日本物理学会誌
Online ISSN : 2423-8872
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69 巻, 9 号
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  • 原稿種別: 表紙
    2014 年 69 巻 9 号 p. Cover1-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 宮下 精二
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 597-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 目次
    2014 年 69 巻 9 号 p. 598-599
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 木坂 将大
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 600-601
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 郡 宏
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 602-603
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 藤井 賢一
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 604-612
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    質量の単位であるキログラム(kg)は,メートル条約に基づいて1889年に開催された第1回国際度量衡総会で定義された.このとき白金イリジウム合金製の国際メートル原器と国際キログラム原器がそれぞれ長さと質量の単位として承認されたが,長さは1960年に光の波長による定義へと移行し,国際メートル原器は不要となった.更に1983年に光速度を不確かさのない定数として定義することによって,光周波数の測定から誰もが長さの単位を実現することができるようになった.誰もが単位を実現することができるということは,特定の国や組織が所有する標準器への依存性から開放されるという点で,科学技術の進歩にとっては重要な要素である.しかし,キログラムだけは1889年以来,人工物によって定義される唯一のSI基本単位として残り現在に至っている.このため,質量を正しく測るためには国際キログラム原器への校正の連鎖が必要であるが,表面汚染の影響などにより,分銅の質量に頼る限りキログラムの安定性は50μg(相対的に5×10^<-8>)程度が限界であると考えられている.このような経緯から,2011年に開催された第24回国際度量衡総会ではプランク定数h,電荷素量e,ボルツマン定数k,アボガドロ定数N_Aを不確かさのない定数として定義し,キログラム,ケルビン,アンペア,モルの定義を将来,同時に改定することが決議された.これは,基礎物理定数を基準としてSI基本単位の定義を世界的な合意のもとで改定するという方針を示したものであり,歴史的にも極めて画期的である.キログラムの定義を改定するためには,国際キログラム原器の質量の長期安定性を超える精度でプランク定数を測定することが必要である.従来はワットバランス法と呼ばれる電気的な方法だけがこの精度を超えることに成功していた.プランク定数はアボガドロ定数からも精度よく導くことができるので,従来はX線結晶密度法と呼ばれる結晶を用いる方法でアボガドロ定数が測定されてきた.しかし,この測定には自然同位体比のシリコン結晶が用いられていたので,その同位体比の測定精度に限界があり,国際キログラム原器の質量安定性を超える精度でアボガドロ定数を測ることができなかった.この問題を解決するために,^<28>Siを遠心分離法によって99.99%まで濃縮し,その結晶の格子定数,密度,モル質量の測定からアボガドロ定数やプランク定数の精度を高めるための国際プロジェクトが実施され,ワットバランス法を超える3×10^<-8>の精度での測定結果が得られるようになった.本稿では,この精度向上をもたらした幾つかの実験技術を中心に紹介し,キログラムの定義改定をめぐる研究開発の動向について解説する.定義改定後は磁気定数や電気定数(真空の透磁率や誘電率),炭素^<12>Cのモル質量など,これまでは不確かさのない定数として扱われてきたものが,微細構造定数などの値に応じて変化する測定量(変数)になる.本稿では,国際単位系の定義改定が与える影響についても考察し,キログラムの定義改定がもたらす新たな可能性について述べる.
