脳循環代謝(日本脳循環代謝学会機関誌)
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27 巻, 2 号
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原著
  • 森田 奈緒美, 清水 彰英, 寺川 裕介, 梶本 勝文, 上原 敏志, 丸山 大輔, 越野 一博, 飯田 秀博, 中川原 譲二
    2016 年 27 巻 2 号 p. 215-224
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
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    近年のPET 検査は,CT による吸収補正を行うことで検査の迅速化,画像の高分解能化,信号雑音比向上が実現された反面,CT とPET データとの位置ずれによる再構成画像の定量精度低下やアーチファクトが指摘されている.本研究では,脳15O ガスPET 検査中のわずかな体動により臨床所見とは異なる画像所見を呈した症例について検討した.臨床所見との乖離や明らかなエラーと思われる画像所見を呈し,2 cm までの位置ずれが確認できた6 症例を対象とし,位置ずれの影響について評価した.また正常ボランティアの画像を用いて位置ずれによる定量値の変動について検討した.2 例はOEF 画像にてリング状のアーチファクトが見られ,検査中に下向きの体動を確認した.2 例は病変と反対側,1 例は同側の血流,代謝の低下を認め,左右方向への位置ずれが原因であった.1 例は検査後右向きの位置ずれがみられ,OEF 画像で深部白質の集積が著明に亢進していた.定量値の変動は位置ずれが5 mm 以上で著明となり,視覚的にも左右差が確認された.CT での補正により,わずかな体動が結果に大きな影響を及ぼす可能性が示唆された.

  • 久門 良明, 渡邉 英昭, 田川 雅彦, 山下 大介, 松本 調, 大西 丘倫
    2016 年 27 巻 2 号 p. 225-233
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    【目的】頸動脈狭窄症に対する内膜剝離術(CEA)やステント留置術(CAS)術前の脳血流評価の意義を検討した.【方法】術前脳血流検査をした220 件(CEA: 99,CAS: 121)を対象とし,黒田分類で評価してtype 別に手術結果を比較した.Type I が115 件(CEA: 35,CAS: 80),II が83(CEA: 46,CAS: 37),III が22(CEA: 18, CAS: 4)であった.【結果】1)MRI で新たな梗塞はtype I で28 件(24.3%),II で21 件(25.3%),III で2 件(9.1%)にみられたが,各type 間に有意差はなかった.2)虚血性神経症状はtype I で5 件(4.3%),II で1 件(1.2%),III で2 件(9.1%)にみられたが,各type 間に有意差はなかった.3)過灌流症候群はtype I で0 件(0.0%),II で2 件(2.4%),III で4 件(18.2%)にみられ,type III は有意に高頻度であった.【結論】血行再建術前の脳血管反応性の評価は,術後の過灌流症候群発現との関連が認められ,低頻度ながら重篤な合併症につながる過灌流症候群の予知には必須と考えられた.

  • 夏目 貴弘, 外村 和也, 牧野 洋, 木村 哲朗, 梅村 和夫
    2016 年 27 巻 2 号 p. 235-241
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    前臨床研究において対象の経時的な観察のためにmagnetic resonance imaging(MRI)を導入する場合,マウス・ラットなどには小動物専用MRI 装置,それよりも大きな動物には臨床用に設計されたMRI 装置が必要であり,両装置の導入は非常に高コストである.本研究では研究目的で導入した臨床用3T-MRI 装置とマウス頭部用コイルを用いてマウス脳イメージング環境を構築することを目的とした.ファントム実験により最適な撮像パラメータを決定し,脳動脈瘤モデルマウスを対象にT2 強調画像およびMR angiography(MRA)の撮像を行った.T2 強調画像は脳実質において動脈瘤破裂による出血や周囲の脳梗塞領域を評価するために十分な画質が得られ,MRA では主な脳動脈および脳動脈瘤を描出することができた.本研究で構築したイメージング環境では新たに小動物用MRI 装置を導入することなく,マウス脳イメージングを行うことができた.

