1) 麻酔して,横臥させた山羊において,第一胃内に,体重kg当たり1.3gの尿素を注入すると,第四胃およびそれ以下への第一胃内容物の移動はほとんどなく,主として第一胃から吸収されるアンモニアによって中毒死が起こった.これによって,第一胃の中毒関与が,きわめて大なることが確かめられた.
第一胃内の尿素態窒素(UNと略す)の濃度が高いと,尿素も第一胃から吸収された.第一胃内のUNの減少,ならびに血中のUNの増加の一部は,この尿素吸収に由来するものと推定された.
2) アンモニアの微量拡散分析において,試料にアルカリを加えないで,一定の条件下に定量されるアンモニア態窒素(ANと略す)の全ANに対する百分率を,ANの拡散率と呼ぶことにした.本実験においては,試料1
ml, 27°C,1時間拡散を前記の一定の条件とした.
この拡散率は,試料中の未解離ANが全ANに対して占める割合と,ほぼ比例的な関係にあるものと考察された.
3) 尿素を第一胃に注入した山羊で,第一胃内のpHを酢酸で低下させたり,KOHで上昇させたりすると,第一胃静脈血中のAN濃度は,それぞれ顕著に減少または増加した.そこで,第一胃内のpHは,そのアンモニア吸収と密接な関係を有するものと認められた.
また,その際,第一胃静脈血中のAN濃度の変化と,拡散率の変化とは,近似の傾向を示した.そこで,pHによって変化する吸収アンモニアは,内容物中の未解離分子に由来する可能性があると推定された.
4) 尿素添加の第一胃内容液に,in vitroにおいて,糖蜜,蔗糖または葡葡糖を添加し,あるいはCO
2を通気すると,pHの上昇は抑制され,拡散率も低下した.
5) 以上の諸結果から,糖蜜の尿素中毒防止作用は,次のように推定された.すなわち,第一胃内で,尿素から1分子のCO
2と2分子のNH
3が生成され,その各1分子からNH
4HCO
3が生ずる.残りの1分子のNH
3は遊離して,pHが上昇する.糖蜜からは,CO
2や有機酸が生成され,これらが遊離のNH
3を捕捉して,NH
4HCO
3や有機酸塩を作るので,pHの上昇が抑制され,さらにpHが低下する.その結果,第一胃内で生成された多量のアンモニアも,その吸収が著しくは増加せず,従って消化器全体としてのアンモニア吸収量も,あまり増加せず,中毒が防止される.
抄録全体を表示