フラボノイドは、抗酸化作用をもつ非ペプチド性の小分子である。我々は、4種類のフラボノイドの溶液中での分子動力学シミュレーションを行った。得られた水分子の運動の軌跡を用いて、水和に関する三つの量(溶媒密度、溶媒双極子場、溶媒拡散係数)を解析した。その結果、これらの量はフラボノイドの周囲に特徴的な空間パターンを形成した。フラボノイドと水素結合するサイトの溶媒密度は高く、水分子の配向の傾向は強く、さらに拡散運動は抑えられる。溶媒第一層の水分子の配向が、第二層の水分子の配向を束縛する様子も見られた。フラボノイドの疎水面付近の水分子の溶媒密度は高く拡散運動は抑えられるが、水分子の配向は束縛されない。フラボノイドには環が含まれ、環の回転運動の頻度はフラボノイドによりばらつきがある。回転の緩和時間には10倍の差異があったにもかかわらず、フラボノイド近傍の水和の空間パターンは非常に似通っていた。この事は、溶質の内部運動の緩急にかかわらず水和の空間パターンには断熱近似が良く成りたつことを示している。多くの水和の理論的研究は、断熱近似の上で組み立てられているが、今回の我々の研究は断熱近似の妥当性を示している。また、現象論的理論によると、水和自由エネルギーは溶質を構成する個々の原子の溶媒露出表面積でうまく近似できることが示されているが、今回得られた水和の空間的パターンの解析は、その現象論の妥当性も示している。
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