固形癌化学療法中の白血球減少時における発熱に関して臨床的に検討する目的で, 泌尿器科領域において代表的な化学療法である睾丸腫瘍のPVB療法と尿路上皮腫瘍のM-VAC療法を施行した患者を対象に, 発熱の頻度と感染症の予防という点につき検討した。その結果は以下の通りであった。
1. PVB110コース, M-VAC13コースにおける白血球減少の起こる頻度は. PVB群では2,000/mm
3以下58.2%, 1,000/mm
3以下21.8%であり, M-VAC群では2,000/mm
3以下30.8%, 1,000/mm
3以下15.4%であった。また顆粒球減少の起こる頻度は, PVB91コース, およびM-VAC11コースにおいて. PVB群では500/mm
3以下62.6%, 100/mm
3以下28.6%であり, VAC群では500/mm
3以下45.5%, 100/mm
3以下0%であった。
2. 白血球減少の持続期間について, PVB群では4,000/mm
3以下の期間は平均13.4日間, 2,000/mm
3以下の期間は6.2日間, 1,000/mm
3以下の期間は3.7日間であった。これに対しMVAC群では各々7日, 4.3日, 2.5日間と, PVB群よりも短くなっていた。また, 最低白血球数, 顆粒球数と年齢との関係については明らかな差を認めなかった。
3. 発熱の解熱過程において, 白血球数の増加に伴い体温が下降する現象が認められた。
4. 38℃ 以上の発熱の頻度は, PVB群で110コース中17コース (15.4%), M-VAC群で13コース中2コース (15.4%) であった。
5. 38℃ 以上の発熱のみられた各コースにおける最低白血球数, 顆粒球数は, ともに非発熱時に比較し有意に低下していた。
6. 発熱時の細菌学的検査により, 敗血症はPVB群で11コース中1コース9.1%にのみ, また尿路感染症はM-VAC群で2コース中1コース50%に認められ, PVB群での尿路感染症は14コース中1コースも認められなかった。また口腔粘膜内のサイトメガロウィルスの検出も5例に試み, 陽性例は認められなかった。
7. 各治療コースの最低白血球数1,000/mm
3, 最低顆粒球数100/mm
3以下の場合, 抗菌剤の投与, 特に腸内常在菌抑制のための非吸収性抗菌剤投与が発熱を抑えるのに有効である傾向が認められ, 白血球減少時の発熱に際しては腸管からの内因性感染症の存在がうかがわれた。
8. 癌化学療法中の白血球減少時における発熱は, 年齢や輪血の影響といった要因とは無関係であった。
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