日本物理学会誌
Online ISSN : 2423-8872
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70 巻, 10 号
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  • 原稿種別: 表紙
    2015 年 70 巻 10 号 p. Cover1-
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 上田 和夫
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 737-
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 目次
    2015 年 70 巻 10 号 p. 738-739
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 三原 智
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 740-741
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 野口 巧
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 742-751
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    地球上における今日のような生命の繁栄は,いかにしてもたらされたのか?それは,その進化の過程において,精密な光エネルギー変換システム「光合成」を創り上げ,太陽光エネルギーという無限のエネルギー源の確保に成功したことによる.光合成の光エネルギー変換は,光誘起電荷分離と,それに続く電子移動を基本として行われる.その過程で,光エネルギーは,還元物質の酸化還元電位差としてのギブズ自由エネルギーと,生体膜間のプロトン濃度差による電気化学ポテンシャルの2種類のエネルギー形態に変換され,最終的に,二酸化炭素を還元して蓄積可能な化学エネルギーとしての糖を合成する.このような光誘起電子移動を基礎原理とする光エネルギー変換系を構築する際のボトルネックは何だろうか?それは,二酸化炭素を還元するための電子の供給源として何を選ぶかである.始原的な光合成生物である光合成細菌は,硫化水素H_2Sを電子源として選び,地球上に偏在して棲息するのを余儀なくされた.一方,約25億年前に登場したシアノバクテリアは,地球上により普遍的に存在する「水」H_2Oを電子源に用いることに成功し,光合成系を完成させて植物へと進化した.水分解反応の獲得は,光合成生物の繁栄をもたらしただけではなく,その後の地球環境と生命の進化を大きく変えた.水分解の副産物として放出された酸素は,地球大気中の酸素濃度を上昇させ(現在の地球大気の酸素濃度は21%),酸素呼吸生命の進化を促した.水分解反応を担う酵素である光化学系IIでは,光誘起電荷分離により反応中心クロロフィル上にラジカルカチオンが形成され,それが水分解の触媒部位であるマンガンクラスターから電子を引き抜く.マンガンクラスターはMn_4CaO_5で表される「歪んだ椅子」型構造を持つことが,最近報告されたX線結晶解析により明らかにされている.そこでは,5つの中間状態の光駆動サイクルとして水分解が行われる.1回の光反応により1個の電子が引き抜かれると次の中間状態へと遷移し,計4回の電子移動により,2分子の水が酸素とプロトンとに分解する.電子移動反応はドナー分子とアクセプター分子の酸化還元電位差によって制御される.そこで,マンガンクラスターの各中間状態遷移において迅速な電子移動を実現するため,電子移動を水分子のプロトン放出と共役させて,マンガンクラスター上の電荷を一定に保ち,その酸化還元電位を制御するしくみが存在する.時間分解分光や量子化学計算などにより,電子移動とプロトン移動の時間挙動や水素結合ネットワークの再構築によるプロトン経路の形成などの情報が得られてきている.このように,光合成の光エネルギー変換の鍵となる水分解の分子機構は,プロトン共役電子移動を利用した極めて巧妙なものであり,未だその全貌は明らかになっていない.X線結晶解析からの構造情報と,種々の分光学的手法,および,近年飛躍的な進歩を遂げる量子化学計算により,近い将来,生命にとって極めて重要な光合成水分解の機構が解き明かされることが期待される.
