化学生物総合管理
Online ISSN : 1349-9041
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1 巻, 3 号
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巻頭言
前書き
報文
  • 前川 昭彦
    2005 年 1 巻 3 号 p. 311-321
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    財団法人「佐々木研究所」は1939年に佐々木隆興博士により設立された公益法人で,研究所 (佐々木研究所) と病院 (杏雲堂病院) の2本の柱よりなり,研究所ではこれまで主としてがんの基礎的研究を行ってきた.1920 年代当時,佐々木隆興博士は既に「化学的形態病理学」なる新たな学問分野を提唱していたが,これはまさしく今日の「毒性病理学」であり,この概念の下で行われた研究において,化学物質のリスク評価の面で真っ先に特筆される研究は,佐々木隆興博士 (初代研究所長) と吉田富三博士 (後に第2代研究所長) による「アゾ色素の一つであるオルト・アミノアゾトルオールによるラット肝発癌実験」である.以来,当所 (主として病理部) では,その伝統を引き継ぎ,化学物質の毒性・発がん性に基づくリスク評価に係わる研究を行ってきている.
  • 奈良間 功
    2005 年 1 巻 3 号 p. 322-330
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    病理学的検査は,化学物質のリスク評価を行う上で重大な役割を果しているが,担当者個々の観察と評価に依拠する定性的な性格を持つが故に,その精度と信頼性を維持するため,何よりも担当者の高度な技術と深い経験が要求される.したがって,毒性病理学的な教育を質量共に十分なレベルで行うことは化学物質のリスク評価・管理にとってきわめて重要であるが,この点で我が国の現状は必ずしも十分でない.財団法人 佐々木研究所の前川昭彦研究所長は,このことを憂えられ,前任地在職時に既に行っておられた教育事業を発展的に継承する形で立ち上げられた佐々木研実験動物標本検討会において,1992年から2005年まで13年間にわたって,研究機関や企業において病理学的検査に携わる若手・中堅の実務者を対象とした毒性病理学的教育を行ってこられた.本項は,その全期間にわたって多大な御協力をいただき,御自身も若手の教育に尽力しておられる奈良間功摂南大学教授に,同検討会の足跡を通して,化学物質のリスク評価・管理における毒性病理学的教育の重要性について御執筆いただいた.<要旨文責:本特集企画担当,中江大 (財団法人 佐々木研究所病理部)>
  • (1) コリン欠乏アミノ酸食投与ラット肝発がんモデルによる知見
    中江 大
    2005 年 1 巻 3 号 p. 331-352
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    本特集においては,ヒトの良好な生活を保障し維持することを目的とした化学物質のリスク評価・管理の意義と,その実施における毒性病理学の重要性について論じられている.佐々木研究所 (病理部) は,ヒトに外挿できる動物モデルを用いて,化学物質の毒性・発がん性の検出と背景メカニズムや,特定の病態 (たとえば発がん過程) に対して化学物質が及ぼす影響について,毒性病理学的および分子生物学的な手法により検索を行うことにより,化学物質のリスク評価・管理に貢献してきている.本項は,そうした研究の内より,コリン欠乏によるラット内因性肝発がんモデルより得られた知見を紹介する.
  • (2) 長瀬無アルブミンラット
    高橋 正一
    2005 年 1 巻 3 号 p. 353-360
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    長瀬無アルブミンラット (NAR) はSprague-Dawley (SD) 系ラットから確立された常染色体劣性遺伝による無アルブミン血症を呈するミュータントラットである.NARは著しい血清アルブミン低値と共に高コレステロール血症をともなっている.血清アルブミンはNARで著しく低下しているがグロブリン分画の蛋白群が増加して血清総蛋白量は正常ラットと変わらない事を特徴としている.アルブミンは色々な物質 (胆汁酸,ステロイドホルモン,薬物,毒素,発癌物質等) の結合蛋白として知られていることから,発癌機構におけるアルブミンの影響についてNARを用いて多くの発癌実験がなされた.その結果,NARはアルブミンの薬理学的・生理学的動態の研究や発癌機構の解明に有用なモデル動物である事が判明した.
