分析化学
Print ISSN : 0525-1931
66 巻, 11 号
選択された号の論文の10件中1~10を表示しています
総合論文
  • 斎藤 恭一, 浅井 志保
    原稿種別: 総合論文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 771-782
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    レアメタルの分析や精製に用いる高分子吸着材を,放射線グラフト重合法を適用して作製した.ポリエチレン製の多孔性の膜やシート,及びナイロン繊維を基材に選び,グラフト鎖を付与したのち,レアメタル捕捉構造を固定あるいは抽出試薬を担持した.まず,核酸塩基の一つであるアデニンを,ポリエチレン多孔性中空糸膜に付与したグラフト鎖に固定し,パラジウム溶液を膜内面から外面まで透過させながら,パラジウムのイオン種を特異的に捕捉した.アデニン固定量は0.85 mmol g−1であり,イオン交換樹脂ビーズのイオン交換基密度の半分程度であった.つぎに,酸性抽出試薬であるリン酸ビス(2-エチルヘキシル){Bis(2-ethylhexyl) phosphate, HDEHP}をポリエチレン多孔性シート及びナイロン繊維に付与したグラフト鎖に担持した.HDEHP担持密度3.4 mmol g−1のHDEHP担持多孔性シートにイットリウム溶液を透過させると,孔内部での拡散物質移動抵抗を無視できるため,透過流量によらずイットリウムイオンがシートに捕捉された.HDEHP担持繊維を充填したカラムにネオジムとジスプロシウムを負荷して,塩酸を使って溶出クロマトグラフィーを行った.HDEHP担持ビーズ充填カラムに比べて,HDEHP担持繊維充填カラムは高負荷量かつ高速でネオジムとジスプロシウムを分離できることを実証した.さらに,ドデカンチオール基と抽出試薬ジオクチルスルフィドとを共存させた繊維を作製し,濃塩酸中でパラジウムのアニオン種を特異的に捕捉できることを示した.
  • 半田 友衣子, 大井 健太, 成田 弘一, 田中 幹也, 脇坂 昭弘
    原稿種別: 総合論文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 783-796
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    水を溶媒として用いる環境調和型な高選択的ランタノイド相互分離法の開発を目指して,リン酸エステルが形成する配位高分子を利用するイオン交換と沈殿分離を検討した.イオン交換では,ランタノイド系列における選択性に差があり,水溶液系でランタノイド相互分離できる可能性が示唆された.さらに,イオン交換率に依存して選択性が変化する現象を捉えた.これは,配位子─金属イオン間の"静電力"に加えて,"配位高分子骨格に対するイオンサイズ適合性"が寄与するためと考えられ,従来のイオン交換とも溶媒抽出とも異なる選択性の発現に成功したと言える.さらに,リン酸エステル配位高分子の微粉末をクライオゲル化してモノリス形状にする方法を考案し,イオン交換の分配係数と速度定数の向上が可能であることを示した.分別沈殿では,Nd3+とDy3+の相互分離に焦点を絞り,無機塩生成を利用する場合よりもはるかに優れた分離が可能であることを明らかにした.
  • 長縄 弘親
    原稿種別: 総合論文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 797-808
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    近年,日本原子力研究開発機構(JAEA)において開発された新しい液液抽出法,"エマルションフロー法"は,簡便さと低コスト,高効率とコンパクトさ,安全性と環境調和性を兼ね備えた革新的な手法として注目されている.エマルションフロー法では,水相の流れに対向してマイクロメートルサイズの油相の液滴を噴出させることで,乳濁状態(エマルション)に至るまで両相を混合することができるため,送液のみにより,高効率な液液抽出を行うことができる.その一方で,エマルション流の通過断面積を急激に大きくした容器構造において,乳濁状態は迅速かつ完全に解消されるため,小型の装置で大きな処理スピードを実現できる.エマルションフロー法は,従来の工業的な液液抽出の方法との比較において,スプレーカラムに勝る最も低いコストと遠心抽出器に匹敵する最も高い性能(高抽出効率,迅速)を両立させる.また,液液界面への微粒子の凝集を利用した固液分離,きわめて優れた相分離を利用した油水分離にも有用である.
報文
  • 上原 伸夫, 平子 大彰, 山口 東洋司, 花田 一利, 藤本 京子
    原稿種別: 報文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 809-815
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    製鋼スラグからセシウム(I) を吸着する吸着材を創製した.メタケイ酸ナトリウムを含む水酸化ナトリウム水溶液を用い還流条件において製鋼スラグを処理することにより,製鋼スラグにセシウム(I) に対する吸着能が発現した.処理条件(メタケイ酸ナトリウムの濃度及び水酸化ナトリウムの濃度)が及ぼすCs(I)吸着能力への影響を検討した.創製した吸着材のキャラクタリゼーションをX線回折分析(XRD),蛍光X線分析(XRF)及び走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行った.セシウム(I) の吸着はスラグ表面に形成したケイ酸起源の堆積層によって生じた.