  • 井上 芳幸
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 752-759
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    夜空が暗いというのは我々にとっては当たり前の事実である(都会では街明かりのためにそうはいかないのだが).この当たり前の事実に19世紀の天文学者オルバースは疑問を抱き,「なぜ夜空は暗いのか」と考えた.宇宙が無限に広がっていれば,どこを見ても星の表面が見え,夜空全体は太陽面のように明るく輝くはずである,と.これは有名な「オルバースのパラドックス」と言われるものである.宇宙が無限ではないことから,このパラドックスは解決されている.たしかに,夜空は暗いが,実は真っ暗ではない.微弱ながらも空一面に光っている放射が存在し,「宇宙背景放射」と呼ばれている.この空全体で輝く宇宙背景放射とはなんであろうか?宇宙背景放射の中でもビッグバンの名残である宇宙マイクロ波背景放射は特に有名である.しかし,宇宙はマイクロ波だけでなく,電波,赤外線,可視光,X線そしてガンマ線で満たされている.これらの宇宙背景放射は宇宙に存在する全ての天体からの光の重ね合わせであると考えられている.宇宙背景放射の起源を解明できれば,各波長で宇宙の支配的な種族天体の歴史を紐解ける.例えば,可視・赤外線の宇宙背景放射は,星や銀河の形成史を,X線では活動銀河核すなわち超巨大ブラックホールの形成史を振り返れる.電磁波の最も高いエネルギー領域であり,宇宙観測のエネルギーフロンティアでもあるガンマ線領域での宇宙背景放射に関する研究は2000年代後半に入るまで,ガンマ線衛星の感度不足のため宇宙ガンマ線背景放射の起源は活動銀河核であろうと推測されるにとどまっていた.そんな中,2008年にフェルミガンマ線衛星が打ち上げられ,その圧倒的な感度によりこれまでの10倍以上となる3,000を超えるガンマ線源を発見し,宇宙ガンマ線背景放射の詳細な観測が可能となった.フェルミ衛星により0.1-820GeVの広帯域にわたる宇宙ガンマ線背景放射スペクトルが詳細に計測され,宇宙ガンマ線背景放射研究はここ数年で大きく進展している.特にフェルミ衛星の観測結果に基づいた研究によって,宇宙ガンマ線背景放射がブレーザー・電波銀河・星形成銀河という三種族の天体からなることがわかってきた.一方で,フェルミ衛星が観測していないエネルギー帯域であるMeV・TeV帯域における宇宙ガンマ線背景放射の起源は謎に包まれたままである.これらについては,フェルミ衛星だけでなく,次世代X線衛星であるASTRO-Hや次世代ガンマ線望遠鏡Cherenkov Telescope Array(CTA),そして近年TeV-PeVニュートリノイベントを発見したIceCubeとの連携によって今後,解き明かされていくであろう.また,宇宙ガンマ線背景放射には暗黒物質に起因するガンマ線が埋もれている可能性が長年議論されてきたが,暗黒物質の兆候は未だに見えていない.可視光域での暗黒物質分布の大規模サーベイ観測と宇宙ガンマ線背景放射の空間分布を用いることで,暗黒物質の物理量に対し強い制限が今後課されると期待されている.様々な観測を組み合わせていくことで,宇宙ガンマ線背景放射の謎は着実に解き明かされつつあり,その理解までもう一歩のところまで我々は迫っている.
  • 宮本 幸治, 木村 昭夫, 奥田 太一
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 760-764
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    空間反転対称性の破れとスピン軌道相互作用に起因するRashba効果によってスピン分裂バンドが非磁性体金属および半導体表面などに現れる.さらに最近,波動関数のトポロジーによって物質群の分類がなされ,スピン軌道相互作用が強い物質においては,時間反転対称性によって保護されたトポロジカル絶縁体が大きな注目を集めている.トポロジカル絶縁体の表面状態は,バルクバンドギャップ中にスピン偏極したフェルミ面が奇数個存在し,トポロジーの異なるRashba物質の場合は,偶数個となる.このトポロジーの違いは,スピン軌道相互作用の大きさに依存し,バンドギャップを挟む2つのバルクバンドのパリティーが入れ替わることで生じる.これはZ_2数と呼ばれるトポロジカル不変量が偶から奇に変化することに対応する.Bi_2Se_3に代表されるトポロジカル絶縁体の表面は,直線的なバンド分散形状を示す,質量ゼロのディラック電子系である.この分散形状と特徴的なスピン構造から,さまざまな新奇物性の発現が期待される.結晶表面の対称性と電子スピン構造には密接な関係があることが,これまでの研究により徐々に明らかとなってきている.例えば,C_<3v>結晶表面対称性に影響を受けたディラック電子の電子スピン構造は,異方的なバンド分散形状を示し,面直スピンを生じさせる.この面直スピン成分が電子の後方散乱を増大させスピン緩和時間を短くする.