トリパン青によるDAB肝癌抑制についての当面の問題は, 2点に集約されよう。第1は, トリパン青が Miller 等の肝蛋白結合DABに対してどのような影響を与えるのか。この点についての従来の報告には, 結合DAB量に対して, リボフラビンまたは20-メチルコラントレンと同じように, その量を減少させ, また maximum level の時期をおくらせるという報告と, このような作用を全く示さないという報告がある。第2は, 市販のトリパン青には種々の不純物, または副生色素が含まれていて, メルク製品の場合, 少くとも赤色, 紫色及び青色の3種色素の混合物であった。このような副生色素が市販のトリパン青の肝癌抑制においてどのような作用をもつものか。本報告は, これら2つの問題に対する結果を取扱っている。
1) トリパン青の市販製品に含まれる赤色色素は熱エタノールによって除くことができる。
2) 上の操作によってメルクのトリパン青から赤色色素を除いた色素標本が, 1%水溶液として2週間毎にラッテの皮下に注射された。20週に亘るDAB飼育期間を通じて, 結合DABの量及び maximum level の時期には有意義な差を見出し得なかった。
3) 1%トリパン青水溶液を活性アルミナによる吸着クロマトグラフィーによって, 赤色, 紫色及び青色成分に分離する。これらの色素成分のうちでは, 青色色素成分が最も肝癌抑制効果が強いけれども, もとの市販製品に比べると, その効果は弱い。しかし, 毒性もまた, 低下することが注目された。
4) 3) の場合のトリパン青の青色色素は, 副生色素である赤色及び紫色色素がもとの製品より少いことは明らかであるが, それらを全く含まないものではない。市販のトリパン青中の青色色素が活性アルミナにより繰返し純化された。この色素標本を用いた場合, もはや肝癌抑制効果は完全に失われ, 生体染色能力も毒性も著しく低下した。市販製品の中の副生色素のどのような種類のものが, どのような量に含まれるとき, 最小の毒性で最大の肝癌抑制効果を示すか今なお明らかではない。
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