1997年から1999年にかけて米国で, 市中感染型のメチシリン耐性黄色ブドウ球菌 (communityacquired methicillin-resistant
Staphylococcus aureus; CA-MRSA) による小児死亡例がたて続けに報告された, 同時期, ヨーロッパ, オーストラリア等でも市中感染型MRSAが分離・報告され, さらに病原菌の特徴も明らかとなり, グローバル感染症として世界の注目を集めるようになった。市中感染型MRSAは, 従来のMRSA (院内感染型MRSA;HA-MRSA) とは由来の異なるMRSAで, Panton-Valentineロイコシジン (PVL) と1呼ばれる白血球破壊毒素を産生し, 多くの場合IV型のメチシリン耐性領域 (type IVSCC
mec) をもつ, ただし, 遺伝学的には複数の異なったクローンからなりたっていて, 大陸特異的である。解析には必須遺伝子群塩基配列解析 (MLST), 発現調節遺伝子 (
agr) やプロテインA遺伝子 (
spa) の反復配列解析, 毒素遺伝子パターン解析などが川いられる。現在, ヨーロッパに1種類, 米国に数種類, そしてオセアニアに2種類, アジアに2種類の流行クローンが確認、されている。薬剤感受性は流行クローンによって異なり, ペニシリン・セフェム以外の多くの抗菌薬に感受性を示す場合もある。このような市中感染型MRSAは多くの場合, 皮膚, 軟部組織の感染症と関連し, 小児に多くみられる。一方で, 症例数は少ないが, より深刻な壊死性肺炎, 菌血し症が増加傾向にある。わが国の市中感染型MRSAは, 欧米の流行例とは様相が異なり, PVL陰性株が圧倒的に多く, 遺伝学的に多様である。稀に分離されるPVL陽性の市中感染型MRSAは, 欧米の主要型よりもオセアニア型に共1点が多い。PVL陽性の市中感染型MRSAの感染は健康な若者にも拡大している。世界分布調査, 高い感染リスクグループ・地域の特定, そして詳細な感染発症メカニズムの解析が進行中である。
抄録全体を表示