クォーク・グルーオンの力学を記述し,ハドロン物理学の基礎でもあるQCD(Quantum Chromodynamics,量子色力学)は,有限温度,有限密度に拡張すると,非閉じ込め相,カラー超伝導相などの豊富な相構造を持っていると考えられている.そして,宇宙初期,超高エネルギー重イオン衝突,重い核内,中性子星内部,星の進化の最終ステージなどの研究において,QCDに基づいた信頼度の高い計算が求められている.有限温度QCDの研究では,格子QCDが第一原理計算として年々データの信頼度を上げながら重要な役割を果たしている.しかし,有限密度QCDでは,数値シミュレーションは「符号問題」という難問をかかえ,計算手法開発のチャレンジが続いている.本解説では,分野外の読者の方に理解してもらうことを目指して,符号問題とは何か,なぜ起こるのか,それに対してどのようなチャレンジが行われているのかを紹介する.
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