  • 梅谷 重夫, 佐々木 ゆかり, 宗林 由樹, 向井 浩, 山崎 祥子
    原稿種別: 報文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 817-824
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    トリフルオロアセチルシクロアルカノン類と数種のβ-ジケトンによる13族金属,亜鉛の相互抽出分離が検討された.抽出試薬の配位原子間距離(バイトサイズ)は密度汎関数法により計算され,13族金属の抽出に大きな影響を与えることが確認された.トリフルオロアセチルシクロヘキサノン,トリフルオロアセチルシクロヘプタノン,フェニルアセチルアセトン,フェニルベンゾイルアセトンでは6,7員環構造,α位のフェニル基の効果により配位原子間距離が小さくなり,これらの抽出試薬ではInが全く抽出されなかった.Alの抽出では配位子間接触(インターリガンドコンタクト)の効果が見られた.Znはトリフルオロアセチルシクロアルカノン類により13族金属よりはるかに高pH側で抽出され,容易に13族金属から分離可能である.
  • 小南 晴之, 鈴木 美成
    原稿種別: 報文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 825-837
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    タンデム四重極型誘導結合プラズマ質量分析法を用いて貴金属元素{NME,(Ru, Rh, Pd, Os, Ir, Pt, Au)を含む}67元素の網羅的測定を行った.最適化したNH3ガス条件下で共存するマトリックスによるNMEへのスペクトル干渉を低減することができた.分析の妥当性は河川水の認証物質であるSLRS-5で確認し,NMEを含め認証値,報告値,推定値と良い一致を示し,ng L−1以下レベルの定量を分離・精製をせずに行うことができた.最適化した分析条件を島根県東部の湧水及び河川水に適用し,67元素の網羅的測定を行った.まずは,クラスター分析を用いて元素を統計学的に分類したところ,RhがNa, Mg等を含むクラスターに分類されるなど,必ずしも化学的性質を反映した結果とは言えなかった.次に,地球化学的な視点から,67元素の存在度を化学的に分類したところ,四つの基本パターンとその組合せに分類することができ,その元素パターンの地理空間分布は地質分布と良い一致を示した.一方で,化学的な観点からは説明できないRhの地理空間分布は,道路密度の地理空間分布と良い一致を示しており,排気ガス浄化触媒との関連が示唆された.
  • 田端 正明, 上田 晋也
    原稿種別: 報文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 839-846
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    三重津海軍所(佐賀市川副町,諸富町)から出土した磁器の生産地を推定するために,三重津海軍所が稼働した幕末期に鍋島藩の肥前で磁器を製造していた窯跡{年木谷(有田町),広瀬向(有田町),志田東山(嬉野市塩田町),波佐見(波佐見町)}から出土した磁器(135点)についてシンクロトロン蛍光X線分析を行い,三重津海軍所出土磁器(24点)と比較した.磁器の胎土成分であるRb,Sr,Y,Zr,Nbの蛍光強度比について,log(Rb/Sr)vs. log(Zr/Sr),(Fe/Rb)vs.(Sr/Rb)及び(Rb/Nb)vs.(Zr/Nb)の関係を調べた.水簸工程における元素の移動に着目した(Rb/Nb)vs.(Zr/Nb)のプロットから,出土磁器の生産地を三つのグループに分類することができた.同様に,三重津海軍所出土磁器の碗も種類によって三つのグループに分類された.二つのプロットの類似性より三重津海軍所出土磁器の産地を推定した.
技術論文
  • 松浦 直也, 今井 奏子, 山田 正, 林部 豊, 梯 伸一郎
    原稿種別: 技術論文
    2017 年 66 巻 11 号 p. 847-852
    発行日: 2017/11/05
    公開日: 2017/12/05
    ジャーナル フリー
    製錬工程排水中のフローインジェクション分析装置(FIA)によるAs自動分析装置の開発を行った.装置経路内で過マンガン酸カリウムを用いAsをV価とし,次にAsとモリブデン酸アンモニウムを反応させてAsモリブデンブルー錯体を吸光光度計で測定することにより,Asに対して選択性のある分析系を構築した.製錬排水工程試料中の広範なAs濃度範囲に対応可能なように,試料サンプリングバルブにサンプリング量の異なる2種類を組み込み,さらに後段にある吸光光度計に光路長の異なる液体セルを2個組み込むことにより,最大3000倍異なるAs濃度の製錬排水工程試料の定量的な測定を可能とした.As 10 mg L−1の標準液を1か月間にわたりメンテナンス無しで連続170回測定したところ,全測定の相対標準偏差(% RSD)は1.1% であり,開発した装置の長期安定性を確認した.また当社銅製錬所の製錬排水工程試料に適用したところ,排水濃度0.01~30 mg L−1の範囲で測定可能なことを確認した.本装置は既に実際の製錬現場で稼働しており,低ランニングコスト,長期メンテナンスフリーでの運用が可能である.
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アナリティカルレポート
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