日本物理学会誌
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73 巻, 1 号
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巻頭言
目次
現代物理のキーワード
解説
  • 崎本 一博
    原稿種別: 解説
    2018 年73 巻1 号 p. 6-14
    発行日: 2018/01/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

    物理現象においてポテンシャル障壁が大きな役割を果たすことが多々ある.原子・分子衝突の相対運動を支配する相互作用の多くは,距離Rの大きなところでR-2より速く0になる引力型であり,遠心力(∝R-2)と相互作用の和で定義される有効ポテンシャルに局所的最大すなわち障壁が現れる.特定のエネルギーでの衝突で一時的にこの障壁の内側に準安定な量子状態準位が形成されることを形状共鳴散乱(あるいはポテンシャル共鳴散乱)と呼ぶ.形状共鳴の例を水素分子H2で見てみよう.H2は回転量子数がJ≤31でないと振動の束縛状態は存在しない.J≥32だと分子は遠心力で壊れてしまうが,例えばJ=32でも準安定振動準位が3つほど存在し,形状共鳴状態として考えることができる.

    原子・分子衝突で反応を引き起こす相互作用は短距離力であることが多い.障壁が反応相互作用領域よりずっと外側にあると,形状共鳴という形で反応過程に多大な影響を及ぼし得る.一番特徴的なこととして,準安定状態が形成される共鳴エネルギーの近傍で衝突粒子が反応領域内に長く滞在し相互作用を強く受け,その結果,反応が促進されて反応断面積にピーク構造が現れる.これによる断面積の増加は一般に無視できず,共鳴現象は応用分野にとっても大きな関心事である.正確な反応速度を得るには共鳴の影響をもれなく把握しないといけない.

    H2の例で見たように,形状共鳴は角運動量Jで識別される部分波ごとの現象である.散乱の量子論に従えば各部分波に反応確率Pが定義でき,この値は0と1の間をとる.共鳴散乱の議論を明確にするためにはこの反応確率で考える方が適している.ここで,次のような問いかけをしてみよう.

    (1)共鳴が起きていないときの反応確率をP0としたとき,常にP0~0であるような衝突系は共鳴によって反応確率が劇的に増えることが期待できる.ならばどこまで大きくなり得るのか? また,最大のP=1になるにはどんな条件が必要なのか?

    (2)逆にP0~1であるような反応性の高い衝突系に共鳴現象が存在するのか?

    (3)原子・分子衝突反応では非常にたくさんの形状共鳴が見られることがある.Li+Hだと衝突エネルギー0.1 eV以下で共鳴ピークは百本をかるく超える.個々の共鳴の反応への重要性は衝突計算をして初めてわかることが多いが,こういった計算なしに何かしらの情報を得ることはできないだろうか?

    これまで量子力学や散乱の教科書・総説等で弾性散乱の形状共鳴について詳しく論じられているが,質問(1)–(3)に答えられるような衝突反応に特化した議論はほとんど見当たらない.そこで,Wentzel-Kramers-Brillouin近似をベースにし,衝突反応の形状共鳴現象について今までとは違った見方で系統的に理解することを考えたい.この見方は,原子・分子衝突反応に限らず,ポテンシャル障壁が重要になる現象一般に通用するであろう.

最近の研究から
  • 岡田 崇, 望月 敦史
    原稿種別: 最近の研究から
    2018 年73 巻1 号 p. 15-20
    発行日: 2018/01/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

    細胞内では,生命活動を維持するために,代謝系と呼ばれる膨大な数の生化学反応が起こっている.これらの反応は,互いに生成物や反応物を共有することで,(代謝分子をノード,反応をエッジとする)複雑なネットワーク構造を形成している.代謝系のネットワーク構造の情報はデータベース化されており,その巨大なネットワークの全容が明らかになりつつある.

    代謝系を調べるための実験のひとつが,酵素の「撹乱実験」である.代謝反応はそれぞれ特定の酵素によって触媒されているが,人為的に酵素量・活性を変化させて,代謝分子たちの濃度がどう応答するかを調べる.撹乱実験は,近年,大規模なネットワークに対して盛んに為されているものの,その計測結果は直観的には理解しがたいことがある.そこで,理論側には,撹乱実験を説明・予測することが求められている.

