分子吸着膜は摩擦低減及び摩耗抑制において重要な役割を担う.しかし,実際の潤滑条件下での分子挙動は,単〜数分子層という膜厚の極薄さゆえに,その場で高感度に計測可能な化学分析手法が限られ,十分に解明されていない.和周波発生(Sum Frequency Generation, SFG)分光法は,界面選択性と高感度を兼ね備え,界面分子の振動情報及び配向解析を可能にする点で有力である.本稿は,SFG分光法による摩擦界面のその場観察に関する近年の進展を概説し,界面分子挙動の理解と分子吸着膜による潤滑機構の再検討に資する最新知見を紹介する.
光の波としての電磁波と,金属ナノ構造体に生じるプラズモン波は,ナノスケールでの物質操作に特異的な力学場を形成する.本総説では,まず光圧と熱泳動に基づく光捕捉の原理を概説し,光波及びプラズモン波を利用した捕捉機構を整理する.次に,プラズモン光ピンセットにより実現される高効率なナノ粒子捕捉と,光圧と光熱効果の協奏による相分離 · 液滴形成などの特異な現象について述べる.さらに顕微分光法を組み合わせた単粒子分光分析の応用を紹介し,光捕捉場を利用した物性評価や化学センシングの可能性を考察する.加えて,チタンナノリンクル構造体を用いたノンプラズモニック光捕捉の新展開にも触れ,最後に光とプラズモンの“波”を基盤とした新たな光捕捉技術の展望を示し,分析化学における光ピンセットの活用が拓く未来像を論じる.
光エネルギー変換の高効率化には,光吸収の波長制御と光キャリヤー生成効率の向上が重要な課題である.本総合論文では,金属ナノ粒子やナノ構造体を用いた波長調整技術の最新動向を,著者らの最近の取り組みを中心に概観する.粒径や形状の精密制御により,局在表面プラズモン共鳴(LSPR)を最適化でき,広範囲の光スペクトル吸収が可能となる.また,ナノ粒子アレイや複合構造を用いた光捕集効果との組み合わせにより,光エネルギー変換性能の大幅な向上が期待される.さらに,プラズモン誘起電荷分離(PICS)により,光吸収のみならずキャリヤー生成効率の飛躍的改善も実現可能である.本総合論文は,波長調整とPICSを軸としたナノプラズモニクス応用の現状と将来展望を整理し,次世代高効率光デバイス開発への指針を提供するものである.
分析化学的手法を基盤として,プラズモニックナノ粒子と光機能性材料からなる複合体の構造をナノスケールで精密に制御する技術の開発と,その機能創出について体系的に論じる.特に,金属ナノ粒子が示す局在表面プラズモン共鳴(LSPR)に由来する光アンテナ効果を最大限に引き出すための材料設計指針を確立し,微弱な光刺激に対しても高感度に応答する光学センシングシステムの構築に成功した.さらに,プラズモニックナノ粒子とp型半導体界面において進行するプラズモン誘起電荷分離(PICS)に着目し,従来の半導体光触媒とは異なる原理に基づく新しい光応答 · 光検出機構を提案するとともに,その光学センシングへの応用可能性を実証した.これらの知見を基に,水素発生光触媒への展開を図り,分光測定及び電気化学計測を組み合わせた分析により,界面での電荷移動及び反応機構の詳細を明らかにした.本論文で示す一連の研究成果は,微弱な光エネルギーを高効率に捕集 · 変換するための新たな分析 · 計測戦略を提示するものであり,環境計測,分光分析,光エネルギー変換を横断する次世代光機能材料研究の発展に貢献する.
液中を伝播する音響的な「波」である超音波は,静的な溶液を動的な反応場へと変える.本研究では,塩化金(III)酸水溶液及び塩化金(III)酸/酸化チタン粉末懸濁水溶液に超音波(430 kHz, 100 W)を照射した際の金(III)錯体の還元挙動を,紫外可視吸収スペクトルの時間変化から解析した.酸性条件(pH 2)では,金(III)錯体アニオン種は正に帯電した酸化チタン表面へ静電的相互作用により単分子吸着した.酸化チタン粉末を含む酸性懸濁水溶液においてのみ,超音波照射下での金(III)錯体還元反応の顕著な促進,すなわち超音波触媒効果を発現した.詳細な速度論解析の結果,金(III)錯体還元は,水のホモリシスに由来する水素ラジカルによる液相反応と,酸化チタン表面に誘起された励起電子による表面電子移動反応の2経路が競合して進行すると判明した.本系における超音波触媒効果は,酸化チタン表面に吸着した金(III)錯体への直接的な電子移動反応に起因するものである.