しかしこれまでの研究は,sp電子系のC_<3v>結晶表面対称性をもつ物質に限られていた.一方,d電子系の物質は,電子の運動エネルギーとクーロン反発の競合(電子相関)によって,磁性や近藤効果といった多彩な物理現象を引き起こし,特に,3d遷移元素を含む物質を中心に多くの研究がなされてきた.ごく最近,イリジウム酸化物等が5d電子系のスピン偏極ディラック表面電子をもつトポロジカル絶縁体として理論的に予言され,電子相関とスピン軌道相互作用の競合する物質として注目を集めている.しかし,3d電子系の物質に比べ5d電子系の物質についての研究はごく僅かである.W(110)は,典型的な5d電子系で2回対称性(C_<2v>)の表面をもつ.さらに,W表面上に吸着したMn超構造が螺旋スピン構造を示すなど基板の強いスピン軌道相互作用に起因した様々な新奇表面物性について古くから研究が行われていた.このような新奇物性は,W(110)表面のスピンに依存した電子構造が重要な役割を担っていると考えられるが,それを詳細に研究した報告はこれまでにない.そこで,我々は独自に開発したスピン角度分解光電子分光装置で測定を行い,W(110)表面に5d電子系のスピン偏極ディラック電子が存在することを発見した.しかも,この表面電子は,結晶表面対称性のC_<2v>に強く影響を受け,波数一方向に強く押しつぶしたような扁平なディラックコーン型の電子構造を示す.k・p摂動計算を用いた考察からC_<2v>対称性に強く影響を受けたスピン偏極ディラック電子は,電子の後方散乱を大きく抑制し,C_<3v>対称性の場合よりもスピン緩和時間を飛躍的に増大させると期待される.この結果はスピンを制御した新奇デバイス作成の物質探査に大きな指針を与える.
  • 寺田 智樹
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 765-769
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    シュレーディンガーが1944年の「生命とは何か」において生命現象の物理学的な解明を提唱して以来,1953年のDNAの二重らせん構造の発見に代表されるように,分子生物学や構造生物学など現代生物学の中核をなす分野が物理学を基礎として発展してきた.生物を構成する細胞は,多様な生体高分子が相互作用しながら物質やエネルギーを周囲とやり取りする非平衡開放系であり,その中では分子の形や個数の変化,会合・解離や化学反応などのゆらぎが多様な時間スケールで起こっている.このため,今もなお,さまざまな生物現象が物理学の魅力的な対象であり続けている.本稿では,細胞分化という現象に非平衡統計力学の立場からアプローチしたわれわれの研究を紹介する.ヒトの個体には,骨細胞,神経細胞,筋細胞など構造・機能の異なる約200種類の細胞がある.生物の個体発生において,受精卵というただ1つの細胞から多様な細胞へと向かう過程は,細胞の分化とよばれている.一度分化した細胞は後戻りをしない,つまり分化は不可逆であると長い間考えられてきたが,一度分化した細胞を未分化状態に戻す方法が山中らにより発見され,さまざまな応用が期待されている.われわれは,マウスのES細胞(胚性幹細胞)が原始内胚葉と栄養外胚葉のいずれかに分化する段階に着目し,この分化初期段階に関与する遺伝子制御ネットワークのふるまいをコンピューター上でモデル化することにより,分化のメカニズムを検討した.遺伝子の情報に基づいてタンパク質が合成されることを遺伝子が発現するというが,異なる種類の細胞では発現している遺伝子が異なっている.本研究では,ES細胞の未分化状態で発現している3つの遺伝子Sox2,Oct4,Nanogと,そこから分化した細胞で発現する3つの遺伝子Cdx2,Gata6, Gcnfから成る遺伝子制御ネットワークの確率シミュレーションを行った.そして状態間遷移確率を自由エネルギーに類似した量に駆動される速度流と非平衡渦流という2つの成分に分離して,その自由エネルギーに類似した量を用いて,細胞の状態変化のランドスケープを描いた.その結果から,以下の2つのことがわかる.1つ目は,Nanog遺伝子の発現に必要な転写装置(とよばれるDNAとタンパク質の複合体)の形成・解体の時間スケールが他の遺伝子に比べて長いことが,未分化状態からの分化のきっかけを作るNanogタンパク質分子数の大きなゆらぎを生み出していることである.また2つ目は,この時間スケールの違いが,分化過程における未分化状態と2つの分化状態の区別を明確にする役割を持っていることである.近年は網羅的手法により膨大な数の遺伝子,タンパク質やそれらの相互作用が明らかにされているが,それでもなお,現実に存在する相互作用のすべてがわかっているわけではない.このような状況におけるコンピューターシミュレーションや理論的研究の意義は,いわゆる第一原理的計算のように確実な知識を組み合わせて現象の詳細を知ることではなく,実験によって得られた不完全な知識をもとに,重要な未知の要素,相互作用,メカニズムの存在を探ることにある.本稿の研究はそのような研究の一例となっている.
