分析化学
Print ISSN : 0525-1931
71 巻, 10.11 号
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総合論文
  • 梶原 朋子, Ying Jun AN, Adchara PADERMSHOKE, 熊谷 明美, 丸林 弘典, 池本 夕佳, 陣内 浩司, 磯 ...
    原稿種別: 総合論文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 541-547
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    プラスチックは現代社会においてさまざまな用途で使われており,持続可能な社会を形成するための重要な要素である.一方で,環境に誤って放出されたプラスチックが,マイクロプラスチック(MP)やナノプラスチックとなり,土壌,河川,海洋などで環境汚染を引き起こしていることも明らかになっている.本論文では,日本近海で採取したポリオレフィンMPを中心に,それらの構造と物性をラマン分光,放射光赤外吸収分光,透過電子顕微鏡観察,放射光X線回折,ナノインデンテーションなどの先端分析手法により評価し,MPの形成,光酸化による劣化と欠片化の機構を議論した.

  • 熊谷 将吾, 吉岡 敏明
    原稿種別: 総合論文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 549-561
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    熱分解反応は熱によりさまざまな化学結合を切断するため,多種多様な高分子を低分子に分解することができる.よって,材料科学,資源利用化学,環境学,食品科学,法科学,芸術学,考古学等,さまざまな分野で応用されている化学反応である.熱分解ガスクロマトグラフィー(Py-GC)はマイクログラムオーダーの微量試料の熱分解から熱分解生成物のガスクロマトグラフによる分析まで,一気通貫で行える分析手法であり,先述の広範な分野で活用されている.著者らは,廃プラスチック等の高分子を熱分解法により化学原料に転換する,ケミカルリサイクルプロセスの開発に取り組んでおり,そのプロセス開発にPy-GCを応用する研究を行っている.本稿では,ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリカーボネート(PC)及びポリウレタンエラストマー(PUE)の熱分解プロセス開発において,Py-GCの比較的新しいシステムである「タンデム μ-リアクター─GC(TR-GC)システム」を応用した研究を取りまとめ体系化する.

報文
  • 尾関 優香, 北川 慎也, 大谷 肇, 近藤 洋輔, 品田 弘子
    原稿種別: 報文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 563-570
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    ラジカル重合で合成されたスチレン/アクリル酸n-ブチル共重合体(数平均分子量2700,重量平均分子量6100,多分散度2.3)の解析を2種類の質量分析法を用いて行った.マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法(MALDI-MS)では,分子量約5000までシグナルが観測され,一方でエレクトロスプレーイオン化─イオンモビリティスペクトロメトリー質量分析法(ESI-IMS-MS)では,IMS分布図から4価として観測された分布にm/z 2200付近までシグナルが観測されたことから,分子量約9000まで観測することができた.ESI-IMS-MSから得られた抽出MSスペクトルをKMDプロットにより解析したところ,再結合停止反応により生成したと推測される両末端開始剤由来の共重合組成を,最大分子量7800まで解析することに成功した.これは,サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって求められた標準ポリスチレン換算分子量分布の約80% に相当し,ESI-IMS-MSの利用が多分散度の高い合成高分子の解析に有効であることを示すことができた.

  • 大谷 肇, 杉本 沙哉佳, 平野 美智子, 加藤 浩一, 塩飽 俊雄, 横田 俊明
    原稿種別: 報文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 571-578
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    4-ヒドロキシ安息香酸,イソフタル酸及び4-アミノフェノール単位からなる,三元共重合型全芳香族液晶ポリエステル(LCP)試料について,それらの分子構造解析結果をもとに,当該LCPの重合反応過程の解明を試みた.反応温度を徐々に上昇させながら縮合反応させる重合の各段階で逐次サンプリングして,重合度の異なる7種類のLCP試料を調製した.これらをまず有機アルカリ共存下での反応熱分解ガスクロマトグラフィー測定した結果,反応系の温度が比較的低い(約250℃)重合初期では,アミド結合が優先的に形成されるが,重合温度の上昇に伴ってエステル結合の生成も進み,反応温度300℃ 以上の重合中期以降は両者の生成率はほぼ等しくなることがわかった.次に,これらのLCP試料をマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析測定して得られたマススペクトル上には,重合初期段階に主に観測されたカルボキシル及びアセチル基末端を有する生成物のピークが重合の進行に伴い減少し,代わってフェノキシ及び水酸基末端を有する生成物の増加が確認された.これらの結果から,重合温度の上昇に伴って末端基における脱炭酸反応,並びに脱ケテン反応が進行することが示唆された.

