分析化学
Print ISSN : 0525-1931
65 巻, 5 号
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年間特集「超」:総合論文
  • 佐々木 直樹, 佐藤 香枝
    原稿種別: 年間特集「超」:総合論文
    2016 年 65 巻 5 号 p. 241-247
    発行日: 2016/05/05
    公開日: 2016/06/07
    ジャーナル フリー
    マイクロ流路を用いて血管モデルを構築し,分析化学的応用を図ってきた.電池及び制御系が組み込まれた小型ポンプを用い,手のひらサイズの細胞培養システムを開発した.これを用いて血管内皮細胞を流路内で培養し,シリンジポンプを用いた系と同等の細胞増殖速度及びタンパク質発現を実現した.さらに,血管に加えてリンパ管の要素を有するモデルを作製し,血管及びリンパ管のバリア機能の評価に利用できることを示した.これをハブ毒のアッセイに応用し,分析時間を24時間から30分に短縮できた.一方,生体内の現象を精密に理解するために,細胞を全く用いずに血管構造を再現することを着想した.ナノ粒子を用いる薬物送達研究への応用を目指し,ナノ粒子の血管壁透過性を無細胞系で評価した.さらに,血管周囲に存在する間質のモデルも作製し,ナノ粒子の間質透過性を定量評価した.これらはin vivo分析とin vitro分析とをつなぐ新たな生体モデルとして,幅広い応用が期待できる.
総合論文
  • 白井 理, 北隅 優希, 加納 健司
    原稿種別: 総合論文
    2016 年 65 巻 5 号 p. 249-258
    発行日: 2016/05/05
    公開日: 2016/06/07
    ジャーナル フリー
    医薬,農薬などの薬物の効能は,それら薬物の摂取された部位から作用部位までの輸送過程と作用部位での反応で決まり,前者は薬物の疎水性に依存し,後者は薬物の化学構造に左右されると考えられている.一般的には輸送過程に関する速度定数(透過係数)は薬物の活性強度と線形関係にあることが知られているが,疎水性が高い場合は逆に反比例する現象も報告されている.そこで,輸送過程では定常状態が維持されていると仮定して,体液(水相)及び膜中の透過係数を膜/水(水/膜)系の分配係数と各相における拡散係数に比例する理論式で表現したところ,薬物の疎水性と活性強度の関係を説明できることが明らかとなった.また,薬物には中性物質も存在するが,カルボキシル基やアミン類等を含みイオンとして存在するものも多い.電荷を持つ薬物(疎水性イオン)の膜透過は単純な拡散ではなく,各相の電気的中性則と各イオンの移動による混成電位となる界面電位差を考えなければならない.そこで,電気的中性を満たすように系に共存する対イオンと共に脂質二分子膜に分配し,疎水性イオンと共存イオン(対イオンを含む)が印加膜電位に応じて共輸送あるいは対向輸送することを解説する.
報文
  • 平尾 法恵, 下山 巖, 馬場 祐治, 和泉 寿範, 岡本 芳浩, 矢板 毅, 鈴木 伸一
    原稿種別: 報文
    2016 年 65 巻 5 号 p. 259-266
    発行日: 2016/05/05
    公開日: 2016/06/07
    ジャーナル フリー
    福島第一原子力発電所の事故による汚染の主な原因である放射性セシウム(Cs)は土壌中の粘土鉱物に強く固定されており,土壌からのCs除染法の開発が重要となっている.廃棄物の減容化を目指した除染法の一つとして,粘土鉱物を加熱することによりCsを蒸発させる研究が試みられているが,1000℃ 以上の高温加熱が必要という問題がある.本研究ではより低温でCsを蒸発させるため,高真空中で加熱することによって粘土鉱物からCsを脱離させる除染法について検討した.非放射性Csを吸着させたバーミキュライトを真空中で等速に加熱し昇温脱離スペクトルを測定したところ680℃ にCsの脱離ピークが認められた.次にNaCl/CaCl2混合塩をバーミキュライトと等量添加したところ,脱離ピークは500℃ に低下し,さらに400℃ にも脱離ピークが認められた.それぞれの試料について加熱前後のX線光電子分光スペクトルを測定した結果,Cs吸着したバーミキュライトのみの場合,800℃ で3分間の加熱により全吸着量の40% のCsが脱離することが分かった.また,NaCl/CaCl2混合塩を等量添加した場合は,450℃ で3分間の加熱により70% のCsが脱離することを見いだした.以上の結果により真空加熱及び,混合塩の添加が低温でのCsの脱離に対して有効であることが分かった.
