分析化学
Print ISSN : 0525-1931
68 巻, 5 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
年間特集「粒」: 総合論文
報文(若手初論文)
  • 竹内 理子, 力石 嘉人, 小川 奈々子, 風呂田 郷史, 大河内 直彦, 青木 元秀, 内田 達也, 梅村 知也, 熊田 英峰
    原稿種別: 報文(若手初論文)
    2019 年 68 巻 5 号 p. 297-306
    発行日: 2019/05/05
    公開日: 2019/06/11
    ジャーナル フリー

    生物や環境試料中に含まれる有機化合物の同位体組成は,物理的,化学的,あるいは生物的な過程を経てわずかに変化する.したがって,起源特異的なバイオマーカーの同位体組成を化合物ごとに分析できれば,生物の代謝や生態を探ることが可能となる.しかし,環境試料中には非常に多くの成分が存在しており,高分解能ガスクロマトグラフィー(gas chromatography, GC)をもってしても化合物レベル安定同位体比分析に必要な成分相互の完全分離は困難である.本研究では,高等植物を分析対象として,シリカゲルカラム固相分画と順相高速液体クロマトグラフィー(normal phase - high performance liquid chromatography, NP-HPLC)によりステロール類と脂肪酸をそれぞれ別の画分に分取する分離精製法を検討した.なお,本法ではエステル型で存在するステロールや脂肪酸と区別するため,けん化処理を施さずに実験を行った.ブナ科コナラ(Quercus serrate)から抽出,精製して得たステロール画分をアセチル化,脂肪酸画分をメチルエステル化してガスクロマトグラフ燃焼同位体比質量分析計(gas chromatograph - combustion - isotope ratio mass spectrometer, GC-C-IRMS)で分析したところ,stigmast-5-en-3-β-ol(β-シトステロール)並びに長鎖飽和脂肪酸(C2628)については,同位体比測定の妨害となるような近接ピークが存在しないBase-to-Base分離を達成した.また,標準物質を用いた検討により,前処理全体での目的成分の回収率は110〜125%,δ13C値の変化は<1‰ であり,同位体比保存的な分離精製であることを確認した.本法を用いて,2018年4月と10月に採取したコナラの生葉中のβ-シトステロールと長鎖脂肪酸のδ13C値を測定したところ,10月に得られたδ13C値は1.4‰,4月に比べて低くなる傾向が見られ,光合成同位体分別の季節変動と調和的な結果が得られた.

  • 八木 祐介, 天野 久美, 光岡 拓哉, 加藤 雄一
    原稿種別: 報文(若手初論文)
    2019 年 68 巻 5 号 p. 307-314
    発行日: 2019/05/05
    公開日: 2019/06/11
    ジャーナル フリー

    アクリロニトリル─ブタジエン─スチレン共重合体(ABS樹脂)/無電解NiめっきにおけるABS樹脂のエッチング処理が密着強度に影響を及ぼす因子の定量評価法を検討した.ABS樹脂をエッチング液(CrO3/H2SO4溶液)に浸漬する時間を変えた際のABS樹脂表面を走査型電子顕微鏡,走査型プローブ顕微鏡(SPM),赤外分光法(IR),リアルタイム直接質量分析法により分析し,密着強度と比較した.その結果,物理的因子の表面凹凸形成による界面の密着力向上はSPMによる表面積増加率で,化学的因子の酸化劣化による母材強度低下はGe結晶を用いたIR分析によるスチレン基に対する酸化官能基量(C=O/Ph (Ge))で指標化できることが分かった.また両因子の寄与は,重回帰分析により定式化(y=−0.022x1+48.99x2,補正R2=0.67,y: 予測密着強度,x1: 表面積増加率,x2: C=O/Ph (Ge))できることを見いだした.本手法はABS樹脂/無電解Niめっきの密着強度を予測するための簡易的な定量法になりうると考える.

総合論文
  • 東海林 竜也
    原稿種別: 総合論文
    2019 年 68 巻 5 号 p. 315-324
    発行日: 2019/05/05
    公開日: 2019/06/11
    ジャーナル フリー

    光の力学作用である「光圧」を利用し,溶液中の赤血球や細菌などのマイクロ微粒子を操作する光ピンセット技術が,2018年ノーベル物理学賞の研究テーマの一つであることは記憶に新しい.この手法を用いればナノ粒子,さらには分子をも捕捉できると期待されるが,その実現は極めて困難である.これに対し,著者らはナノ構造の電場増強効果を利用した光ピンセット技術を駆使し,分析化学への展開を進めている.本稿では大きく三つのトピックについて述べる.まず,集光レーザー型光ピンセットを用いた,相分離した温度応答性高分子液滴中の高分子濃度決定法について述べる.次に,プラズモンナノ構造体の電場増強効果を用いたプラズモン光ピンセットについて紹介し,本手法を用いる水溶液中に微量に溶解した有機分子の抽出・検出法について述べる.最後に,著者らが開発した半導体ナノ構造を用いた新奇光ピンセットについて述べる.