  • 片山 正輝, 酒井 克彦, 三條 祐介, 中村 智代子, 冨田 喜代美, 井上 賢, 岡田 聡, 村松 和浩, 野村 武史, 菅 貞郎
    2016 年 27 巻 2 号 p. 243-247
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    当院では脳卒中患者に入院時から口腔ケアと嚥下評価・摂食嚥下リハビリテーションを実施している.誤嚥性肺炎の予防効果と退院時経口摂取可否に関する影響因子を検討した.対象は,平成24 年1 月1 日から12 月31 日に脳卒中センターに入院した324 例で,年齢,性別,脳卒中重症度(NIHSS, mRS),ADL 評価(FIM),経口摂取可否,残存歯数,口腔衛生状態の良不良,舌運動の良不良を評価し,誤嚥性肺炎発症率と退院時経口摂取可否の影響因子を検討した.結果は,男性181 例,女性143 例,平均年齢は70.1±13.6 歳.肺炎発症率は全体で10.2%,退院時経口摂取可能例では7.6%,困難例では21.0%であった.退院時経口摂取可能は262 例(80.9%),経口摂取困難は62 例(19.1%)であった.多変量解析にて退院時経口摂取は入院時の舌運動と有意に関連を認めた(p<0.05).入院時の舌運動良不良は退院時経口摂取を予測し,口腔ケアと摂食嚥下リハビリテーションは誤嚥性肺炎を予防する可能性が示唆された.

シンポジウム 2 脳梗塞の病態と新規治療開発の将来像
  • 伊藤 義彰
    2016 年 27 巻 2 号 p. 249-253
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    アテローム血栓症の急性期には,プラークの破綻に伴い内皮下結合織が血管内腔に露呈し血小板血栓が形成される.血栓の抑制には,抗血小板剤併用が効果的であるが,一方で内皮障害の修復をターゲットとした治療法として,破綻したプラークの再内皮化を促進する,内皮細胞の分裂・移動を促進する,内皮細胞同士の結合を強固にする,内皮細胞と結合織との接着を補強する,結合した血小板を剝離し内皮細胞に置換する,などの治療法が検討されている.一方で,高度な主幹動脈狭窄の結果虚血に陥りつつある病巣に対して,血管新生によって病巣を救う方法として,我々は脳表で効率よく血管新生を促す血管再生シートを考案し,動物虚血モデルで大きな効果があることを示した.この膜状の構造体の中には血管内皮細胞,周皮細胞を含有したコラーゲンからなり脳表に移植することで髄膜血管と吻合を形成し,虚血領域の穿通枝に効率よく血流を送ることができる.

  • 髙橋 愼一
    2016 年 27 巻 2 号 p. 255-258
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    脳内にはニューロンのほか,その同数以上のグリア細胞が存在する.グリア細胞には外胚葉由来のマクログリアとしてアストログリアとオリゴデンドログリア,胎生期に卵黄囊から脳内に移行した中胚葉由来のミクログリアの3 種のグリア系細胞が存在し,ニューロンと協調し正常機能を担っている.グリア系3 細胞間にも相互作用が存在し,虚血性脳卒中の病態において重要な役割を果たす.我々はこれまでグリア細胞のうち,アストログリアの機能ならびに脳卒中の病態への神経保護的な作用を中心に研究を進めてきた.2014 年の本学会シンポジウムではアストログリアをターゲットとした脳卒中の治療戦略について発表したが,2015 年の本シンポジウムではさらに一歩進めたグリア系細胞の統合的機能制御による新しい脳卒中治療戦略について,現在進行中の研究成果を紹介する.

  • 大星 博明
    2016 年 27 巻 2 号 p. 259-263
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    近年脳虚血後に生じる炎症反応・免疫応答が,虚血性脳損傷を修飾する重要な因子として注目されている.損傷脳組織から放出されるHMGB-1 やヌクレオチドなどのダメージ関連分子パターン(DAMPs)は,Toll 様受容体(TLR)等を介して炎症応答細胞を活性化し,炎症性シグナルカスケードによる脳浮腫の増悪やペナンブラ領域の細胞死をもたらし,二次的な脳梗塞巣の拡大へとつながる.我々は最近脳虚血における新たなDAMPsとしてペルオキシレドキシンがTLR2 やTLR4 を介して浸潤マクロファージを活性化することを明らかにした.また,脳虚血後の炎症反応において,活性化されたマクロファージがインターロイキン-23(IL-23)を放出し,γδT 細胞を活性化してIL-17 を産生させ,二次的な脳梗塞の増大に寄与することも明らかにしている.脳虚血後に生じる自然免疫を中心とした反応をさらに解明することによってtherapeutic window の広い脳保護療法へと発展することが期待される.

