本研究の主な対象は岡林式広汎子宮剔除術の荻野氏変法を以て荻野自身手術剔出し,術後5年乃至それ以上経過を観察した子宮頸癌278例であるが,他に子宮頸癌屍35例,試験的切除頸癌組織及び子宮頸癌例の膣内容塗抹標本等をも参考に供した。
如上の子宮頸癌手術材料の病期を新国除分類法に従って分けると第I期49例,第II期193例,第III期36例となり,また組織学的分類では腺癌ないし単純癌33例,基底細胞ないし扁平上皮癌245例となる。もっとも組織学的分類については1個の子宮頸癌で全部同一像を示すことはむしろ稀であって,場所により異なる極めて多様な像を示すものが多い。
組織学的分類の基礎をなす各項目を十分吟味した上で,著者の材料につきこの癌の組織学的悪性度に関するBrodersとMartzloffの方法を推計学的に検討した結果,これ等の方法による予後判定には意義を認め難いことを明かにした。また癌細胞の核分剖数と予後との間にも何等の相関関係を認めることが出来なかった。
しかるに1949年今井によって提唱された癌発育型のC.P.L.分類と予後との間には極めて密接な関係の存することを推計学的に明かにした。まず癌腫のC型発育型を示したものはその86.5%迄術後5年間生存しているのに対し,L型特にLIII型発育を示すものは同じ期間に94%癌の再発または転移に基き死亡している。なおLI,LII,LIII各発育型の間にも推計学的に明かな有意の差を認めることが出来た。P型発育型についてはPI及びPII型と予後との間には明かな相関関係を見出し難いが,PIII型の発育を示すものでは明白に予後が悪い(手術5年後迄の間に75%死亡)ことを知った。かかる今井のC.P.L.分類の本態についてはなお説明困難であるが,生体の呈する一種の抗癌的作用に帰してよいであろう。すなわちC型発育はかかる作用の強力に存する事を示し,P型及びL型はこれを欠ぐか,あるいは減弱していることを物語るものと思われる。
次に著者の取扱った手術材料をリンパ節転移の有無によって二群に分け,それぞれ予後との関係を検討して見た結果,リンパ節転の証明された群では60%迄術後5年以内に死亡しているのに対し,転移の認められなかった群では僅かに17%の死亡率を見たに過ぎない。
子宮頸癌細胞の血管内侵入を認めたのは278例中僅か13例であり,しかもその中の6例が5年後健存であった。
さらに癌組織の試験的切除が予後に及ぼす影響を切除組織の組織像のC.P.L.分類と手術的剔除組織のそれとによって比較検討して見た結果,なお例数の過少なうらみはあるが,認むべき影響なしとの結論に達した。
最後に子宮頸癌の臨床的分類の一つの指標とされているいわゆる子宮旁結合織浸潤の本態を57例(扁平上皮癌49例,腺癌8例)について検索して見たのであるが,癌細胞の浸潤を認めたものは第II期で31.6%第III期で41.9%に過ぎず,特に第III期の症例といえども癌性浸潤が骨盤壁にまで到達したものは1例もなく,その主体は結合織増殖(100%)であることを確めた。
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