  • 国村 伸祐, 菅原 悠吾, 徳岡 佳恵, 青野 海奈, 杉岡 大志郎, 袋井 祐佳, 寺田 脩一郎
    原稿種別: 総合論文
    2019 年 68 巻 5 号 p. 325-332
    発行日: 2019/05/05
    公開日: 2019/06/11
    ジャーナル フリー

    本稿では,これまでに著者らが行ってきたポータブル全反射蛍光X線分析装置を用いた微量元素分析法の改良に関する最近の研究成果について述べる.低真空下で全反射蛍光X線スペクトルの測定を行い空気による入射X線の散乱を低減させることにより,スペクトルのバックグラウンドを大幅に低減させ検出限界を改善する方法を概説し,空気中及び低真空下で測定したスペクトルの比較例及び2 ngのセレンを含む試料の低真空下での測定例を示す.コバルトイオンを有するシアノコバラミン(ビタミンB12)の固相抽出を行い分離濃縮したビタミンB12に由来するCo Kα線を測定することにより,ビタミンB12を分析する方法及びこの方法を用いることにより,ng mL−1(μg L−1)レベルのビタミンB12分析が行えることを概説し,市販のビタミンB12を含む錠剤を測定した例を示す.また,固相抽出はアルミニウムの検出感度を向上させるためにも有効であることを示し,茶浸出液中のアルミニウムを測定した例を示す.さらには,高塩分試料の微量元素分析を行うための前処理として固相抽出が有効であることを概説し,本装置と固相抽出カラムを組み合わせて利用する方法を用いてμg L−1レベルのマンガン,鉄,銅及び亜鉛を含む高塩分試料を測定した例を示す.

技術論文
  • 川端 訓代, 北村 有迅, 冨安 卓滋
    原稿種別: 技術論文
    2019 年 68 巻 5 号 p. 333-338
    発行日: 2019/05/05
    公開日: 2019/06/11
    ジャーナル フリー

    岩石から放出されるラドンは水に対する溶解度が高く,地殻内では流体とともに移動する.ラドンの放出量は岩石の亀裂や流体と岩石の接触比に比例して増減するため,亀裂発生や歪状態の変化など地殻内情報を得るために地下水中のラドン濃度が測定されている.水中ラドンは,採取後に壊変に加え大気への拡散によって減少し続けるため採取地にて測定が行われてきた.本実験では水中ラドン濃度測定を実験室で行うため,ポリエチレン保存容器内から大気へ放出するラドンの拡散係数を求め採取時の水中ラドン濃度の推定を試みた.鹿児島県桜島の三つの温泉水を試料とし,保存容器内の水中ラドン濃度の時間変化から拡散係数を推定した.その結果,1.6〜2.4 × 10−11 m2s−1(平均: 1.90 × 10−11 m2s−1)の拡散係数が得られた.これらの値は既往研究におけるポリエチレン素材フィルムを透過する際のラドンの拡散係数と似た値を示しており妥当な値を得たと考えられる.本研究で提示した式は,推定値の誤差を小さくするためラドンの半減期以内に測定を行うことが必要となる.推定値誤差として,推定値残差が測定値幅を上回ることから,本実験で得た予測式を用いる場合,最大推定値残差(約20%)を付することが適切である.

ノート
  • 初 雪, 布施 泰朗
    原稿種別: ノート
    2019 年 68 巻 5 号 p. 339-342
    発行日: 2019/05/05
    公開日: 2019/06/11
    ジャーナル フリー

    It has become clear that 1,4-dioxane exists not only as a contaminant in aquariums, but also in the atmosphere at a constant concentration. It has been reported that 1,4-dioxane is produced from the highly reactive lime in bag filters from industrial waste incineration treatment facilities; however, the source of the 1,4-dioxane that is released to the atmosphere is primarily surfactant manufacturing plants. In this study, in order to clarify the mechanism of 1,4-dioxane formation in a bag filter coated with highly reactive lime, and to accurately evaluate the amount of 1,4-dioxane produced from a certain amount of this highly reactive lime, headspace-GC/MS was explored as an analytical method. The formation of 1,4-dioxane in the bag filter was successfully reproduced. In addition, the amount of 1,4-dioxane produced for 2.0–40 μg g−1 of lime was found. Also, Headspace-GC/MS was found to be the only evaluation method that could be used to study highly reactive lime without generating 1,4-dioxane. Further, it is an excellent method for confirmation when selecting highly reactive lime for use in industrial-waste incineration treatment facilities.

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