チャの生産力,品質と気象特性との関係を知るために,大井川水系の下流域から中流域にかけて7地点の茶園を選び,1972年以降それぞれの地点で気象観測,および一番茶の萌芽,生育状況,さらには新芽の生育に伴う呈味成分の推移を検討した。
1. 8~10年に及ぶ各地点での気象観測から,年間を通じて湿度には差が認められなかったが,気温は下流域平坦部が最も高く,中流域山間部へ遡るにつれて低下する傾向を示し,これを最高,最低気温の推移でみると,最高気温については下流域と中流域の間に大差はなかったが,最低気温では中流域のほうが低い傾向を示した。
従って気温の昼夜較差は中流域山間部のほうが大きかったが,このような傾向は中流域山間部でも標高,地形等によって異なり,標高の最も高い峯地区は比較的較差が小さく,下流域平坦部に近い傾向を示し,一方峯地区に近い低標高で凹地の塩本地区は較差が大きかった。
2. 以上のようなこの地域の気象特性は,一番茶の萌芽期に大きい影響を及ぼし,12月~2月にかけての積算気温と萌芽期との間にはかなり高い相関がみられ,気温の高い下流域平坦部ほど萌芽期が早い傾向を示した。さらに中流域山間部は凍霜害の発生頻度が高いため,この地域の萌芽,生長をより遅延させることが多かった。しかし中流域山間部でも,高標高の峯地区ではこうした傾向は弱く,低標高で凹地の塩本では,強くでていた。
3. 以上のように一番茶の萌芽,生長は中流域山間部で遅れたものの,摘採期周辺における新芽の生育状況を同一出開度で比較したところ,開葉数については新芽の生長に伴って地域間に差がみられなかったが,新芽長については下流域平坦部と比べて,中流域山間部のほうが全般的にまさり,節間が長くなる傾向を示した。
また摘採面における新芽の芽揃いを調査したところ,中流域山間部の新芽は側芽も比較的良く伸びるのに対し下流域平坦部では第2側芽の生長が劣り,芽揃いの面でも山間部のほうがまさる傾向を示した。
4. 次に新芽の生長にしたがって,採取した生葉の緑色度や呈味成分の分析を行ったところ,生葉の緑色度は新芽の開葉後比較的若い時期から中流域山間部のほうが高く,さらに呈味成分のうちカテキン含量は地域間にそれほど差はみられなかったが,全窒素,アミノ酸含量は総じて中流域山間部のほうがまさる傾向を示した。
5. 以上同一水系であっても各産地での茶の生育,品質特性はかなり異なり,その差異は主として気象環境特に気温特性によるところが大ぎいと推察されたものの,何がどの程度関与しているかについては,解析するまでには至らなかった。今後このような差異がより強く現れるであろう二番茶での調査や,品質面では香りの成分についての解析を続行しながら,こうした地域差に関与する具体的な気象要因を探索する必要があろう。
本研究の実施に当っては,御前崎町新谷高塚藤八氏.小笠町古谷原宮城稔氏,川根町塩本守谷道徳氏,同町峯大橋哲雄氏,中川根町田野口田畑義次氏,同町藤川山元光氏所有の茶園を借用した。長年にわたる御厚意に記して深い謝意を表する。
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