    代謝系に限らずシグナル伝達系など,細胞内の複雑な化学反応の理論研究を進めるには,少なくともふたつの困難がある.ひとつ目は,ネットワーク情報自体が不完全である点である.ふたつ目は,近年の生命科学の著しい発展にも関わらず,各反応の速度関数の関数形やパラメータなどの定量的な情報は依然として乏しい点である.

    上記の困難を克服するために,最近われわれは,Structural Sensitivity Analysis(SSA,ネットワーク構造感度解析)という理論的手法を開発した.SSAは,反応系のネットワーク情報のみから,撹乱実験に対する代謝分子の定性的応答(増減)を決定する手法である.

    SSAに基づくと,撹乱応答には次のふたつの特徴が存在することがわかる:1)酵素の撹乱に対して,ノンゼロの応答を示す代謝分子はネットワークの一部に限られる.2)これらの応答たちはヒエラルキーを作る.実はこれらの特徴の背後には,SSAから証明される,「限局則(the law of localization)」という数学的な定理が存在する.限局則は,各酵素がネットワークのどの範囲を制御するのかを,ネットワーク構造の言葉で規定する定理である.より具体的には,ある部分ネットワークΓが「分子の数-反応の数+サイクルの数=0」というトポロジカルな条件を満たすとき,Γを触媒する酵素は,Γの内部の分子にしか影響を及ぼさない,という定理である.このような特殊な条件を満たす部分ネットワークを「緩衝構造」と呼ぶ.

    限局則は,生命システムの頑健性がネットワークのトポロジーから生じている可能性を示唆する.というのは,緩衝構造は,その内部の酵素の発現量の揺らぎの影響が外部へ伝播するのを防ぐ働きをするからである.実際,大腸菌の中心代謝系のネットワークには多数の緩衝構造が存在しており,これらは系に頑健性を与えていると考えられる.

    SSAおよび限局則は,大きなネットワークの振る舞いを理解したり,データベースのネットワーク情報を検証する際に非常に有用である.これらの理論的手法の実験的な検証・応用はまだ始まったばかりであるが,生命システムをネットワーク構造から理解する基本法則のひとつになると期待する.

  • 布施 智子, 吉原 文樹, 角柳 孝輔, 仙場 浩一
    原稿種別: 最近の研究から
    2018 年73 巻1 号 p. 21-26
    発行日: 2018/01/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

    物質と光の相互作用は,多くの物理現象の基礎である.例えば発光ダイオード(LED)は半導体と光の相互作用を利用し,半導体のバンドギャップ(エネルギーギャップ)で隔てられた多数の電子とホールが再結合することによって光を発する.

    近年電子デバイスの微細加工技術が発展し,量子デバイスの研究が進んでいるが,量子デバイスにおいても,その量子状態と光との相互作用は重要である.例えば,ある量子状態は,量子準位間のエネルギー差に等しいエネルギーの光を吸収したり放出したりすることによって,別の量子状態に遷移する.

    共振器量子電磁力学(cavity QED)の手法を用いると,上記のように光を量子状態制御に利用するだけでなく,電磁場の量子化により光そのものを量子力学的に扱うことができる.即ち,物質と光との間での量子情報交換や,量子非破壊測定等の量子情報処理に不可欠な現象を記述することが可能となる.

    回路量子電磁力学(circuit QED)は,cavity QEDの原理を回路上の共振器および人工原子で実現する.circuit QEDでは半導体微細加工技術による回路の作製が可能であるため,共振器,人工原子,および両者の間の相互作用を比較的自由に設計することができる.

    当初,cavity QEDの研究がcavity中に光(光子)をとじこめることにより光と物質(原子)とを強く相互作用させることをねらって行われ,強い相互作用を実現することによって新しい量子情報分野のツールを獲得してきたことを考えると,circuit QEDの手法でより強い相互作用を実現することにより,さらに新しい応用への可能性が拓かれることが期待される.しかしこれまで,実現された相互作用のエネルギーは,光子のエネルギーの10%程度であった.

