従来から困難であると考えられている,イオウ含有量の高い鉄鉱石中の酸化鉄の定量法を確立するため,臭素-メタノール溶解で前処理する操作を考えた.前報ではこの前処理に対するイオウ化合物の挙動をしらべたので,本報では酸化鉄の挙動をしらべ,これらの結果から分析操作を決定し,これを鉄鉱石試料に適用し,磁鉄鉱についてはいずれも満足すべき結果の得られることがわかった.
前報と一緒にして総括すると,イオウ含有量の高い鉄鉱石中の酸化鉄は,JIS法によっては定量困難である.それで当研究室で以前から用いてきた臭素一メタノール溶解法を適用することとし,鉄鉱石中に存在して酸化鉄定量に誤差をおよぼすと考えられるイオウ化合物および酸化鉄について,臭素-メタノール溶液に対する挙動をしらべた.その結果,硫酸塩はかなり難溶であるが,硫化鉄も硫化マンガンも10%臭素-メタノール冷溶液による前処理で事実上溶けさり,また目的成分たる酸化第一,第二鉄とも,この前処理によって事実上影響は受けないで残留することがわかった.
これらの検討の結果,10%臭素-メタノール冷溶液により1時間攪拌する前処理の後に,残サを通常のJIS法に準じて処理して酸化第一,第二鉄を求める分析操作を確立し,これによっていくつかの実際試料を定量し,そのなかで扱ったイオウ含有量の高い磁鉄鉱試料では,いずれも本法操作で得た結果から2Fe(II)/Fe(III)-1の関係が成立して,本法が満足すべきものであることを知ることができた.
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