先天性腫瘍についてはいくらかの報告があるが,主として小児期の悪性腫瘍について論及されており,胎生期の腫瘍についての報告は少い.われわれは部門開設以来2160体の胎児・新生児屍の剖検を行なったが,その内25体に腫瘍がみいだされた.先天性腫瘍の分類はMorisonによったが,本研究ではCholis-tomaおよび顕微鏡的な微小なものは除外し,肉眼的腫瘤に限っている.胎児例19,新生児例(生後7日まで)6であった.腫瘍の種類は,甲状線嚢腫6例,卵巣嚢腫3例,小腸嚢腫十舌脂肪腫1例,胆嚢線維腺腫1例,子宮頸部ポリ・プ1例,皮膚乳頭腫1例,皮膚血管腫1例,後頭部〜胸部リンパ管腫7例,横隔膜血管内皮腫1例,神経芽細胞腫2例,甲状腺腫1例であった.これらの腫瘍は良性の性格を示すものが多く,血管内皮腫および神経芽細胞腫の例にも転移はみとめられなかった.腫瘍と奇形の合併は25例中16例(64%)にみられ,奇形の数は延ベ111で奇形合肝舳こついてみると1個体平均7.0の奇形がみられたことになる.この値は前回の集計結果,奇形例212体中奇形数延べ439(平均2.1)に比べて著しく高値を示している.この事は腫瘍発化が奇形を複雑化する事を示唆している.奇形の種類は泌尿生殖器系に最も多く,心・血管系,骨伽系,消化器系に比較的多くみられた.個々の奇形合併例についてみると,腫瘍が奇形またはその部分症と考えられる例がある.例えば,小腸嚢腫は重複腸管の軽症のものとして,舌脂肪腫は兎唇・口蓋裂による欠損部分を覆う代替物として,また,皮膚乳頭腫は羊膜元奇形の一部分症として考えることもできる.腫瘍と臓器系列奇形と,関連をみると,リンパ管腫では胸部臓器発育不全と泌尿生殖器奇形を合併することが多い.リンパ管腫に伴う心血管系異常は左心系発育不全,原始心臓,小型心のごとき発育不全を示す例が多い.この事はリンパ管腫による機械的刺戟により発育不全を惹起した事を示唆している.一方,甲状腺嚢腫を伴うD_1-trisomy症候群,胆嚢線維腺腫を伴うE_1-trisomy症候群の如き染色体異常例では部分的大血管転換やEisen-menger複合の如き心の構造異常を示した.この事は染色体上の多くの遺伝子が腫瘍および奇形に作用している事を推測させる.しかし,リソバ管腫に合併した泌尿生殖器の異常のように,発生学的に比較的遠隔な部位の異常の発生機序については本研究では明らかにされなかった.その他の腫瘍については例数が少いために明らかな臓捲奇形との関連性はみいだされていたい.しかし,卵巣嚢腫および甲状腺腫の症例では得体の内分泌異常との関連性が存在すると考えられた.われわれの症例中,文献的に比較的稀な腫瘍は横隔膜にみいだされた血管内皮腫と胎児期にみられた神経芽細胞腫であった.以上,先天性腫瘍の発生は奇形発生と関連が深い事を示唆するとともに,先天性腫瘍の生後の変化については今後研究を続けるべきことを述べた.
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