本研究では,特に進路選択に関係する職業的同一性・原因帰属・達成動機等について,それらの関係がどのようになっているかを進路選択の観点から明らかにする。調査対象は大学工学部3年生男子,115名である。調査は,将来の希望職種とそれに対する就職確率,希望職業に対する決定時期,職業的同一性地位,進路選択に関する原因帰属,達成動機について,それぞれ質問紙で実施した。主な結果は次の通りである。1.将来の職業に対する就職確率は約50%で,それと職業的同一性地位との関係はない。2.職業的同一性地位の同一性達成や早期完了の者は,何れも高等学校時代までに,将来の職業の決定をしているようである。職業的同一性地位のモラトリアムや同一性拡散の者は,何れも高等学校時代や大学時代になって,将来の職業を決める傾向が強いようである。3.職業的同一性が確立している者は不断の努力に,それが確立していない者は運に,それぞれ進路選択に関する原因帰属をしている。4.達成動機(課題に対する持続性)は,職業的同一性地位の同一性達成とモラトリアムの者が同一性拡散の者よりも高い。5.達成動機(課題に対する持続性)の高さの低い者は,進路選択に関して運や課題の困難度に,その中程度の者は,能力や友人に,それぞれ進路選択に関する原因帰属をしている。達成動機(高い目標設定)の高さの高い者,中程度の者は,進路選択に関して親や教師に原因帰属している。達成動機の高低に関係なく,不断の努力や直接の努力に,進路選択の原因帰属する傾向があるようである。6.数量化理論第II類で,教職希望者と工業技術希望者との職業的同一性地位,進路選択に関する原因帰属,達成動機等を分析してみると,教職希望者は,達成動機が高く,職業的同一性の確立がなされている者が多く,運をあまり重視せず,不断の努力が必要であると思っている。工業技術希望者は,職業的同一性があまり確立しておらず,職業選択は運を重視する傾向があるようである。
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