ペニシリンが臨床使用され始めてからの58年間に, 国内では累計で238成分の抗菌薬が臨床に導入されてきたが, 世代交代・淘汰により, 現在では154成分が用いられている。現用されている抗菌薬の主流はβ-ラクタム系薬の65成分であり, 次いで, 各種抗生物質が25成分, フルオロキノロン系薬などの合成抗菌薬が24成分という順になっている。
最近20年間の国内における抗菌薬の承認状況をみると, 前半の10年間には多種多様な46成分が承認されていたが, 後半の10年間には19成分に激減している。国内における抗菌薬開発の低迷が危惧されており, 5年先・10年先の感染症の変貌に対応することが可能である新規抗菌薬の開発の必要性が唱えられている。
今日の医薬品の開発は国際的なハーモナイゼーションの流れの中で, 世界同時開発が行われているが, 抗菌薬も例外ではなく, 日本で創製された新規物質が日米欧において同時期に臨床評価される場合が多い。しかしながら, アメリカにおける最近10年間の承認状況をみると, 日本とは異なり, 特定の耐性菌を対象とし適応が限定された狭域抗菌薬が優先的に承認される傾向が認められる。さらに, 現在, 日本で開発中の10成分の新規抗菌薬はカルバペネム系とフルオロキノロン系が主であるが, 欧米ではグリコペプチド系やリファマイシン系抗菌薬の開発も活発であり, 開発理念が相違しているように見受けられる。
抗菌薬開発に携わる企業も, 日本では大手製薬会社に限られるが, アメリカにおいてはバイオファーマと呼ばれる小規模な企業が独自の手法により, 新規な作用機序を有する新規物質を創製し, 目処がついた時点で大手製薬会社が本格的な開発に乗り出すという状況になっている。そのような新規物質は, アメリカ微生物学会主催のICAAC年次会議で評価されており, 新規抗菌薬の開発動向に関して, 同会議で得られる情報は極めて多い。
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