  • 堀田 昌寛, 遊佐 剛
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 613-622
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    現在広範なテーマを巻き込みながら,量子情報と量子物理が深いレベルから融合する量子情報物理学という分野が生まれ成長しつつある.なぜ様々な量子物理学に量子情報理論が現れてくるのだろうか.それには量子状態が本質的に認識論的情報概念であるということが深く関わっていると思われる.ボーアを源流とする認識論的な現代的コペンハーゲン解釈は量子情報分野を中心に定着してきた.この量子論解釈に基づいた量子情報物理学の視点からは存在や無という概念も認識論的であり,測定や観測者に対する強い依存性がある.本稿ではこの「存在と無」の問題にも新しい視点を与える量子エネルギーテレポーテーション(Quantum Energy Teleportation;QET)を解説しつつ,それが描き出す量子情報物理学的世界観を紹介していく.QETとは,多体系の基底状態の量子縺れを資源としながら,操作論的な意味のエネルギー転送を局所的操作と古典通信(Local Operations and Classical Communication;LOCC)だけで達成する量子プロトコルである.量子的に縺れた多体系の基底状態においてある部分系の零点振動を測定すると,一般に測定後状態の系は必ず励起エネルギーを持つ.これは基底状態の受動性(passivity)という性質からの帰結である.このため情報を測定で得るアリスには,必ず測定エネルギーの消費という代償を伴う.またアリスの量子系は量子縺れを通じてボブの量子系の情報も持っている.従ってアリスは,ボブの系のエネルギー密度の量子揺らぎの情報も同時に得る.これによって起こるボブの量子系の部分的な波動関数の収縮により,測定値に応じてアリスにとってはボブの量子系に抽出可能なエネルギーがまるで瞬間移動(テレポート,teleport)したように出現する.一方,この時点ではまだボブはアリスの測定結果を知らない.またアリスの測定で系に注入された励起エネルギーもまだアリス周辺に留まっており,ボブの量子系には及んでいない.従って対照的にボブにとってはボブの量子系は取り出せるエネルギーが存在しない「無」の状態のままである.このように,現代的コペンハーゲン解釈で許される観測者依存性のおかげで,エネルギーがテレポートしたように見えても因果律は保たれている.非相対論的モデルを前提にして,系のエネルギー伝搬速度より速い光速度でアリスが測定結果をボブに伝えたとしよう.アリスが測定で系に注入したエネルギーはボブにまだ届いていないにも関わらず,情報を得たボブにも波動関数の収縮が起こり,自分の量子系から取り出せるエネルギーの存在に気付く.そしてボブは測定値毎に異なる量子揺らぎのパターンに応じて適当な局所的操作を選び,エネルギー密度の量子揺らぎを抑えることが可能となる.その結果ボブは平均的に正のエネルギーを外部に取り出すことが可能となる.これがQETである.このQETは量子ホール系を用いて実験的に検証できる可能性が高い.一方,相対論的なQETモデルはブラックホールエントロピー問題にも重要な切り口を与える.
  • 中村 信行
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 623-627
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    本稿では多価イオンと電子との衝突に関する筆者らの最近の研究を紹介する.ここで言う多価イオンとは,多くの電子が剥ぎ取られた高電離原子イオンを指す.そのようなイオンは高温プラズマ中に多く存在する.例えば,太陽コロナには鉄の多価イオンが飛び交っており,電子衝突により励起された鉄多価イオンが発するX線の分光は,古くからコロナの温度や密度を診断するための最も重要な手段の一つである.最新の太陽観測衛星である「ひので」にも,鉄多価イオンのスペクトルによる診断を目的とした高分解能分光器が搭載されている.また核融合実験炉プラズマでは,壁材から混入した重元素金属の多価イオンが,やはり電子衝突により励起されX線を発する.重元素多価イオンの発する高エネルギーX線はプラズマ温度を下げるため(放射冷却),核融合実現の大きな障害となる.このような高温プラズマ中の素過程を理解するため,多価イオンと電子の衝突過程は古くから調べられてきた.衝突において特に重要となり,良く調べられているのは,電離,励起,そして再結合である.電離は多価イオンの価数を変えるためプラズマ内の価数分布を決める過程であり,一方励起はX線放射を伴うため放射過程に寄与する過程である.再結合とは電子が捕獲されることにより多価イオンの価数を下げる過程であり,プラズマ内の価数分布を決めると同時に,X線放出も伴うため放射にも寄与する重要な過程である.特に2電子性再結合(Dielectronic Recombination;DR)と呼ばれる以下の過程は,共鳴的に大きな断面積を持つため特に重要となる.e^-+A^<q+>→A^<(q-1)+**>→A^<(q-1)+>+hν.プラズマ素過程としての重要性の他,純粋に原子物理あるいは原子衝突物理学的興味でも研究は盛んである.特に,重イオン蓄積リングや電子ビームイオントラップ(Electron Beam Ion Trap;EBIT)などの装置や実験技術の発展に伴い,ごく少数しか電子を持たないような重元素多価イオンの衝突過程に現れる相対論効果などが実験で調べられるようになってきた.電気通信大学では,1995年に建設したTokyo-EBITを用いて,重元素多価イオンの分光および衝突過程の研究を行っている.特に最近,DR過程に現れる顕著な相対論効果を調べている.DRでは上記反応式で表されるように,入射電子が多価イオンに捕獲されると同時に,多価イオンの内殻電子が励起される.重元素多価イオンの場合,この電子間相互作用にブライト相互作用と呼ばれる相対論効果が,軽元素の場合に比べて大きく現れるようになるが,我々はリチウム様イオンのDR過程を調べた結果,ある特定の中間状態を経るときに(つまり状態選択的に),このブライト相互作用が共鳴強度を特異的に大きくすることを明らかにした.更に,最終的に放出されるX線の角度分布にはブライト相互作用がクーロン相互作用を凌駕する支配的な寄与を示すことも明確にした.このような顕著なブライト相互作用がなぜ状態選択的に現れるのか,85年も以前にヘリウムの微細構造を精密に計算するためG. Breitによって導入されたブライト相互作用が,今また新しい疑問を投げかけている.