  • (3) 内分泌撹乱化学物質,特にエストロゲン様作用を示す化学物質の評価にDonryuラット子宮体部発がんモデルの果した役割-本モデルを用いた即時型影響 (androgenization) と遅発型影響 (delayed anovulatory syndrome,DAS) の発現機序と子宮発癌との関連性‐
    吉田 緑
    2005 年 1 巻 3 号 p. 361-370
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    内分泌撹乱化学物質が持つ最も重要な問題は次世代への影響である.胎生期・新生児 (仔) 期曝露が成熟動物と異なる点として,視床下部・下垂体・性腺系の制御系および発育・分化過程への不可逆的障害,およびこれらの障害に対する高感受性を示す時期 (windowまたはcritical point) の存在が挙げられる.筆者らは各種化学物質の子宮癌への影響検出モデルとして開発されたDonryuラット二段階子宮発癌モデルを用いて,内分泌撹乱化学物質の新生児 (仔) 期曝露による生殖器および子宮癌発生への影響を観察した.その結果,曝露時期による違いにより生じた即時型影響 (androgenization) と遅発型影響 (delayed anovulatory syndrome,DAS) の発現機序が子宮発癌にまで関連していることが明らかとなった.
  • 津田 洋幸
    2005 年 1 巻 3 号 p. 371-373
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    日本の毒性学の専門教育は主として医学部,薬学部,獣医学部等において行われていて,毒性学専門学部あるいは博士過程での一貫した教育過程はない.しかし,毒性学専門家の認定資格の取得には,広範な毒性学の体系的な学習と実践が必要である.その毒性学専門家の人材育成において佐々木研究所は大きな役割を果たしてきた.研究所は3部門からなり,とくに病理部では化学発がん,血液,神経,内分泌臓器,肝等の発がん機序の研究と毒性学の人材が豊富で,がんのみに偏らない豊富な知見の蓄積がある.研究所の研修生は,研究はもとよりバランスのとれた毒性評価の実力を身につけて大学,企業等の幅広い分野で貢献している.佐々木研究所の毒性学専門家の育成への熱意と貢献は計り知れない.
前書き
総合報文
報文
  • 2004年度企業行動調査結果の分析
    大久保 明子, 増田 優
    2005 年 1 巻 3 号 p. 383-402
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    化学物質総合管理が社会的責任の一つとしての位置を占め始めた今日、社会のあらゆる主体者の自主的な取組みの重要性が増している。これを受け、我々は社会全体の化学物質総合管理の向上を促進する目的で、Science軸、Capacity軸、Performance軸に基づいた「化学物質総合管理のための評価指標」を提示し、その妥当性を確認してきた。本報では、この評価指標を広範な業種の企業に初めて適用した調査について報告する。調査期間は2004年6月~8月であり、調査内容は、主に化学物質のハザードに関連する取組みである。調査結果の分析から、化学物質のサプライヤー企業とユーザー企業による取組みの違いを把握し、化学物質総合管理の向上のための課題を抽出した。
  • 窪田 清宏, 大塚 雅則, 高月 峰夫, 結城 命夫, 増田 優
    2005 年 1 巻 3 号 p. 403-427
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    化学物質総合管理に向けた現状と課題を把握するため、化学物質管理において主要な役割を担う企業に焦点をあて、主にMSDS (Material Safety Data Sheet, 製品安全データシート) への取り組みを中心にハザード評価に関する企業行動を2004年、2005年にアンケート調査した。アンケートは、ハザード情報の科学的基盤の充実度 (Science軸)、人材や組織の能力 (Capacity軸) 及び活動の実績及び取引関係者との連携や社会への情報公開の実施状況 (Performance軸) という3つの軸に沿った設問とした。サプライヤー (化学物質の供給側) とユーザー (加工、使用する需要側) に分けて解析した結果、サプライヤーが総じてより高い水準の活動を行っていた。業種による差も認められ、化学系企業は他業種よりも高い水準の活動を実施していた。2004年と2005年の比較において一部改善の兆しが認められたものの大きな差は認められず、今後継続的な調査が必要である。また、リスク原則に則った行動への取り組みを評価するために、ハザード評価のみならず、暴露評価、リスク評価及びリスク管理にも対象を拡大した調査が必要である。
  • 基盤の整備と人材の教育
    増田 優
    2005 年 1 巻 3 号 p. 428-440
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/04/25
    ジャーナル フリー
    1992年の国連環境開発会議アジェンダ21第19章を契機として提唱された化学物質総合管理はその全体像と実現に向けての課題が明確になった。化学物質総合管理が構想から実践に入った21世紀は、社会的責任が強く求められる時代でもある。化学物質総合管理は利益管理とリスク管理の両面に影響を与える経営の重要な柱として、企画・設計、研究・開発、生産・販売などの経営のあらゆる場面に深く関わりを持ち始めた。そして化学物質総合管理のため世界各国で、法律・制度的な側面、科学的な側面、人的な側面などの体制強化が急速に進められている。化学物質総合管理が国際競争力にも係わる化学物質総合経営に進化する中、日本においても国際的な流れに応えて、法律体系の再構築あるいは化学物質総合管理の基盤となる科学的知見の充実や人材教育の強化などによって、化学物質の管理能力の向上を図ることが喫緊の課題となっている。
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