抗生物質であるlatamoxef (LMOX), aztreonam (AZT) (終濃度500, 1.000, 3,000μg/ml) と感染症や炎症時に増加する急性期蛋白の一種であるC-reactive protein (CRP) (終濃度0.5, 5.0mg/dl) のヒト血管内皮細胞におよぼす影響を, 内皮細胞のprostacyclin (PGI
2) 産生量およびcyclic AMP (cAMP) 濃度, 細胞内遊離Ca
2+今濃度 ([Ca
2+] i) を測定することにより検討した。内皮細胞はヒト臍帯静脈より分離培養し, confluentを形成したものを用いた。PGI
2産生量は培養上清液からその安定代謝産物の6Keto-PGF1aとしてradioimmunoassay (RIA) 法にて測定し, LMOX, AZTの存在下ではcontrolと比較して有意な変化はなかったが, CRP5.0mg/dlの存在下で有意に増加した。cAMP濃度も培養上清液を用いてRIA法にて測定したが, LMOX, AZT, CRPのいずれも影響をおよぼさなかった。[Ca
2+] iは内皮細胞浮遊液にCa
2+感受性蛍光色素であるfura2/AMを加えてhistamineで刺激して蛍光測定した。LMOX, AZTの存在下では [Ca
2+] iはcontrolと比較して有意な変化はなかったが, CRP5.0mg/dlの存在下ではhistamineで刺激する前後とも有意に増加し, 刺激前後での [Ca
2+] i差も有意に増加した。また, 内皮細胞浮遊液をCa
2+freeとした場合のCRP5.0mg/dl存在下による [Ca
2+] iは, histamineの刺激前後ともcontrolと差は認められず, histamineの代わりにCRP5.0mg/dlによる直接刺激ではCa
2+存在下で [Ca
2+] iは増加したが, Ca
2+ free solutionの状態では増加しなかった。このことからCRPが内皮細胞の [Ca
2+] iを増加させるには細胞外Ca
2+が必須であると考えられた。以上の結果から, LMOX, AZTは血管内皮細胞のPGI
2産生には影響をおよぼさないが, CRPはcAMP濃度を減少させることなく細胞外のCa
2+の細胞内への流入, あるいはこれに伴う細胞内Ca
2+壱貯蔵部位からのCa
2+の遊離により内皮細胞の [Ca
2+] iを増加させてPGI
2の生産を促進すると考えられた。
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