  • 西尾 友志, 岩本 恵和, 古川 真衣, 勝又 英之, 鈴木 透, 金子 聡
    原稿種別: 報文
    2016 年 65 巻 5 号 p. 267-273
    発行日: 2016/05/05
    公開日: 2016/06/07
    ジャーナル フリー
    pH応答ガラスが発見されてから,100年以上経過した現在でも,いまだにガラス電極の電位発生機構の議論がなされている.そのpH応答機構の解明の手がかりを得るために,SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry)やESCA(Electron Spectroscopy for Chemical Analysis)などの表面元素分析法を用いて,深さ方向におけるpH応答ガラスの元素分析を行った.その結果,水に浸漬させたあとの表面層とバルク層において,元素の構成比率が異なることが分かった.最表面から水素イオンとリチウムイオンがおおむね一定となったところまでを,本研究では水和遷移層(水和層)と見なし,この水和層におけるHとLiがpH応答に対して大きな役割を果たしていると思われる.このpH応答機構では,pH応答ガラス表面で相界電位が生じていると考えられる.さらに,水和層の厚さがpH応答速度に影響し,厚さが薄いほど応答速度が速くなることが分かった.
  • 藤森 英治
    原稿種別: 報文
    2016 年 65 巻 5 号 p. 275-281
    発行日: 2016/05/05
    公開日: 2016/06/07
    ジャーナル フリー
    誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で海水中ng L-1レベルのCdを定量する際に問題となるMoOの干渉を低減するために,キレート樹脂濃縮分離法におけるMoの選択的除去法を確立した.イミノ二酢酸を官能基に有するキレート樹脂固相カラムを使用し,海水試料に容積比で過酸化水素を2% 添加することで,濃縮液中のMo濃度を0.1 μg L-1以下に低減することができた.その結果,ICP-MSによるCdの分析においてMoOによる多原子イオン干渉を完全に除去することが可能となった.本法を用いてpH 5.0において海水試料の25倍濃縮を実施した場合の添加回収率は98.6±1.0%(n=4),分析検出限界は0.06 ng L-1であり,非汚染海域のCdの分析に十分適用可能なレベルであった.また,Fe, Ni, Cu, Zn, Pb, 希土類元素等の同時濃縮も可能であることが分かった.本法の有効性は,National Research Council Canada(NRCC)より頒布されている海水認証標準物質の分析により確認した.また,実際試料としてサンゴ礁海域の海水試料の分析に適用し,数ng L-1レベルのCdを精度よく定量することができた.
ノート
  • 長谷部 誉人, 広島 千早紀, 東 良太, 吉野 将紀, 岡部 勝美, 安保 充
    原稿種別: ノート
    2016 年 65 巻 5 号 p. 283-288
    発行日: 2016/05/05
    公開日: 2016/06/07
    ジャーナル フリー
    Major nutrients in a NFT spinach hydroponic solution, cations (K+, Ca2+, Mg2+, Na+) and anions (NO3, SO42−, H2PO4−), were analyzed by CE with capacitively coupled contactless conductivity detection (C4D). C4D was fitted on a fused silica capillary (i.d., 50 μM; o.d., 375 μM; total length, 60 cm) at the position of 45 cm from an inlet. Electrophoresis buffers were 12 mol L−3 histidine - 117 mol L−3 acetic acid (pH 3.7) (cation analysis), and 10 mol L−3 histidine - 50 mol L−3 malic acid (pH 3.0) (anion analysis). All peaks were completely separated and linear calibration ranges were between 20 mol L−6 and 500 mol L−6 (K+), 20 mol L−6 and 1000 mol L−6 (NH4+, Ca2+, Na+, Mg2+), 100 mol L−6 and 1000 mol L−6 (anions). The obtained results were verified using ICP-OES and ion chromatography. As an actual application, the major nutrients of the NFT hydroponic solution of spinach cultivation were successfully measured.
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