  • 下畑 享良, 金澤 雅人, 鳥谷部 真史, 小山 美咲, 高橋 哲哉, 西澤 正豊
    2016 年 27 巻 2 号 p. 265-269
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    我々は,脳梗塞に対する組織プラスミノゲン・アクチベーター(t-PA)療法に併用し,予後を改善する薬剤の開発を目指している.成長因子プログラニュリン(PGRN)に注目し検討を行ったところ,脳虚血後の著明な発現増加が確認され,虚血中心ではミクログリア,ペナンブラでは神経細胞がその産生を担っていた.脳虚血におけるPGRN の役割を確認するため,PGRN KO マウスとt-PA 投与脳塞栓モデルを用いた検証を行ったところ,PGRN の欠乏は脳梗塞の増悪,逆にPGRN 投与は脳保護的に作用した.PGRN の効果は多彩で,TAR DNA-binding protein 43 kDa を介する神経保護作用,血管内皮増殖因子の抑制を介する血管保護作用,インターロイキン10 を介する抗炎症作用を認めた.PGRN は多面的な脳保護作用を持つ可能性があることから,脳梗塞の新規治療薬として有望である.

  • 吾郷 哲朗
    2016 年 27 巻 2 号 p. 271-275
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    神経機能を司る最小機能単位としてneurovascular unit (NVU)という概念が確立してきた.NVU は神経細胞を中心に,アストロサイト,毛細血管の内皮細胞・周皮細胞によって構成される.血液脳関門は内皮細胞間のタイトジャンクションによって形成されるが,その構造維持に周皮細胞が不可欠であることが明らかとなり,周皮細胞により一層の注目が集まっている.周皮細胞の機能は,遺伝的要因,加齢,生活習慣病などによって影響をうける.その機能破綻は,血液脳関門の破綻,さらには神経機能障害の原因となるため,周皮細胞機能の維持は極めて重要である.本稿では,周皮細胞の発生と機能維持に不可欠と考えられるPDGFRβ に着目しながら周皮細胞機能に言及したのち,脳梗塞発生時の血液脳関門維持と修復,さらに脳梗塞巣そのものの修復における周皮細胞の役割について言及する.脳血管障害を含む種々の中枢神経疾患において周皮細胞が新規治療開発の標的となることが期待される.

  • 髙木 俊範, 原 英彰
    2016 年 27 巻 2 号 p. 277-280
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    脳卒中には様々な病態が含まれることは周知の事実である.脳梗塞の最も有効な治療が閉塞した血管の再開通であることは間違いないが,その中にも様々な病態が含まれ,それぞれに対し個別治療が望まれるようになってきた.またそれらは極めて短期間の間で時代とともに変遷してきた.直接神経を保護する薬剤の検討から始まり,組織プラスミノゲンによる再開通療法が始まれば,その時間的制約や出血性合併症に対する検討が必要となった.また神経保護のために,neurovascular unit を包括した保護戦略が謳われ始めた.こうしたその時々の臨床課題に対し,当研究室ではシロスタゾールという単一の薬剤での解決を目指し,基礎研究の視点からアプローチしてきた.抗血小板薬として開発されたシロスタゾールを用いた一連の研究を通して,薬は単一の薬効をのみを有するのではなく,マルチファンクションを有することがあると示された.

シンポジウム 5 抗血栓薬服用中の脳出血
  • 久保 道也, 桑山 直也, 岡本 宗司, 堀 恵美子, 柴田 孝, 梅村 公子, 堀江 幸男, 田中 耕太郎, 黒田 敏
    2016 年 27 巻 2 号 p. 281-286
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    富山県では脳出血死亡率が最近10 年間に男女とも漸増傾向にある.こうした背景を踏まえて,最近6 年3カ月間に当院脳卒中センターに入院した急性期脳出血患者(連続892 例)について,抗血栓療法の有無に分けてその関連因子と転帰を中心に検討した.抗血栓療法中の脳出血発症患者が全体の22.2%を占めており,抗血栓療法患者の方が非抗血栓療法患者に比べて有意に血腫増大傾向が高く(18.7% vs 3.2%: p<0.01),また抗血栓療法中患者の転帰の方が不良であった.抗血栓療法中患者の血腫増大を部位別に見ると,被殻出血が圧倒的に多く53.7%に達した.さらに,無症候性脳梗塞や慢性虚血性変化に対する安易な抗血栓療法や心房細動患者への抗血小板剤投与例が散見された.抗血栓療法患者の脳出血予防のためには,厳重な血圧管理・安易な抗血小板剤投与の回避・心原性脳塞栓症予防のための適切な薬剤選択の3 点に焦点をおいての,かかりつけ医との連携が必須と考えられた.

