ニュートンが「自然哲学の数学的原理」, いわゆるプリンキピアとよばれる力学の古典を書いたのは, 今から約300年前である. そこで初めて重力や運動という自然法則が数学を用いて表現された. この自然法則の数学化は, 実験, 観測による実証とともに自然科学の二つの柱となる. 1846年, ルベリエとアダムスが, ニュートン力学による計算から海王星の存在を予言し, 実際にそれが予言された位置に発見されたことは, ニュートンの方法すなわち自然法則の数学化の偉大な成功とみなされた. 20世紀に入ってニュートンの重力理論はアインシュタインの一般相対論にとって代わられるが, 重力が弱く運動の速度が光速度に比べて十分小さな情況では, ニュートン理論が十分よい近似になっている. 一般相対論的効果によるニュートンの運動方程式からのズレもアインシュタイン達によって詳しく研究され, 水星の近日点移動の説明などに用いられていた. この物理学で最も古い問題である運動方程式が, ここ七年ほど注目を浴びている. なぜ今さら運動方程式なのだろうか.
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