  • 元屋 清一郎
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 628-633
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    強磁性や反強磁性といった磁気秩序の形成や磁気構造の変化など磁性体における相転移は,温度・磁場などの外場の変化に従って直ちに起きるものとされてきた.例外としてスピングラス(薄い磁性原子濃度を持ち特殊な磁気転移を示す物質)や永久磁石材料など不規則性や不均一組織を持つ物質では長時間にわたる磁気的性質の変化があることが知られている.しかし,これまで3次元の規則構造を持つ物質での磁気秩序の形成過程や磁気構造の変化過程を直接観測したという報告はなかった.私たちは最近CeIr_3Si_2という化合物で磁気構造が数時間から数十時間にわたって変化していく現象を偶然発見した.磁化測定などからこの物質ではCeの持つ磁気モーメントが4.1K以下で反強磁性に秩序し(中間温度相),さらに温度を下げると3.3Kで別の磁気構造(低温相)へと相転移すると考えられていた.この逐次相転移と呼ばれる現象自身は珍しいものではない.しかし,この物質の磁気構造を決めるために行なった中性子回折実験では次のような新奇な振る舞いが観測された.試料を4.1K以上の常磁性相から低温相の温度に冷却した直後には途中に通過した中間温度相の磁気構造に対応する磁気ブラッグ反射のみが観測された.時間経過とともにこの反射強度は減少し,代わって低温相の磁気構造に対応する反射強度が数時間という長い時間をかけて増加した.しかし,それぞれのブラッグ反射の位置には変化はみられなかった.この結果は2種類の磁気構造を持つ領域が共存し,各領域の体積比が長時間にわたって連続的に入れ替わる現象であることを示している.これは誘電体の構造相転移で見られる長い潜伏時間を伴う1次相転移とは全く異なる現象である.CeIr_3Si_2が示す磁気的特徴(逐次相転移とメタ磁性転移)をキーワードとして他の物質を探索したところいくつかの物質でも類似の現象が見られた.このうちCa_3Co_2O_6は磁性原子であるCoの1次元鎖が三角格子を作るフラストレート磁性体である.時間変化の存在を考慮した中性子散乱実験から低温での磁気構造が決定された.1次元鎖を作るCo原子の磁気モーメントは(10Kでは)1,150Åにわたる強磁性的に整列した領域が方向を反転して繰り返されており,この方向を反転する位置が三角格子の上で周期的に移動してc軸方向に2,300Åの周期を持つ3次元磁気秩序を形成している.この磁気的周期は温度とともに連続的に変化する.しかし,温度を変えると磁気的周期がその温度での平衡値に達するのにやはり数時間から数十時間を要するという特徴を示した.CeIr_3Si_2で観測された時間変化は2つの定まった構造の間での不連続な変化であるのに対して,磁気構造の周期が連続的に時間変化するという点において異なる種類の時間変化と言える.これら2つの物質を含め,長時間にわたる磁気構造の変化を見いだした物質に共通する特徴は強磁性面あるいは強磁性鎖の存在と競合する磁気相互作用によるフラストレーションである.これらの物質の磁気構造の変化は強磁性面の方向や強磁性鎖の長さの変化によって達成される.しかしこれらは大きなエネルギー障壁のため一斉には起こり得ない.まず転移の核となる磁化の反転した小領域が形成された後,核と周囲との境界が移動する方式で平衡相の領域拡大が進行すると考えられる.CeIr_3Si_2ではこの核生成速度の遅さが長時間変化の要因であることも検証された.他の多くの物質でもここで紹介したような時間に依存する現象が見落とされてきたのかもしれない.
