1. 鳥類のクロアカは主なる三つの横褶襞により區劃せらる。その第一は最も奥に横はるものにして,直腸の末端部との境をなす。第二はウロデュームとプロクトデュームと境するものにして,背側より腹側に向つてやゝ傾斜し發達す。第三は最も外部即ち肛門開口部の括約筋よりなるものにして,その腹側に於て第二褶襞と近接す。
2. 鷄にありては,この第二並に第三褶襞が腹側に於て相接近する部位に退化交尾器認められ,七面鳥,鶉などの場合には同じ部位にその痕跡殘存するも,家鳩にありては全く退化消失しその痕跡をも認め得ず。
3. 鶩にありては同じ部位に勃起するところの大なる鳥類特有の螺旋状の交尾器(ペニス)を有す。駝鳥など平胸類に屬する鳥類は何れもこれと同形態13のベニスを有す。而して雌鶩にありては雄鷄の退化交尾器と略類似の形態の生殖隆起(ファーラス)の痕跡認めらる。また雌七面鳥の場合にもその痕跡殘存するも.雌鷄,雌鶉の場合,更に家鳩に於とは雌鳥のみならず雄鳥にありても,生殖隆起は全く退化消失して,その痕跡をも認め得ず。
4. ホロホロ烏もまた同じ部位に勃起するところの交尾器を有するも,クロアカ第二褶襞よリ突出し,鳥類のペニス特有の螺旋状の形態を現はすことなく,全く特異のものなり。
5. クロアカ内部の粘膜上皮は單層圓柱状上皮にして,クロアカ第二褶襞もまた同樣單層圓柱状上皮を被る。然るにクロアカ第三褶襞は深く肛門内に轉入するも,その粘膜上皮は重層扁平上皮なり。而してその下織はクロアカ第二褶襞のそれに比してやゝ緻密にして,神經末端器官なるヘルブスト小體の分布を見るも,クロアカ第二褶襞の粘膜下織はヘルブスト小體を含有すること稀なり。
6. 鷄の退化交尾器にありては,その白色體並に八字状襞は共に重層扁平上皮を被り,下織はその構造やゝ緻密にして,ヘルブスト小體を多數含有するなど,クロアカ第三褶襞の組織的構造と全く類似す。七面鳥及鶉などに於ける生殖隆起(ファーラス)の痕跡に就てもまた同樣なり。
7. 鶩の交尾器(ペニス)の粘膜上皮を見るに,その先端より殆ど全長に亘り重層扁平上皮を被り,たゞその着根のクロアカ第二褶襞が覆ふ部分に於てのみ單層圓柱状上皮を被る。また雌鶩の生殖隆起の痕跡は,その頭部,基部共に重層扁平上皮を被ること鷄の退化交尾器の場合と同樣なり。而してペニスの根本にやゝ近き部分,また雌鶩の生殖隆起の痕跡には,その粘膜下織にヘルブスト小體の多數の分布を見る。
8. ホロホロ鳥の特異の交尾器にあつては,その大部分をなすところの左右對をなす膨大突出部は單層圓柱状上皮を被り,下織もやゝ粗鬆にしてクロアカ第二褶襞の組織的構造と全く一致す。然るにこの膨大突出部の先端に位置するところの左右對をなす暗色小突起は重層扁平上皮を被り,その下織はやゝ緻密にして多數のヘルブスト小體を含有す。
9. 發生の初期に於て,生殖隆起(ファーラス)はクロアカの外界に開くべき部分に突出して現はれ,肛門唇の腹側壁より起り尾側壁に接す。
10. 肛門唇尾側壁と生殖隆起との接する部分より,プロクトデュームは内部に深く陥入し,その先端はファブリシュウス氏嚢の原始に通ずるも,發生の初期に於ては腸の末端部と未だ開通するを見ず。
11. 生殖隆起を内面より見るに,これに接續する部分は奥深く入り,所謂根部を形成するも,根部と生殖隆起との境には劃然たる溝あり,明かに二者を分つ。
12. 生殖隆起の生殖溝に接續して,根部にも縦溝あり,後發生の進むに從ひ,この縦溝を中心として,根部は開き,遂にプロクトデュームはクロアカ内部と通ずるに至る。而して,根部自體は褶を生じ,その周壁にクロアカ第二褶襞を形成す。
13. 肛門唇は發達して,その内縁に副肛門唇を形成し,遂にクロアカ第三褶襞を完成す。而して生殖隆起はクロアカ第三褶襞の形成の經過に於て,肛門内に陥入すると共に,これより分離するに至る。
14. 生殖隆起は發達して,鷄の場合には白色體及八字状襞よりなるところの隆起即ち退化交尾器を形成し,鶩の場合にはこれらの部分が完全に發達し,同時にクロアカ第二褶襞の一部をもその着根に巻き込み,鳥類特有の螺旋状の大なる交尾器(ペニス)を形成す。然るにホロホロ鳥の場合には生殖隆起の奥に接續するところの根部が發生の初期より異常なる發達をなし肛門唇外に突出し,そのため生殖隆起は更に押し出されて,早く肛門唇より分離す。而して根部が發達してクロアカ第二褶襞を形成するに至れば,その腹側に於て膨大突出部を生じ,生殖隆起はその先端に小突起として認めらるるに過ぎず。
15. 然れども生殖隆起は何れの場合に就て見るも,發生時に於てクロアカ第三褶襞と共に肛門唇より發達したるものにして,クロアカ第二褶襞より分化し來たりたるものにあらざること明かなり。
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