Print ISSN : 0016-450X
44 巻, 4 号
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  • 赤崎 兼義
    1953 年 44 巻 4 号 p. 401-420_2
    発行日: 1953/12/30
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    本研究の主な対象は岡林式広汎子宮剔除術の荻野氏変法を以て荻野自身手術剔出し,術後5年乃至それ以上経過を観察した子宮頸癌278例であるが,他に子宮頸癌屍35例,試験的切除頸癌組織及び子宮頸癌例の膣内容塗抹標本等をも参考に供した。
    如上の子宮頸癌手術材料の病期を新国除分類法に従って分けると第I期49例,第II期193例,第III期36例となり,また組織学的分類では腺癌ないし単純癌33例,基底細胞ないし扁平上皮癌245例となる。もっとも組織学的分類については1個の子宮頸癌で全部同一像を示すことはむしろ稀であって,場所により異なる極めて多様な像を示すものが多い。
    組織学的分類の基礎をなす各項目を十分吟味した上で,著者の材料につきこの癌の組織学的悪性度に関するBrodersとMartzloffの方法を推計学的に検討した結果,これ等の方法による予後判定には意義を認め難いことを明かにした。また癌細胞の核分剖数と予後との間にも何等の相関関係を認めることが出来なかった。
    しかるに1949年今井によって提唱された癌発育型のC.P.L.分類と予後との間には極めて密接な関係の存することを推計学的に明かにした。まず癌腫のC型発育型を示したものはその86.5%迄術後5年間生存しているのに対し,L型特にLIII型発育を示すものは同じ期間に94%癌の再発または転移に基き死亡している。なおLI,LII,LIII各発育型の間にも推計学的に明かな有意の差を認めることが出来た。P型発育型についてはPI及びPII型と予後との間には明かな相関関係を見出し難いが,PIII型の発育を示すものでは明白に予後が悪い(手術5年後迄の間に75%死亡)ことを知った。かかる今井のC.P.L.分類の本態についてはなお説明困難であるが,生体の呈する一種の抗癌的作用に帰してよいであろう。すなわちC型発育はかかる作用の強力に存する事を示し,P型及びL型はこれを欠ぐか,あるいは減弱していることを物語るものと思われる。
    次に著者の取扱った手術材料をリンパ節転移の有無によって二群に分け,それぞれ予後との関係を検討して見た結果,リンパ節転の証明された群では60%迄術後5年以内に死亡しているのに対し,転移の認められなかった群では僅かに17%の死亡率を見たに過ぎない。
    子宮頸癌細胞の血管内侵入を認めたのは278例中僅か13例であり,しかもその中の6例が5年後健存であった。
    さらに癌組織の試験的切除が予後に及ぼす影響を切除組織の組織像のC.P.L.分類と手術的剔除組織のそれとによって比較検討して見た結果,なお例数の過少なうらみはあるが,認むべき影響なしとの結論に達した。
    最後に子宮頸癌の臨床的分類の一つの指標とされているいわゆる子宮旁結合織浸潤の本態を57例(扁平上皮癌49例,腺癌8例)について検索して見たのであるが,癌細胞の浸潤を認めたものは第II期で31.6%第III期で41.9%に過ぎず,特に第III期の症例といえども癌性浸潤が骨盤壁にまで到達したものは1例もなく,その主体は結合織増殖(100%)であることを確めた。
  • 森 和雄
    1953 年 44 巻 4 号 p. 421-427_6
    発行日: 1953/12/30
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    白米に5∼10%の割合で脂肪酸を添加した飼料を白鼠に与えることによって,動物の前胃粘膜に乳嘴腫様変化が生成されることが確められた。実験に際し,脂肪酸としては,プロピオン酸,酪酸,吉草酸,カプロン酸,カプリン酸,ラウリン酸並びにパルミチン酸を選んだ。しかし,実験の結果,いわゆる低級脂肪酸(プロピオン酸,酪酸並びに吉草酸)飼与の場合にのみ動物の前胃に変化がみとめられ,他の高級脂肪酸の際には著変がみられなかった。
    これらの前胃変化は,いづれの脂肪酸の場合でも大体同じ傾向を示し,扁平上皮細胞の著しい角化並びに肥厚増殖が先行し,さらに乳嘴腫様変化にまで発展する。酪酸飼与の場合に限り,特徴あるKeratin cystの出現がみられる。しかし500日に亘る長期の飼養にも拘らず,腫瘍化することはなかった。
  • 森 和雄
    1953 年 44 巻 4 号 p. 429-435
    発行日: 1953/12/30
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Azo化合物に肝癌成生実験に際し,その基本飼料としての穀類を種々かえるとか,あるいは白米飼料にいろいろの物質を添加することによって,肝癌の生成を抑制する報告が従来多くなされている。本研究では,飼料に一定量の醋酸を加えることによって,かなり著しい肝癌生成抑制の効果を認めたことを報告する。
    白鼠にp-dimethylaminoazobenzene (Butter yellow)を混じた白米飼料を与え,肝癌生成実験を行った。この際Butter yellow0.6gを氷醋酸50ccにとかし白米1kgに混じた飼料を与えた群(第1群),同量のButter yellowを25ccの氷醋酸にとかし白米1kgに混じた飼料を与えた群(第2群),並びに対照としてメタノール50ccにButter yellow0.6gをとかし白米1kgに混じた群(第3群)の3群にわけ,それぞれ50匹,10匹並びに30匹の白鼠を飼養した。各群共少量の肝油を与えたこと,週3回の野菜と常に水を与えたことは同様であった。実験の早期に死んだ動物は別として,第1群の動物のうち10匹は120日目に,8匹は140日目に,さらに25匹は165日目に出血死せしめ剖見した。第2群並びに第3群は150日目に実験を打切り動物の肝所見を第1群のそれと比較した。
