Streptococcus pneumoniaeにおけるキノロン系薬の作用機序の解析を目的とし, 種々のキノロン系薬を用いて耐性変異株を段階的に作製し, それら変異株におけるキノロン系薬のターゲットをコードする遺伝子の変異を検索した。Trovafloxacin (TVEX), levofloxacin (LVFX), norfloxacin (NFLX), およびciprofloxacin (CPFX) によって選択された第1段階の変異株は,
parC遺伝子に単一の点変異を有していた。一方, sparfloxacin (SPFX) およびgatifloxacin (GFLX) によって選択された変異株は, gyrA遺伝子に単一の点変異を有していた。野生株と比較してparC変異株はその選択薬剤であるTVFX, LVFX, NFLXおよびCPFXに対してのみ感受性の低下が認められ,
gyrA変異株はその選択薬剤であるGFLXおよびSPFXに対してのみ感受性の低下が認められた。第2段階の変異株においては, 使用するキノロン系薬にかかわらず
gyrA変異株からは
parC変異株が,
parC変異株からはgyrA変異株が選択され, 結果としてすべての第2段階の変異株は,
gyrA+
parCの二重変異を有していた。これら第2段階の変異株は, 第1段階の変異株と比較して, すべてのキノロン系薬に対して感受性が低下していた。これらの結果は, 野生株におけるTVFX, LVFX, NFLXおよびCPFXの主たるターゲットはトポイソメレースIVであり, GFLXおよびSPFXの主たるターゲットはDNAジャイレースであることを示唆している。また, 第1段階の
gyrA変異株および
parC変異株におけるキノロン系薬の主たるターゲットは, それぞれトポイソメレースIVおよびDNAジャイレースであることを示唆している。これら第1段階および第2段階の変異株の選択に際して, 使用するキノロン系薬によって変異株の選択の難易に違いが認められた。さらには, 変異株を選択し難いキノロン系薬は, 得られた変異株に対する抗菌活性の低下の小さい傾向が認められた。これらの結果から,
in vitroにおいて耐性変異株を選択し難いキノロン系薬は, 菌体内においてDNAジャイレースとトポイソメレースIVを近いレベルで阻害する“Dual Target Quinolone”であることが考えられる。臨床より近年分離された
S. pneumoniae 99株について, キノロン系薬に対する感受性とそのターゲットの遺伝子変異を検討したところ, 93株 (94%) がキノロン感受性株, 残る6株 (6%) がキノロン耐性株 (CPFXのMIC≧6.25μg/ml) であり, これらの耐性株のうち5株でキノロン系薬のターゲットをコードする遺伝子に変異が認められた。これらの結果は, 臨床より近年分離される
S. pneumoniaeにおいて, キノロン系薬に対する耐性化率がまだ低いことを示している。今後,
S. pneumoniae感染症に対するキノロン系薬の臨床での使用に際しては, 抗菌活性, 体内動態および安全性を考慮に入れることはもちろん, その有効性を持続させるために, 起因菌を容易に耐性化させないことが重要であり, 薬剤による耐性菌選択の難易も考慮していく必要があるものと考えられる。
抄録全体を表示