プラズマ質量分析法により測定した.Co2+,Zn2+,Cd2+及びPb2+の分配比(DCM,S/CM)はpHにのみ依存し,pHに対するlog Dのプロットの傾きは2もしくは1~2であった.溶液内における金属イオンのヒドロキソ錯体の生成を考慮した解析により,無電荷のM(OH)2が吸着化学種であることが分かった.一方,Cu2+の分配比はpHに依存せず,カルシウムイオン濃度に依存するという特異性を示した.これらより,吸着化学種は他の金属イオンと異なりCu(CO3) と推測された.結晶の粉砕により生成した粗い表面への吸着の分配比は,熟成した滑らかな表面と比べはるかに大きく,1~2けた大きな値を示した.
技術論文
  • 鈴木 章悟, 岡田 往子, 平井 昭司
    2004 年 53 巻 2 号 p. 109-112
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    機器中性子放射化分析法により,国立環境研究所(NIES)が調製したNIES No.18「ヒト尿」標準物質中の微量元素の定量を行った.約2.5 mlの試料12個を凍結乾燥し,比較標準試料とともに照射した.照射は立教大学原子炉で10秒間及び6時間行った.γ線測定は通常の同軸型Ge検出器によるγ線スペクトロメトリーのほか,同軸型Ge検出器と井戸型NaI(Tl)検出器による反同時測定γ線スペクトロメトリーでも行った.53元素の分析を試みて,15元素が定量できた.認証値が求められているAs,Zn,Seについて,定量値は認証値と誤差範囲内でよく一致していた.
  • 横井 雅弘, 石山 高, 田中 龍彦
    2004 年 53 巻 2 号 p. 113-118
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    塩酸-過酸化水素水で分解した純銅試料溶液(pH約3.2)に5-スルホサリチル酸を添加して鉄(III)のみを選択的に錯形成させ,陰イオン交換樹脂でマトリックス銅と分離する高感度分析方法を開発した.カラム形状,樹脂量,試料溶液組成などの最適化により,定量精度を約2% とすると100% の鉄(III)吸着率が得られ,銅(II)と分離できた.陰イオン交換樹脂に吸着したスルホサリチル酸鉄(III)錯体は2 M硝酸10 mlで溶離した後,黒鉛炉原子吸光法で測定して鉄量を求めた.確立した最適操作条件下で20倍の濃縮効果が得られ,銅中0.16 μg g-1までの鉄が4% 以内の相対標準偏差で定量可能である.有害試薬を用いない簡便な本法を用いて数種類の高純度銅試料を分析した結果は,精度,正確さ共に良好であり,オンライン分析への応用が期待できる.分析所要時間は約3時間であった.
ノート
  • 小林 寛和, 中村 栄子
    2004 年 53 巻 2 号 p. 119-122
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    The molybdenum blue method, a widely used method for the determination of phosphate, is based on the formation and reduction of 12-phosphomolybdic acid, in which ascorbic acid with antimony(III) and tin(II) chloride function as a reductant. In the method, chloride ion in the sample affects the color intensity of the produced molybdenum blue. This phenomenon is called the salt error. The levels of the salt error are known to be less when ascorbic acid with antimony(III) is used compared to when tin(II) chloride is used. The present study examined the difference between ascorbic acid with antimony(III) and tin(II) chloride at levels of the salt error observed in molybdenum blue formation. Molybdenum blue reduced by ascorbic acid with antimony(III) or tin(II)chloride was extracted into MIBK, and the amounts of antimony or tin in the MIBK phase were determined by AAS. The atomic ratios of antimony to phosphorus and tin to phosphorus were determined. When 12-phosphomolybdic acid was formed from 30∼50 μg of phosphate-phosphorus and reduced by ascorbic acid with antimony(III), the antimony to phosphorus ratio was found to be ca.2 in the presence and absence of chloride ion in a sample. Under the same condition, when tin(II) chloride was used, the amounts of tin in the MIBK phase decreased as the chloride ion concentrations of the sample increased, with tin to phosphorus ratios being ca.2 at 0% of chloride ion, and ca.0.7 at 5% chloride ion. The results indicate that chloride ion in a sample reacts with tin(II) forming a complex,thereby, chloride ion interferes with tin(II) associating with molybdenum blue. Meanwhile, because the chloride ion does not form a complex with antimony(III), antimony(III) can associate with molybdenum blue regardless of the presence of the chloride ion.
  • 長濱 敏子, 張 経華, 大脇 博樹, 石橋 康弘, 藤田 雄二, 山崎 素直
    2004 年 53 巻 2 号 p. 123-125
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/05/24
    ジャーナル フリー
    To evaluate the relationship between the metal and chlorophyll contents in dried sea lavers (nori), analyses of metals by ICP-AES and chlorophyll content by a Minolta chlorophyll meter, as expressed by the SPAD value, were performed. Seventy dried sea laver samples including color fading lavers were products from Ariake Sea. The correlations between the contents of Fe, Zn, Mn and the SPAD values was confirmed with the coefficient (R) being 0.774, 0.707 and 0.564, respectively. It was suggested that the SPAD value could be applicable to evaluate the quality of dried sea lavers.
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