  • 賀川 史敬, 堀内 佐智雄
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 634-638
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    強誘電体は,不揮発性メモリ,キャパシタ,アクチュエータ,熱・圧力センサー,波長変換など,工学的に大変重要度の高い電子機能材料である.一方,材料を構成する元素に目を向けてみると,依然として材料開発が解決すべき課題は残されており,たとえば不揮発性メモリや圧電素子に広く用いられるPb(Zr,Ti)O_3(PZT)など,多くの強誘電体は有毒な鉛を含んでおり,また,その代替や光学応用にも利用される非鉛系強誘電体SrBi_2Ta_2O_9(SBT)やLiTaO_3(LT),LiNbO_3(LN)は,ビスマスやリチウムといったレアメタルの多用が目立つ.このような元素を用いることなく,軽量でフレキシブル,大面積といった新たな機能を持つデバイス実現に向けても,著者らは特に炭素,水素,窒素を主成分とする有機強誘電体を中心に,材料開発と物性評価を進めている.その結果,これまでに10例を超える室温有機強誘電体を見出すことに成功し,低分子系は豊かな強誘電体材料基盤であることが分かってきた.一方で,強誘電体一般の学理に対しては,有機強誘電体の登場は新しい展開をもたらしうるだろうか?たとえば有機電荷移動錯体系においては,スピンパイエルス機構に基づく磁性強誘電体(マルチフェロイックス)や,中性イオン性転移に基づく電子強誘電体が立て続けに発見されており,少なくとも新しい話題を提供していることは間違いない.本稿で焦点を当てるのは水素結合型の有機強誘電体であるが,分極の向きの異なる領域(ドメイン)が試料内に分布する,いわゆるマルチドメイン構造のトポロジーと電気分極の反転特性との相関といった,強誘電体に広く関係する問題に対して一定の知見を得ることに成功している.有機強誘電体が強誘電体一般の学理構築に貢献した一例であると言ってよいだろう.電場による自発電気分極の反転は,強誘電体が示す最も基本的な機能性の一つであるが,この過程は異なる分極を持つドメインを隔てるドメイン壁の運動に密接に関連している.現実にはしばしば不完全な分極反転が観測されるが,その主な原因として結晶中の不純物や欠陥などによるドメイン壁のピン止めが知られていた.これに対し最近著者らは,マルチドメイン構造のトポロジー自体が実質的に反転可能な分極を決定する要因になりうることを見出したので,本稿でこれを紹介する.対象とした物質は酸と塩基が分子間で水素結合した,室温以上でも強誘電性を示す有機物である.単結晶において,ピエゾ応答力顕微鏡による微視的なドメイン観察と巨視的な分極履歴曲線の測定を相補的に行うことで,反転可能な電気分極とドメイン構造との相関を調べた.強誘電ドメイン壁は,その境界面の向きに応じて荷電ドメイン壁と非荷電ドメイン壁に分類されるが,本研究から荷電ドメイン壁は強くピン止めされる傾向にあり,それゆえ荷電ドメイン壁を多く含むマルチドメイン構造は不完全な分極反転を示すのに対し,荷電ドメイン壁が非荷電ドメイン壁に置き替わった場合は,バルクな分極反転が容易に起こることが明らかになった.以上の結果は,荷電ドメイン壁と非荷電ドメイン壁の割合が,実質的な分極反転を決める要因になりうることを示している.