  • 片山 郁文, 武田 淳, 北島 正弘
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 770-775
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    超短パルスレーザー技術の進展により,1パルスの包絡線内に数サイクルの電磁波しか含まない極短パルスが,マイクロ波領域だけでなく,テラヘルツ領域,近赤外〜可視光領域,さらには,紫外・X線領域でも得られるようになってきた.これらを光源として,原子・分子,液相・固相物質中の電子や原子核の光応答を,光の振動周期に匹敵する非常に短い時間分解能で捉えることが可能になっている.さらに,パルス光の高い電場強度に起因する物質の極限的な非線形光学応答も,様々な周波数領域で観測されるようになってきた.パルス内の各周波数成分を変調して,化学反応や凝縮系の物性を自在に制御するといった試みも視野に入ってきている.時間と周波数(エネルギー)の不確定性関係から,このようなパルスの周波数帯域は極端に広く,現在では1オクターブ(周波数で2倍)以上のスペクトル幅を持つ光源も実現されている.これに伴って,従来のポンププローブ分光法において行われていたようにプローブ光全体の強度を測定して反射率・透過率などの時間変化を調べるだけではなく,プローブ光をエネルギー分解してスペクトル情報も含めた実験を行うことで,分子や物質の共鳴吸収などの変化が超短時間分解能で得られるということが分かってきた.この手法では物質と相互作用した後の広帯域光を周波数分解するため,あらかじめ狭帯域のパルスを物質に入射した場合とは異なり,周波数分解によって時間分解能が悪化することはない.そのため短い時間分解能と高い周波数分解能を両立することが可能となる.このような分光が効果的に応用された例として,グラファイト系材料における電子格子相互作用の共鳴効果が挙げられる.グラフェンやカーボンナノチューブに代表される低次元炭素系物質においては,電子バンド構造が線形になり,質量ゼロのディラック電子が現れることが良く知られている.線形の電子バンドが交差するディラック点近傍では,テラヘルツ波や格子振動など低周波領域の励起であっても効率的に電子遷移が起こり,それに伴って非常に強い電子格子相互作用が生じる.このような系でのフォノンスペクトルの特異なふるまいは,これまで定常(非時間分解)ラマン散乱分光法を用いて研究されており,Kohn異常に起因する強い電子格子相互作用などが報告されてきた.我々は,これらの物質中のディラック電子とコヒーレントフォノン相互作用を波長分解コヒーレントフォノン分光法で調べた.広帯域のプローブ光を波長分解し,励起されたコヒーレンスがどの波長域で強い信号をもたらすかを調べることによって,電子格子相互作用の詳細を明らかにできる.グラフェンにおいては,二重共鳴ラマン散乱によって励起されるDモードの強度,ピーク周波数が顕著な検出波長依存性を示すことから,コヒーレントなナノ波束を形成していると考えられる.金属型カーボンナノチューブでは,二次のラマン過程を介して生成される2Dモードが共鳴的に増強され,フォノンスクウィーズド状態の形成を示唆している.このように,超短パルスレーザー光源を用いてコヒーレントフォノンを励起することにより,定常ラマン分光では知ることのできなかった様々な興味深いコヒーレント状態を観測することができる.また,広帯域のプローブ光を波長分解し,励起されたコヒーレンスがどの波長域で強い信号をもたらすかを調べることによって,電子格子相互作用の詳細を明らかにできる.
