肺炎球菌, インフルエンザ菌, A群溶血レンサ球菌 (GAS), あるいはマイコプラズマニューモニエは, 市中における呼吸器感染症の最もポピュラーな起炎菌である. 本邦においては, これらの菌における多剤耐性菌の急速な増加が臨床上の問題として注目されている. 肺炎球菌とインフルエンザ菌のβ-ラクタム系薬耐性は,
pbp遺伝子がコードするPBP酵素の変化に起因している. 肺炎球菌とGASにおけるマクロライド耐性には2つのメカニズムが関わっている. すなわち,
mefA遺伝子による排出システムと,
ermBあるいは
ermA (ermTR) 遺伝子によるリボソームタンパクのメチル化である. マイコプラズマニューモニエのマクロライド系薬耐性には, 23S rRNA遺伝子のドメインV内に認められる変異が関わっている. 一方, 本邦で分離された肺炎球菌の中には, ニューキノロン系薬耐性菌は約1-2%存在するが, その耐性にはDNA gyraseをコードするgyrA上の変異と, トポイソメラーゼIVをコードする
parCおよび
parE遺伝子上の変異であることが明らかにされている.
病原体が本質的に保持する構成物上に生じた質的変化によるこれらの耐性は, 通常の感受性試験では明確に識別することが困難な軽度耐性であることが特徴である. もうひとつの特徴は, このような耐性レベルは, 多くの場合, β-ラクタム系薬, マクロライド系薬, ニューキノロン系薬のような経口抗菌薬によって得られる血中濃度と似通ったレベルであるということである.
このような耐性に関与する酵素をコードする遺伝子上の変異は, 経口抗菌薬の不適切な濃度によって容易に選択される.
最後に, このような耐性菌の増加を防止するためには, 起炎菌の迅速な識別, ワクチンによる予防, PK/PDに基づく抗菌薬の適切な選択と使用, 抗菌薬の市販後調査の確立などが必要であることを述べた.
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