茶樹に対する窒素の適正施与量と栄養診断の基礎資料を得るために,やぶきた1年生苗を用い,水耕法により,1971年7月上旬から1年余にわたり,窒素の施用レベルを0N,1N,2N,3N,4N,6N,8N,12N,20N(Nは培養液の単位濃度を示し,生育経過および摘採,剪枝等による吸収量の変化に応じて2.5~5ppm)の9水準に変えて施用量試験を行い,茶樹の生育,収量および品質関与成分に対する窒素のCritical level(最高の生育,収量または品質を得るに必要な最低の体内濃度),その他の栄養診断指標を求めた。
1.処理開始後8週を経て,窒素施与量と生育との関係曲線に,deficiency zone(<4N),transition zone(6N~8N),toxic range(12N<)が明瞭に現われた時期に,樹体各部の全窒素,水溶性窒素および遊離アミノ酸を分析した。これらの結果から,茶樹の生育に対する窒素のCritical levelを,全窒素濃度では,上位葉(葉齢1~2ヵ月)が4.6%,下位葉(2ヵ月<)が4%,金根(細小根)が2.7%と推定した。また,水溶性窒素とその全窒素比では,上位葉において1.4%と31%,根において1.3%と47%とそれぞれ推定した。さらに翌年の一番茶期の調査で,収量に対するCritical levelも生育に対するCritical levelもほとんど変らないことを確かめた。また,Critical levelにおける窒素吸収量は,生体重100g当り約640mg,すなわち生体重の0.64%で,これが窒素の最適吸収量を示すものと考えられた。
2,Critical levelとToxic levelはきわめて近接し,その間にほとんどLuxury rangeを認めなかった。また,窒素欠乏により生育を停止した0N区と,窒素過剰により枯死した20N区の全窒素濃度は,それぞれ古葉において1.4%と4.3%,根において0.7%と3.3%で,この両致死濃度の比から,窒素が茶樹の体内でとりうる濃度幅は,他の養分に比べてきわめて小さいことが明らかにされた。
3.一番茶の摘芽の全遊離アミノ酸,テアニン,アルギニン等も上記のCritical level (6N)において最大値を示したのち減少した。古葉では,6N以上ではさらに増加する傾向がみられたが,それが摘芽には反映せず,生育も低下していたことから,この増加は,新芽への移行阻害を示すものと考えられた。
4.一番茶期では,窒素の欠乏域で,茶芽の伸育に母体地上部の乾物が多量に消費されたが,根重は,各区ともなお増加過程にあった。しかし,二番茶の伸育期には,長期間にわたり根重が減少し,窒素レベルが高く,生育の盛んな区ほど根への依存度が高かった。
これらの結果から,茶樹においても,生育(収量)に対する窒素のCritical levelと品質に対するCritical levelとを区別して考える必要はないものと判断された。
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