    今回我々は,circuit QEDの手法を用いて,相互作用のエネルギーが原子の遷移エネルギーや光子自体のエネルギーをも超える「深強結合状態」と呼ばれる状態を実現することに成功した.原子–光子結合系は,超伝導磁束量子ビット人工原子,集中定数型LC共振器中のマイクロ波光子,両者を結合させるジョセフソン接合から成る.測定された結合系の遷移エネルギースペクトルは複雑であったが,Rabiモデルと呼ばれる,2準位原子と調和振動子の結合系を記述するモデルに基づいた理論計算とよく一致した.この結果,結合系の原子の遷移エネルギー,光子自体のエネルギー,相互作用のエネルギーが求まり,相互作用のエネルギーは原子の遷移エネルギーよりも一桁大きく,最大で光子自体のエネルギーの130%程度にも達することがわかった.

    Rabiモデルからは,「深強結合系においては基底状態を含むエネルギー固有状態がエンタングル状態(磁束量子ビットの永久電流状態とマイクロ波光子状態のエンタングル状態)である」ことが導かれる.我々の深強結合系の測定結果とRabiモデルに基づいた理論計算との一致は,このようなエンタングル状態が実現されていることを強く示唆する.今後は,これまでにない強さの強結合やエンタングルした基底状態または励起状態の,量子情報分野への応用が期待される.

  • 川畑 貴裕, 久保野 茂
    原稿種別: 最近の研究から
    2018 年73 巻1 号 p. 27-32
    発行日: 2018/01/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

    今から約138億年前,誕生直後のわれわれの宇宙は「ビッグバン」と呼ばれる高温・高密度の状態にあった.ビッグバン理論によると,宇宙開闢の約10秒後から20分後にかけて「ビッグバン元素合成」(Big Bang Nucleosynthesis: BBN)が起こり,陽子と中性子を起点とする原子核反応によって水素,ヘリウム,リチウムなどの軽元素が生成された.このとき生成された元素の組成について,観測による推定値と理論計算による予測値を比較することは,宇宙創生のシナリオを明らかにするうえで,重要な知見を与えてくれる.

    BBNにおける4Heと重陽子の生成量は,観測による推定値と理論予測値が非常によく一致する一方で,7Liについては,生成量の観測推定値が理論予測値の約1/ 3でしかないという重大な不一致が知られている.この不一致は「宇宙リチウム問題」と呼ばれ,ビッグバン理論に残された深刻な問題として大きな関心を集めている.

    宇宙リチウム問題を巡っては,いくつかの解決策が提案されており,それらは三つに大別される.一つ目は,観測から7Liの原始存在量を推定する方法に問題があるという説であり,二つ目は,宇宙リチウム問題の原因を標準理論を超える新物理に求める説である.そして,三つ目は,BBN計算に用いられている原子核反応率に誤りがあるという説である.しかし,現時点でこれらの説を決定づける実験的・観測的な証拠は見つかっておらず,宇宙リチウム問題は,宇宙物理学だけでなく,天文学,原子核物理学,素粒子物理学までも巻き込んだ物理学における重要な問題となっている.

    原子核物理学の観点からこの問題を考察すると,7Liは主に7Beが電子捕獲崩壊することで生成される.しかし,7Beを生成する反応については,すでに複数のグループによる測定がなされており,BBN計算の結果を大きく変化させる余地はない.

    近年,7Beの生成率ではなく,7Beを他の原子核に転換する反応に注目すべきとの指摘がなされている.もし,BBNの過程で,7Beが7Liへ崩壊する前に他の原子核へ転換する反応の寄与が増大すれば,BBN計算における7Liの生成量が減少し,宇宙リチウム問題を解決できる可能性がある.

    7Beを転換する反応として有力視されていたのが,n7Be→4He+4He反応である.しかし,7Beと中性子はどちらも短寿命の不安定核であるため,この反応を直接に測定することは容易でなく,これまで,BBNに関係するエネルギー領域における断面積は測定されていなかった.

