最近わが国で外用抗真菌剤として実用化されたイミダゾール誘導体tioconazole (TCZ) の抗菌作用メカニズムを究明することを企図し, 比較的高いイミグゾール感受性をもつ
Candida albicansTIMM 0144を主たる試験菌として用い, ステロール合成阻害作用および直接的細胞膜障害作用を中心に, 種々の細胞成分合成系に及ぼす影響も併せて検討した。TCZはTIMM 0144に対して次のような生化学的活性を示した。
(1) 発育期細胞におけるタンパク質, RNA, DNA, 細胞壁多糖, 総脂質といった主要細胞構成成分の合成は, TCZの殺菌的濃度 (≧40μg/ml) 添加直後から完全に停止した。それより低い濃度域すなわち静菌的または不完全発育阻止効果を示す薬剤濃度を添加した場合には, その濃度に依存して細胞成分の合成が様々な程度に阻害された。そのなかで最も低い薬剤濃度まで有意な阻害が認められたのは総脂質成分の合成であった。
(2) TCZはその濃度に依存して静止期細胞からのK
+および無機リン酸 (Pi) の放出を促進した, K
+およびPiの有意な量の放出は, それぞれ≧5μg/mlおよび≧40μg/mlの薬剤添加後10分間以内にひき起こされ, 80μg/mlの薬剤存在下では, 細胞内に存在するこれらの成分のほぼ全量が放出された。
(3) ≧5μg/mlTCZの存在下で, 静止期細胞浮遊液の細胞外pHは有意に上昇した。いずれの場合もpH値の上昇は薬剤添加後極めて速やかに起こり, 20, 40, 80μg/mlの薬剤添加後1分間以内のΔpHは, それぞれ≧0.1, ≧0.5, ≧1.0の高値を示した。
(4) 種々の濃度のTCZ存在下で培養した細胞から脂質を抽出し, ステロール組成の分析を行なった結果, 正常細胞にあってばステロールの大部分を占めるergosterolがほとんど消失し, 代わって24-methylene-dihydrolanosterolなどのergosterol生合成の前駆体となるメチル化ステロールの大量蓄積が認められた。このパターンのステロール組成の変化は,<0.08μg/mlという極めて低濃度の薬剤でも顕著にひき起こされ, TCZが真菌ステロール合成経路上のC-4, 14脱メチル化過程を特異的にしかも極めて鋭敏に阻害することが知られた。
(5) TIMM 0144を親株とし, これより誘導変異によって分離したステロール合成系に障害をもつ変異株を用い, 親株との間でTCZ感受性を比較した。変異株に対するTCZのIC
50値は親株のそれよりも数百倍上昇していたが, IC
100 (MIC) 値は2~4倍の上昇をみるに過ぎなかった。高濃度 (≧40μg/ml) の薬剤によるK
+放出促進効果ならびに殺菌的効果に対しては, 変異株は親株と同等以上の高い感受性を示した。
以上の成績から, TCZはその作用濃度に応じてステロール合成阻害および直接的非代謝的細胞膜障害という二元的作用メカニズムを有し, 低濃度域においてはステロール合成阻害によって不完全発育阻止効果を, 中等度濃度域においてはこれに軽度の細胞膜障害が加わって完全発育阻止 (静菌的) 効果を, また高濃度域においては不可逆的な高度細胞膜障害による殺菌的効果を, それぞれ発揮するものと推察された。
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