豪州産鉄鉱石は今後リン(P)濃度の上昇が予測されており,高P鉄鉱石有効活用のために,豪州産鉄鉱石に存在するリン吸着ゲーサイト(P吸着α-FeOOH)の化学構造解析が求められている.本研究では,ゲーサイト中の鉄(Fe)の一部がアルミニウム(Al)で置換されたP吸着α-(Fe,Al)OOHの化学構造を,赤外分光(IR)と量子化学計算により解析した.前報の,Alを含まないP吸着α-FeOOHとして存在していた単座配位のFePO2(OH)2とFePO3OHに加え,高P鉄鉱石にはP吸着α-(Fe,Al)OOHとして単座配位の(Fe,Al)PO2(OH)2と(Fe,Al)PO3OHが存在する可能性があることが分かった.また,P吸着α-(Fe,Al)OOHは,同じ化学構造のP吸着α-FeOOHよりも結合エネルギーが小さく,P吸着α-(Fe,Al)OOHはPの脱離が容易と推測された.これらの情報は高P鉄鉱石の利用拡大に活用できる.
浮世絵をはじめとする絵画試料や文化財の保存 · 修復及び製作技法の解明には,顔料や材料に由来する元素組成やその分布情報の把握が重要である.一方,これらの資料は貴重であるため,分析には非破壊手法の適用が強く求められる.蛍光X線分析法は,試料前処理を必要とせず,非破壊 · 非接触で元素情報を取得できる手法であり,特に微小部蛍光X線分析(M-XRF)法は,二次元的な元素分布像を取得できる点で絵画試料の顔料分析に有効である.本研究では,M-XRF法を用いて『やまと新聞』附録講談本表紙に描かれた浮世絵の元素イメージングを行い,試料背面条件を制御することで分布像の明瞭化を試みた.さらに,共焦点微小部蛍光X線分析(CM-XRF)法を適用し,各ページに対する深さ選択的な元素イメージングを実施した.その結果,表紙及び下層に存在する元素分布情報を非破壊で取得でき,本手法は浮世絵に限らず,絵画試料や冊子状文化財への応用が期待される.
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(LA-ICP-MS,Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)を主対象とした,ガラス中の微量元素の定量分析(バルク分析)に関する比較試験を実施した.比較試験に参加した機関は約20機関で,レーザーアブレーション誘導結合プラズマ発光分光分析法(LA-ICP-OES,Laser Ablation Inductively Coupled Plasma Optical Emission Spectrometry)を含む40超の定量分析結果が報告された.測定対象試料は無アルカリガラスで,それに異なる濃度水準で均質に含有されたBa,Sr及びTiの3元素を測定対象元素とし,測定パラメーターと定量値との相関を検証するとともに,湿式分析法で得られた定量値との比較も行った.多くの測定パラメーターについて定量値との相関は確認できなかったが,一部のパラメーターと定量値の間に相関が確認された.加えて内標準法の適用ありとなしの定量値を比較したところ,内標準法を適用した方が各機関毎の定量値のばらつきが小さくなる傾向が確認されたが,一方で,機関間で得られた定量値の分布は大きくなった.湿式分析法での定量値と比較したところ,内標準法を適用しなかった定量値の中間値は若干低めに得られたが,内標準法を適用して得られた中間値は,内標準法適用なしに比べ,湿式分析法での定量値とよく整合したことから,LA-ICP-MS及びLA-ICP-OESを用いた定量分析において内標準法が有用であることが確認された.
瀬戸内海広島湾3地点で,5種陰イオン,ヨウ素酸イオン(IO3−),臭化物イオン(Br−),亜硝酸イオン(NO2−),硝酸イオン(NO3−),ヨウ化物イオン(I−)を対象に,イオンクロマトグラフィー-紫外検出(IC-UV)法による一斉測定/深度別測定を検討した.分離カラムとして,1-アミノウンデシル基を化学結合させたシリカゲル(AUS)を調製/充填した高イオン交換容量の陰イオン交換カラムを用いた.海水サンプルはろ過後,希釈せず測定に供した.海水塩分の指標となる高濃度臭素(Br−)の深度別IC測定による海水/河川水の混合状況の把握と微量な無機ヨウ素(IO3−, I−)と栄養塩である窒素(NO2−, NO3−)の深度別IC測定は,海水塩分の妨害もなく,内湾海水の動態理解に有効であった.さらに,これらの測定結果をn-ドデシルアンモニウムイオン吸着ODSカラムを用いたIC測定結果と比較したところ良好な相関が得られた.