少子化の進行や大学進学率の増大傾向の中で, 日本の大学教育が抜本的な改革を必要としていることはおおかたの認識が一致するところであり, ここ数年にわたり改革のためのさまざまな施策が採られてきた. しかし, 教養部の廃止や大学院重点化などの制度改革は必ずしも初期の意図を達成しておらず, むしろ, 教養教育の責任の所在をあいまいにしたり, 大学院教育の質を低下させるなど, 重大なマイナス効果ももたらしているように見える.課題の本質がどこにあり, その克服のための選択肢をどの程度に広いスペクトルの中で模索すべきだろうか?そのような問題意識をもった筆者は, 98年秋にマサチューセッツ工科大学(MIT)物理学科を中心にBoston大学及びStanford大学を訪問したおりに, その理工系学科の学部教育制度について見聞してきた. 以下にその概要をご紹介する. 特に詳細に話を聞く機会があったMIT物理学科の教育体制を中心に記述するが, その内容の多くは米国大学についてより一般的にあてはまるものと思われる.