    このような状況のなか,我々は大阪大学核物理研究センターにおいて,逆反応である4He+4He→n7Be反応を測定し,詳細釣り合いの原理に基づいてE=0.20–0.81 MeVのエネルギー領域におけるn7Be→4He+4He反応の断面積を初めて決定することに成功した.その結果,n7Be→4He+4He反応の断面積は,BBN計算にこれまで用いられてきた推定値より約10倍も小さく,宇宙初期において中性子が7Beと衝突し二つの4Heに分解する反応の寄与は小さいことが明らかになった.

    残念ながら,宇宙リチウム問題の謎はさらに深まる結果となったが,今回の成果は標準模型を超える新しい物理の探索や,原子核反応率の見直しなど,さらなる研究を動機づけるに違いない.

  • 水野 英如
    原稿種別: 最近の研究から
    2018 年73 巻1 号 p. 33-38
    発行日: 2018/01/05
    公開日: 2018/09/05
    ジャーナル フリー

    電子デバイスにおける熱のマネジメント,熱を電気に変換する熱電変換など,熱制御が関わる近代技術では,低い熱伝導率をもった物質が広く用いられる.一般に,ガラスは低い熱伝導率をもった物質として知られている.ガラスとは,結晶のように規則的な周期構造をとることなく,分子が乱れた状態で固まった固体を指す.ガラスはその乱れた構造ゆえに,結晶とは異なる熱伝導特性を示す.結晶では「フォノン」と呼ばれる分子振動が熱伝導を担うことはよく知られているが,ガラスにおいてもフォノンがエネルギーを伝達する役割を果たす.しかしながら結晶とは異なり,ガラスのフォノンは乱れによって散乱される.

    結晶とガラスを比べたとき,フォノンが乱れによって散乱されるガラスの方が,熱伝導率が低くなることは納得できるだろう.しかしながら注目すべきは,結晶とガラスの熱伝導率の差である.ガラスは結晶に比べて23桁も小さい,極めて低い熱伝導率をもつ.同じ分子から成る物質の中で,ガラスの熱伝導率は最も低いとさえ言及されてきた.我々は,ガラスの乱れはフォノンの寿命を熱振動の時間スケール,すなわち最小の時間スケールにまで減少させるものであることを示した.この状況では,フォノンは波として伝搬するというより,拡散的に振る舞うと考えるのが適切である.したがって,ガラスは乱れによってその熱伝導率が最小化されていると言える.

    では,ガラスの熱伝導率を基準に考えたとき,ガラスと同等あるいはそれよりも低い熱伝導率をもった物質は存在するだろうか.ガラスのフォノンの寿命が最小の時間スケールであることから,その熱伝導率を下回るにはフォノンの伝搬を完全に遮断する必要があるであろう.現代では,分子スケールで物質を設計するナノテクノロジーが急速に発展している.これによって,目的に適った物性をもつ物質を開発することができる.ナノ構造化の例として,異なる物質を層状に並べた層状構造化が挙げられる.Si(シリコン)層とGe(ゲルマニウム)層を交互に並べた構造は,層状構造化物質の代表例である.ナノスケールで構造を調節することによってフォノンの伝搬を操作し,熱伝導率の最適化を図る.

    先駆的な実験研究は,層状構造化によってガラスよりもさらに低い熱伝導率を実現できることを示した.我々はシミュレーションを用いて,層状構造化によってフォノンを層境界面において反射させることができ,これによって全く同じ分子から構成されるガラスの熱伝導率と同等,あるいはそれよりも低い熱伝導率が実現可能であることを示した.したがって,全く乱れた状態に分子を配置する以外に,より洗練された構造上に分子を配置することによって,極めて低い熱伝導率を実現することができる.

    このように,ガラスと層状構造化物質(ナノ構造化物質)はともに低い熱伝導を有する.しかしながら,両者における熱伝導の機構は全く異なる.ガラスでは乱れがフォノンを散乱させることによって,低熱伝導率が実現される.一方で,層状構造化物質では層間の境界面がフォノンを反射させることによって,低熱伝導率が実現される.したがって,ガラスと層状構造化物質ではフォノンの挙動が異なり,全く違う仕組みで低熱伝導率が実現されている.

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