急性期にある呼吸器感染症, 急性中耳炎, ならびに髄膜炎由来の検査材料から分離された200株の肺炎球菌を対象としてbiapenem (BIPM), meropenem (MEPM), imipenem (IPM) およびpanipenem (PAPM) のカルバペネム系4薬剤と, ampicillin (ABPC), セフェム系薬2薬剤, およびvancomycin (VCM) の計8薬剤の感受性を寒天平板希釈法により測定した。PCR法によるPBPs遺伝子解析にもとつく被験菌の内訳は, PSSPが51株, PISPが71株, PRSPが78株であった。8r薬剤のPRSPに対するMIC
50とMIC
90はそれぞれ次の通りであった: ABPC (2μg/mLと4μg/mL), cefotaxime (CTX: 1μg/mLと1μg/mL), cefotiam (CTM: 4μg/mLと8μg/mL), IPM (0.125μg/mLと0.25μg/mL), PAPM (0.063μg/mLと0.125μg/mL), MEPM (0.5μg/mLと0.5μg/mL), BIPM (0.25μg/mLと0.5μg/mL), VCM (0.25μg/mLと0.5μg/mL)。2株のPRSPに8薬剤それぞれのMICを作用させた後の殺菌効果はセフェム系薬に比べカルバペネム系薬が明らかに優れていた。日本化学療法学会によって肺炎症例に対して設定されたカルバペネム系薬のブレイクポイント (1-2μg/mL) 以下の作用では4薬剤の殺菌力に差は認められなかった。BIPM, MEPMおよびCTXのMICをそれぞれ3時間作用させた後のPRSPME19株 (血清型19F) の形態変化は, 走査型電子顕微鏡下に観察した。BIPMとMEPMの作用により, 長軸方向に伸長する新たな細胞壁合成が阻害され, 分裂部位のconstrictionも阻害された膨化細胞が認められた。そして隔壁付近で物理的に引っ張られた細胞壁部分からの溶菌像が観察された。MICにおけるCTXの作用では隔壁形成は阻害されフィラメント細胞が観察された。細胞を長軸方向に伸長させる細胞壁合成はほぼ正常と思われ, 短時間での溶菌細胞はほとんど認められなかった。これらの成績から, 宿主に明らかなリスクファクターが認められない場合のPRSPによる肺炎や敗血症例に対しては, カルバペネム系4薬剤の臨床効果は同程度に期待できると推論された。
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