ニューキノロン薬に耐性を示す
Staphylococcus epidermidisからnorfloxacin (NFLX) 耐性遺伝子を含む2.2kbのHind III染色体DNA断片をクローニングした。
Staphylococcus aureus SA 113に対するNFLX, enoxacin (ENX), ciprofloxacin, ofloxacin, tosufloxacinおよびsparnoxacin (SPFX) のMICは, それぞれ0.39, 0.39, 0.1, 0.2, 0.01, および0.02μg/mlであったが, このクローン化DNA断片の導入によりそれぞれ25, 12.5, 3.13, 1.56, 0.2および0.1μg/mlとMICは明らかに上昇した。MIC上昇の程度は, 比較的疎水性のSPFXが最も小さかった。クローン化DNA断片中にはNFLX耐性遺伝子と思われる1, 161塩基からなるオープンリーディングフレームが認められ, 387個のアミノ酸残基よりなる分子量42, 118のポリペプチドをコードしていた。このポリペプチドは疎水性アミノ酸に富む膜蛋白であると推定され,
S.aureusの
norA遺伝子より作られるNorAポリペプチドより1アミノ酸残基少なく, 両ポリペプチドのアミノ酸一致率は79%であった。また, クローン化DNA断片を鋳型として
in vitro翻訳系により作られたポリペプチドの分子量は42,000であり, 塩基配列から推定された分子量と近似していた。したがって,
S.epidermidisよりクローニングしたNFLX耐性遺伝子は,
S.aureusの
norA遺伝子に相当するものと考えられた。標識されニューキノロン薬を用いたブドウ球菌の菌体内への薬剤取り込み実験において,
S.epidermidis由来の
norA遺伝子を保持する形質転換株は, 非形質転換株よりENXの取り込みが少なく, carbonyl cyanide
m-chlorophenyl hydrazoneを添加することにより取り込みは明らかに回復した。これらの成績より,
S.epidermidis由来
norA遺伝子にコードされた
NorAポリペプチドは, 細胞膜上に存在していて, エネルギー依存的なニューキノロン薬の汲みだし機構に関与している可能性が示唆された。
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