    肝所見は肝癌,肝硬変,表面不平滑肝並びに肉眼的正常肝の4段階に大別し,実験の結果は第1表に総括した。表に明かなようにButter yellow白米食に5%の割合に醋酸を添加することによってかなりの程度の発癌御制があることが証明された。これらの実験結果から判断して飼料に醋酸を混じた際,Butter yellowが動物に摂取される前にすでに分解されるのではないかという疑問があったため,Butter yellow醋酸飼料からButter yellowの回収を試みたところ,量的並びに質的に全く一致した結果を得たので上記の懸念は一応解消した。
    Butter yellow発癌抑制に関し,Catalaseの意義が相当重大であるので醋酸5%を含む白米飼料を30日間与えた白鼠の肝Catalaseを測定したところ,正常肝より多少うわまわる値を示した。
    要するに5%程度の醋酸が飼料に添加されるとButter yellow肝癌の生成が極度に抑制される。このことは従来抑制物質として知られているもののうち,その構造が最も簡単である点で注目に値すると思う。
  • 予報
    浜島 義博, 金森 秀夫, 国枝 義治
    1953 年 44 巻 4 号 p. 437-443_2
    発行日: 1953/12/30
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    II及びIII Capsuläre Pneumokokkenの型特異性多糖類を抽出してその特異性免疫反応について研究中,その中和抗体機序に興味ある事実を認めた事よりヒントを得,この理を吉田肉腫細胞に応用してみたならば如何なる結果を得るだろうかと,肉腫中多糖類を低温下に抽出しその影響を観察したところ若干の知見を得たので記述した。しかし現在なお,持続投与例並びに追加試験を継続中であり未結論のままであるが,得た所見を予報として記載した。肉腫多糖類は醋酸反応とクロロフォルム,ブタノール抽出法を利用し,アルコール沈澱をもって得,反復抽出を施して精製品を得た。吉田肉腫細胞に及ぼす影響は,純培養状態にて直接腹腔内に食塩水にて溶解した多糖類を注入して腹水細胞に接解させた直接効果の有無を時間を追い検討した。肉腫細胞原形質に選択的に融解作用を及ぼし,この際,原形質のいわゆる明庭部に最も早く障碍を引き起すことを知った。核に対する直接作用は全く認められなかったが,60mgの大量投与の際には,原形質が完全に融解消失して裸核像を呈するに到る細胞もあった。しかし腫瘍抑制効果としては作用は一時的で永続性に欠けるが,他の抑制物質(例えばNitrogen MasturdやColchichin)に較べ生体に及ぼす害の比較的少い利点があり,その連続投与効果について目下研究中である。
  • 吉田肉腫並びに腹水肝癌による研究
    神崎 一吉
    1953 年 44 巻 4 号 p. 445-463_3
    発行日: 1953/12/30
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1) 吉田肉腫(29例)及び腹水肝癌(22例)のシロネズミ左側心臓内移植実験を行い,各種臓器の腫瘍形成状態をおのおのの場合において検索し,さらに両者の比較を行った。
    2) いずれの腫瘍においても極めて多数の腫瘍細胞(吉田肉腫の場合では3億以上の数。注射後数分以内に動物が死亡する程の量)を左側心臓内に注入した場合には,検査した限りのすべての臓器において腫瘍細胞が満遍なく散布されていることが確認できる。
    3) 吉田肉腫,腹水肝癌のいずれの場合においても細胞の純培養状態の腫瘍腹水約0.05cc(吉田肉腫の場合には細胞数約10,000,000)の移植では動物は急死することなく腫瘍死を遂げる。平均生存日数は前者では10日(6∼20日),後者では13日(8∼22日)。かかる例について各種臓器の腫瘍形成状態が検索された。
    4) 吉田肉腫では腫瘍死動物の剖検において腫瘍形成の特に顕著な臓器は腎,骨髄,肝,胃,腸及び胸腺であるのに対して,腹水肝癌においては脳,及び眼球における腫瘍形成が特に顕著である。淋巴腺,心,卵巣,副腎及び膵では両者のいずれの場合においても腫瘍形成が著しい。
    5) 動脈血によって全身に平等に腫瘍細胞を散布させてしかも臓器により腫瘍成長の速度に著しく差違があることがこの実験において明かにされた。ことに肉腫と癌腫とにおいて腫瘍好発臓器が上述の如く明かに異ることは,これらの差違が単に機械的理由によってのみ説明出来ないことを示すものであろう。しかし,腫瘍はもし直接移植された場合には,その移植されたいずれの場所においても成長するということも同時に記憶されねばならないだろう。
    6)この実験において特に腹水肝癌の場合に,淋巴腺転移は血行によって強く起ってくるものであることが示された。このことは逆行性の淋巴行性の転移等の解釈に対して有意義な資料であると考える。
    7) 以上は左側心臓内に移植して得られた所見であるが,右側心臓内または股静脈内に移植した場合には次の通りである。
    腹水肝癌の場合には細胞はことごとく肺毛細管に捕捉されて,肺には極めて高度の腫瘍増殖を起すが,肺以外の臓器には腫瘍の形成が極めて乏しいか,あるいは全く起らない。これに反して吉田肉腫の場合には左側心臓内移植の場合に比して著明な差を示さない。これは吉田肉腫の場合には個々の自由細胞が容易に肺の毛細管を通過し得るためであろう。
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