  • 秋山 久尚
    2016 年 27 巻 2 号 p. 287-291
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    近年,高齢化に伴う非弁膜症性心房細動や脳卒中二次予防の患者数増加により,抗血栓薬内服の頻度が増えている.これに伴い抗血栓薬(殊に抗凝固薬)内服中の脳出血合併頻度(0.62~1.8%/年)の増加が認められ,また,この抗血栓薬内服が,高血圧とともに脳出血発症後の血腫増大に関連するリスクのひとつとして考えられている.このため脳出血発症後の血腫増大を抑制するために急性期からの積極的な降圧療法が有効と報告されているが,抗血栓薬内服が血腫増大に寄与するか否かについて,厳重な血圧管理を行った急性期脳出血例を対象とした検討は行われていない.SAMURAI-ICH 研究は,国内10 施設が参加して2009 年7 月から2011 年6月まで,年齢20 歳以上,Glasgow Coma Scale 5 点以上,血腫量60 ml 以下の急性期天幕上脳出血211 例(男性130 例,平均年齢65.6±12.0 歳)を登録し行われた前向き研究である.入院時の収縮期血圧が180 mmHg を超えた症例について,発症3 時間以内にニカルジピン持続静注による降圧治療を開始し,積極的な降圧療法の有効性と至適降圧目標値を明らかにすることを目的に行われた.今回,発症超急性期から厳重に血圧管理(2 時間以内に収縮期血圧が120~160 mmHg へ到達)が行われた脳出血例において,発症時の抗血栓薬内服の有無と血腫部位,入院24 時間までの血腫の増大量・増大率,退院時と3 カ月後の転帰との関連を検討した.抗血栓薬内服は24 例(全症例の11.4%)と少数であったが,厳重に血圧管理がされた超急性期天幕上脳出血例であっても,入院時血腫量が11.9 ml を超えると抗血栓薬内服が,その後の血腫増大量(服用有12.15 ml,服用無4.73 ml,p=0.008)・増大率(服用有77.4%,服用無20.8%,p=0.028)に寄与する可能性が示唆され,抗血栓薬内服例では転帰良好例(mRS 0―1)が少ないことも明らかとなった.

  • 豊田 一則
    2016 年 27 巻 2 号 p. 293-297
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    Bleeding with Antithrombotic Therapy Study(BAT 研究)の前向き観察研究では,脳血管障害や心臓血管病に対して抗血小板薬かワルファリンを服用する患者を4009 例登録し,抗血小板薬の二剤併用やワルファリンと抗血小板薬の併用が単剤治療に比べて出血イベントを増やすことを,日本人患者集団ではじめて示した.そのサブ研究として,登録患者の観察期間中の血圧値と出血イベント発症との関係を調べ,観察期間中に頭蓋内出血を発症した患者で,収縮期・拡張期ともイベント発症までに血圧が漸増していた.頭蓋内出血発症の至適カットオフ値として観察終了時収縮期血圧130/81 mmHg 以上を提示し,国内ガイドラインで抗血栓薬服用者への厳格な血圧管理を推奨する根拠となった.また後ろ向き観察研究では発症24 時間以内に入院した脳出血患者1006 例を登録し,発症前の抗血栓薬服用が早期血腫拡大や急性期死亡に関連することを示した.