  • 松本 良憲, 植田 佳世, 春日 翔, 榎本 航之, 菊地 守也, 鳴海 敦, 川口 正剛
    原稿種別: 報文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 579-588
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)に多角度光散乱光度計(MALS)を取り付けたSEC-MALSは,高分子の重量平均分子量(Mw)や根平均二乗回転半径などの基礎物性値を評価する分析装置として広く利用されている.MALSと示差屈折率計(RI)間の検出器間体積(interdetector delay volume, IDV)の値は測定値の信頼性に関わる重要な装置定数であるが,これまで信頼性高く決定できる方法は知られていない.本論文は,IDV値を信頼性高く決定する方法について報告する.Mwが1万〜110万の標準ポリスチレン(PSt)に対して25℃,流速度(U)を0.1〜1.0 cm3 min−1の範囲で変化させてSEC-MALS測定を行い,IDVに及ぼすUMwの効果について検討を行った.SECカラム内及び検出器間のバンドブロードニング効果がUMwの関数としてまとめられた.IDV値はカラムの理論段高と検出器間で起こる非対称乱れを最小限(U→0及びMw→0)にしたときに信頼性高く得られることが分かった.真IDV値を用いたSEC-MALSは分子量分布が広い試料はもとより標準PStのMwと数平均分子量Mn,さらには微分重量分布関数の絶対値を高精度で与える.

技術論文
  • 生田 久美子, 高尾 和也, 松本 良憲, 雪岡 聖, 片岡 弘貴, 田中 周平
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 589-593
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    近年,マイクロプラスチック(MPs)による環境問題が大きく取り上げられ,環境中におけるMPsの生成メカニズムについて研究が進められている.プラスチックが環境中のどこで,どの程度の劣化履歴(紫外線など)を受けてMPs化しているのかを把握することがMPs流出抑制につながると考えられるが,劣化履歴を調べる方法は確立されていない.MPsは微量,微小であることから劣化状態の解析手法が限られるが,フーリエ変換赤外分光法(FT-IR),サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)及び微小硬度計を用いることで劣化状態の評価手法を構築した.本研究では,UV照射したポリエチレンをモデル試料として適用し,カルボニルインデックス,分子量及び硬度から劣化の指標を得た.次に,環境中から採取したMPsを指標と比較することでMPsの屋外曝露(ばくろ)年数を推定した.

  • 加賀美 智史, 穂坂 明彦, 中村 貞夫
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 595-602
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    オフフレーバー(異臭)が原因となるトラブルは材料や化成品業界における解決すべき問題のひとつであり臭気物質を特定することが重要である.本報では高い分離能力と定性能力を持ち,簡便かつ高感度な分析が可能な固相マイクロ抽出─GC/MSと異臭成分に特化したマススペクトルデータベース及びクロマトグラムデコンボリューション,統計解析など近年GC/MSのデータ解析に応用が広がっている新しい技術を組み合わせた,臭気成分を分析するためのワークフローを提案し,その有効性を検討した.本手法を用いて,酸素共存下で加熱して酸化劣化させ焦げ臭を帯びさせた天然ゴムの臭気成分を特定することを試みた.その結果,フラン類,チオフェン類などを焦げ臭の原因物質として推定することができた.

  • 前山 未来, 安孫子 勝寿, 加藤 雄一, 須藤 栄一
    原稿種別: 技術論文
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 603-608
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    カーボン材料が可視光領域で吸収を持つことに着目し,この性質を利用してラマンスペクトル測定時の蛍光に由来するベースラインの上昇の抑制を試みた.実験には,蛍光剤を含むエポキシ樹脂にカーボン材料を添加した試料を用いた.蛍光強度に対するエポキシ樹脂のラマン強度を相対ラマン強度と定義し,カーボン材料の濃度やカーボン種の影響を調べた.相対ラマン強度は大きいほど蛍光を抑制する効果が高いことを示す.調査の結果,カーボンブラックの場合,試料に対して3.0 mass% の濃度で最も高い相対ラマン強度を示し,蛍光によるベースライン上昇が抑制された.また,8種類のカーボン材料のうち,ケッチェンブラックが最も高い相対ラマン強度を示した.カーボン材料の可視光領域での吸光係数を調査した結果,吸光係数が高いカーボン材料ほど相対ラマン強度が高くなった.よって,カーボン材料を利用した蛍光の抑制にはカーボン材料による蛍光の吸収が深く関わっていると推測する.

ノート
  • 鈴木 宏武, 大谷 肇
    原稿種別: ノート
    2022 年 71 巻 10.11 号 p. 609-612
    発行日: 2022/10/05
    公開日: 2022/11/08
    ジャーナル フリー

    発生ガス質量分析(EGA-MS)は,高分子の昇温加熱による分解挙動を観測する手法として活用されている.最近,高分子の実使用条件に即した空気雰囲気下でのEGAにより生成した分解生成物をMSに導入する前に,ヘリウムを追加して空気を稀釈(きしゃく)することにより感度の低下を防ぐ方法が開発された.しかし,MSとして一般に用いられる四重極型MSでは質量分解能が制約されるため,整数質量が同じ熱分解生成物と酸化分解生成物が区別できない.そこで本研究では,検出部に精密質量を計測することができる高分解能飛行時間型MSを備えたシステムにより,ポリプロピレン(PP)の空気雰囲気下におけるEGA-MS測定を行い,酸化分解生成物と熱分解生成物のそれぞれに特徴的なフラグメントイオン(CH3CO; m/z 43.018及びCH3CH2CH2; m/z 43.054)を識別して解析することに成功した.また,PPの昇温熱分解時の空気流量の影響を調べた結果,流量が増加するほど酸化分解の寄与が大きくなる傾向が確認できた.

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