和牛に總重量100瓩の橇を牽かし,距離1600米及3200米を行く仕事(平均抵抗約20kg,分速66m)を課し其の勞役が牛の臨床的並生理的所見に及ぼす影響に付,研究し次の如き結果を得た。
(1) 體重は勞役直後に於て直前に比し,距離1600米の場合は約1%,距離3200米の場合は約1.5%減少する。
(2) 體温は勞役直後に於て明らかに上昇し距離1600米の場合は約7%,距離3200米の場合は約16%上昇する。而して前者の場合は勞役後30分にして元に戻るが後者の場合は勞役後1時間を經過しなければ恢復しない。
(3) 呼吸數も勞役後明らかに増大し,距離1600米の場合は約160%,距離3200米の場合は約350%の増である。恢復の状況は體温の場合に準ずる。
(4) 脈搏數も勞役後明らかに増大し,距離1600米の場合は約26%,距離3200米の場合は約36%の増である。恢復の状況は前項に準ずる。
(5) 血壓も勞役後増加する傾向があるが此の増加の程度には可なり大幅な變異があり又距離1600米の場合は距離3200米の場合に比し増大率が大なる如くである。面して之が恢復の状況は幾分遲く何れも勞役後1時間を要する。
(6) 赤血球數も勞役後増すが此の増加率は距離1600米の場合と距離3200米との間に大差なく何れも約5%である。恢復の状況に於ては前者の方が遲く,後者が30分後に恢復するに反し前者は恢復に1時間を要する。
(7) 白血球數は勞役に依り殆ど影響を受けないと云ふ結果もあるが大體に於て勞役後減少する傾向があり,距離1600米の場合は約7%,距離3200米の場合は約14%減少する。77恢復の状況は可なり遲く何れの場合も尠く共1時間は要するものの如くである。
(8) 勞役の血色素量に及ぼす影響は大體増すものらしいが,本結果に於ては此の關係が判然とはしてゐない。
(9) 血糖量は勞役後減少し,勞役直後に於て距離1600米の場合は約7%,距離3200米の場合は約10%の減少である。之が恢復には何れの場合に於ても1時間以上要するものの如くである。
(10) 眼結膜は勞役後紅味を増し其の程度は大體仕事の量に比例する樣である。而して距離1600米の場合は30分にして恢復するが,距離3200米の場合は恢復に1時間を要する。發汗の程度は個體に依る差異が可なり大である。
(11) 距離1600米の場合に比し距離3200米の場合は牽引態度が著しく劣化し途中の佇立囘數は増し,排尿,排糞の囘數も増し,涎を垂らしたり,舌を出したりするに至る。
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