  • 柴田 穣
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 639-643
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    植物の光合成タンパク質には多くのクロロフィル(Chl)など色素分子が結合している.多数の色素のうちどれか一つが光子を吸収すると,励起状態はバケツリレー式のエネルギー移動により次々に隣の色素分子へと渡り,最終的に反応中心Chl(最初の電子供与体,Primary Donor)へと到達しそこで光誘起電子移動反応に使われる.この光捕集と呼ばれる過程を担うのは,1つのタンパク質あたり数十個結合するアンテナChlである.アンテナChlは光合成タンパク質に非常に密に詰め込まれており,その励起状態はもはや一つの分子に局在しているという描像では記述できず,多数の分子間に量子力学的に非局在化した励起状態を考える必要がある.21世紀に入り,植物型の光合成タンパク質の立体構造が次々に明らかにされた.一方,光合成タンパク質の光捕集過程を,上述した励起の非局在化を考慮しつつ構造情報に立脚して再現する微視的な理論的枠組みは,既に物理学者が概ね整備していた.具体的には,久保-豊沢のスペクトル形状理論,エネルギー移動のForster理論およびそれを非局在化した励起状態に拡張した一般化Forster理論,そして非局在化した励起状態間の緩和を取り扱うRedfield理論,などである.これらは摂動論的な理論であるが,適切に組み合わせることで調節パラメータなしに光合成系の光捕集ダイナミクスを定量的に再現することも原理的には可能である.しかし,現実には構造情報のみから予想することは困難なパラメータがある.タンパク質の低振動モードと電子励起状態とのカップリングを反映するスペクトル密度関数は,光学スペクトル形状の再現に必須でエネルギー移動速度を決める重要な因子であるが,構造情報からの予測は難しく実験から求めたものが利用されている.さらに困難なのは,タンパク質に結合する各Chl分子の励起状態のエネルギー(サイトエネルギー)を決定することである.タンパク質に結合する色素分子のサイトエネルギーを,構造情報から精度高く予測する量子化学的な手法は現在でも確立していない.現時点でサイトエネルギーを決める最も有効な手段は,吸収や蛍光,円偏光二色性,直線偏光二色性といった実験で得られる様々なスペクトルを最もよく再現するサイトエネルギーの組み合わせをフィッティングにより求めることである.この手法により,ようやく植物型光合成の光化学系IIタンパク質の光学スペクトルを概ね再現できる微視的理論モデルができてきた.とは言え,フィッティングから求められたサイトエネルギーの信頼性にはさらなる検証が必要であった.最近我々は,上述の微視的理論モデルを使って,光化学系IIのピコ秒時間分解蛍光ダイナミクスを再現することに成功した.5Kから180Kまでの広い温度領域で時間分解蛍光スペクトルを再現できたことは,この理論モデルがエネルギー移動経路などを概ね正しく再現していることを示している.こうした研究から,光化学系IIに存在するPrimary Donorよりも低い励起状態を持つアンテナChlが,既知のタンパク質構造中のどの分子であるかが解明された.低い励起状態を持つChlの生物学的な機能は何なのか,今後の研究による解明が待たれる.
  • 縣 秀彦
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 644-646
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 安藤 恒也
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 647-650
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 江沢 洋
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 651-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 稲村 卓
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 652-653
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 三明 康郎, 初田 哲男, 永宮 正治
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 654-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 渡辺 信一
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 655-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 榊田 創
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 655-656
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 2014 年 69 巻 9 号 p. 656-
    発行日: 2014年
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 高木 伸
    原稿種別: 本文
    2014 年 69 巻 9 号 p. 657-658
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    2014 年 69 巻 9 号 p. 659-665
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    2014 年 69 巻 9 号 p. 665-666
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 桑本 剛
    原稿種別: 付録等
    2014 年 69 巻 9 号 p. 666-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    2014 年 69 巻 9 号 p. 667-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
  • 2014 年 69 巻 9 号 p. 668-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
    ■オックスフォード大学出版局発行書籍の割引購入について ■2015年度の論文誌等購読の変更手続きのお願い ■2015年度会費について手続きのお願い:正会員のうち大学院学生の会費減額および学生会員(学部学生)の資格継続 ■2014年8月1日付新入会者
  • 原稿種別: 付録等
    2014 年 69 巻 9 号 p. 670-
    発行日: 2014/09/05
    公開日: 2019/08/22
    ジャーナル フリー
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