従来の超伝導は全スピンがS=0のスピン一重項の電子対(クーパー対)が担っている.この点では銅酸化物の高温超伝導も例外ではない.一方, 液体ヘリウム3の超流動はS=1のスピン三重項の原子クーパー対が担う.それでは超伝導にスピン三重項状態は実現するのだろうか? またそれは質的にどのような新しい超伝導現象を生み出すものであろうか? この問いに対して最近, ルテニウム酸化物Sr
2RuO
4の超伝導がスピン三重項であることが決定的になった.この超伝導体は銅酸化物の高温超伝導体と同じ層状結晶構造をとるが, 銅酸化物の異常な電子状態とは対照的に, その常伝導状態は準2次元フェルミ液体として定量的によく記述できる.この金属性の違いは, ルテニウム酸化物で電子軌道が縮重していることに根ざしている.またその結果, 銅酸化物では電子間に反強磁性的な相互作用が支配的で反平行スピン対のスピン一重項超伝導が起こり, 一方, ルテニウム酸化物では広範な波数でのスピン揺らぎが重要となって平行スピン対のスピン三重項超伝導を産むと考えられている.Sr
2RuO
4は極めて純良な単結晶が育成できるため, スピン三重項超伝導の研究をヘリウム3のスピン三重項超流動に比肩できるレベルまで深化できる期待がもてる.
1)本解説ではSr
2RuO
4についての最新の研究成果を例にとって, スピン三重項超伝導の物理の魅力に迫りたい.
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