  • 那須 譲治, 宇田川 将文, 求 幸年
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 776-781
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    2006年,A. Kitaevによって興味深い量子多体模型が提案された.キタエフ模型と呼ばれるこの模型は,スピン1/2をもつ量子スピンが2次元蜂の巣格子上でイジング的な相互作用をしたシンプルなものである.しかしその見かけからは想像し難い豊富な物理を含んでいることから,物性物理のみならず,統計基礎論や量子情報など物理学の様々な分野で大きな注目を集めている.この模型の最大の特徴は,基底状態が厳密に求まることである.2次元以上の量子多体模型で可解なものは非常に限られているため,この特質は様々な新しい知見をもたらしてくれる.とりわけ驚くべきことは,その基底状態が,物質中の新しい量子状態のひとつとされる量子スピン液体となっていることである.さらに,相互作用が異方的な極限では,基底状態がトポロジカルな秩序で特徴付けられる.これは,従来の対称性の破れに基づく分類に収まらない新しい秩序状態である.また,この特異な基底状態を反映して,励起状態も興味深い性質を示す.例えば,フェルミ統計にもボース統計にも従わない非可換エニオンが現れる.この特異な粒子は,トポロジカル量子計算の演算要素として有望視されるものである.別の興味深い側面として,キタエフ模型がイリジウム酸化物などのスピン軌道相互作用が強い強相関電子系で実現する可能性が指摘され,実験・理論の両面から精力的な研究が行われていることも挙げられる.こうした多彩で興味深い性質のうち,我々は物性物理の視点からキタエフ模型が示す量子スピン液体状態に着目し,その熱力学的性質を解明した.これまで,量子スピン液体の理論的研究は,主に三角格子などの幾何学的フラストレーションを有する格子上の強相関電子模型に対して行われてきたが,そこでは負符号問題のために従来の量子モンテカルロ法が適用できず,系統的な研究は困難であった.こうした事情は幾何学的なフラストレーションのないキタエフ模型の場合にも現れる.そこで我々は,マヨラナフェルミオン表示に基づいた新しい量子モンテカルロ法を開発し,それを適用することで,一切近似のない数値的な解析を行うことに成功した.本稿では,キタエフ模型を3次元に拡張した模型に対して得られた計算結果を紹介する.この模型は,最近合成された新規イリジウム酸化物において見出されたものと同等な格子構造の上で定義され,2次元の場合と同様に基底状態は量子スピン液体である.我々は,この3次元キタエフ模型において,低温の量子スピン液体から高温の常磁性状態への相転移が有限温度で生じることを見出した.これは,量子スピン系の"気液"相転移に相当する.通常の流体では,同じ対称性を有する気体と液体は,1次転移の終点である臨界点を回り込むことで連続的に接続しうる.しかしここで我々が見出した相転移は,相互作用パラメータの全領域において常に存在する.この結果は,量子スピン液体と常磁性状態が相転移によって常に明確に区別されることを意味しており,この相転移が通常の気液相転移とは異なる全く新しいタイプのものであることを示唆している.また,この相転移は励起状態がもつトポロジカルな性質の変化によって特徴付けられる.こうしたトポロジーの変化は,量子色力学における閉じ込め・非閉じ込め転移などでも議論されており,分野をまたいだ共通概念の存在を期待させるものである.
  • 合原 一究
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 782-784
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 上田 未紀
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 785-788
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 上田 和夫
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 789-791
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 江口 徹
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 792-
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 石橋 延幸
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 793-
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 桑原 孝夫
    原稿種別: 本文
    2015 年 70 巻 10 号 p. 793-794
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    2015 年 70 巻 10 号 p. 795-799
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    2015 年 70 巻 10 号 p. 799-800
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 石岡 邦江
    原稿種別: 付録等
    2015 年 70 巻 10 号 p. 800-801
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
  • 原稿種別: 付録等
    2015 年 70 巻 10 号 p. 802-806
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
    ■ 2016 年からの会費年額の改定について ■第71 回年次大会・講演募集掲載号 ■第71 回年次大会の企画募集 ■ 2015 年度公開講座 ■ 2015 年9 月1 日付新入会者 ■会費年額改定と物理学会の財政状況について
  • 原稿種別: 付録等
    2015 年 70 巻 10 号 p. 807-808
    発行日: 2015/10/05
    公開日: 2019/08/21
    ジャーナル フリー
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