高速イオンが結晶を通過する際,通過イオンは原子列や原子面を周期的に横切る.これは,通過イオンの静止系から眺めると,イオンが周期的電磁場を感じることに相当する.この振動数に対応するエネルギーがイオンの内部自由度の準位差に一致すれば,イオンの準位は共鳴的に励起される可能性があり,このような励起は,コヒーレント共鳴励起と呼ばれる.最近,相対論的エネルギー領域の重イオンを用いることにより,コヒーレンスが格段に向上し,精密な共鳴励起スペクトルが得られるようになった.その結果,共鳴のダイナミクスが理解されるとともに,全く新しい高分解能原子分光法としての可能性や強疑似光子場としての側面が次々と明らかになってきた.このコヒーレント共鳴励起現象について,最近の研究成果を紹介する.
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