新評議員
  • 井川 房夫
    2016 年 27 巻 2 号 p. 299-302
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    未破裂脳動脈瘤の保有率は人種差,地域差はなく3~5%とされるが,くも膜下出血の破裂率は日本が世界で最も高い国の一つで,未破裂脳動脈瘤の破裂率が欧米に比較して約3 倍高いためとされる.未破裂脳動脈瘤の破裂危険因子として高血圧,年齢が70 歳以上,動脈瘤のサイズ,部位があげられる.治療は日本ではクリッピングの方が多く,成績もコイル塞栓術に比較して劣らない.脳動脈瘤クリッピング術では親血管一時血行遮断が必要となることがあり,我々は脳虚血対策が重要と考え,術中血圧は収縮期で100 mmHg 以上を保ち,脳保護薬の投与,超軽微低体温麻酔下で手術を行っている.未破裂脳動脈瘤の治療成績は術後永続的神経脱落症状が3.3%で,modified Rankin Scale 低下に関与するものが2.2%であった.脳動脈瘤クリッピング術中一時血行遮断時MEP モニタリングでは,一時血行遮断が原因のMEP 変化を10.3%に認めたが,全例回復した.MEP 陽性のリスクファクターについて多変量解析で解析すると,体温が37 度以上が有意な因子であり,術中は体温の上昇を避けるべきと考えられた.

  • 千田 光平
    2016 年 27 巻 2 号 p. 303-306
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    頸動脈内膜剝離術により認知機能が改善することが報告されている一方で,術後過灌流を併発した場合,無症候性であっても認知機能障害を来すとされている.しかし,いずれにおいても詳細なメカニズムは明らかではなかった.元来てんかんの焦点を検出するために用いられてきた123I-iomazeni(l IMZ)を用いたsingle photon emission computed tomography(SPECT)は,大脳皮質のgamma-amino butyric acid(GABA)レセプターの機能であるbenzodiazepine receptor binding potential (BRBP)を評価することが可能である.さらにBRBP は,脳の活動に応じて可逆的に変化するとの報告もある.我々は,IMZ-SPECT を用いて,頸動脈内膜剝離術後に生じる認知機能変化のメカニズムを解明する研究を行った.術後過灌流を併発した症例においては,有意にBRBP の低下面積が広く,またBRBP の低下面積が広い症例では,術後認知機能障害を来した.また,術後に認知機能が改善した症例のうち,大半においてBRBP の改善を認め,脳血流の改善に比して,BRBP の改善が認知機能の改善と有意に相関した.以上より頸動脈内膜剝離術後過灌流が大脳皮質神経細胞の神経受容体の機能を低下させ,認知機能悪化を来し,術後の認知機能改善には,脳循環の改善に加え,大脳皮質神経細胞の機能改善というメカニズムが存在することが示された.

  • 三上 毅
    2016 年 27 巻 2 号 p. 307-312
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    もやもや病は,原因不明の進行性脳血管閉塞症であり,内頸動脈終末部を中心として狭窄や閉塞性変化をきたし,側副血行路として脳底部などに異常血管網(もやもや血管)が形成される疾患である.特定疾患に指定されており,診断基準は明確にされている.現在でも脳血管撮影がゴールドスタンダードであるが,MRI 診断機器の発展に伴って診断精度の高い特徴的な所見がみつかってきている.とくに,脳底部シルビウス槽のflow void の増加や中大脳動脈水平部のflow void の縮小は特徴的である.また,微小脳出血や軟髄膜のivy sign なども特徴的所見として認識されている.一方で,T2*強調像における皮質下低信号やFLAIR での分水界領域の白質病変なども補助的な診断所見として注目に値する.脳循環代謝評価としては,arterial spin labeling の発展が,術後評価に貢献していることは論を待たない.今後は,より病態生理解析に迫り画像解析を進めていきたい.

  • 牟礼 英生
    2016 年 27 巻 2 号 p. 313-317
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/07/29
    ジャーナル フリー

    近年,PET やfunctional MRI などの機能的脳画像を用いてパーキンソン病やジストニア,アルツハイマー病,強迫性障害などの神経疾患における神経回路の変性をマッピングする研究が活発である.これらの疾患で神経回路変性を定量化することは診断や治療効果判定に重要である.Eidelberg らはPET 画像の多変量的ネットワーク解析によりパーキンソン病患者における運動関連脳代謝ネットワークパターンを確立し,パーキンソン病の画像診断の可能性を示唆している.我々はさらに症状特異的な神経ネットワークとして,パーキンソン病振戦関連代謝パターンや,パーキンソン病患者の運動学習能関連パターンの存在を報告してきた.これらのネットワークの存在を明らかにすることは疾患発現メカニズムの解明に役立つ.さらにネットワーク発現は脳深部刺激療法などの治療介入によって変化を示すことから,不随意運動疾患の運動症状および周辺症状に対する治療反応性の客観的指標となる可能性がある.

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