家兎の排卵に対する神経支配の機構を調べるため,交尾後の下垂体前葉細胞の変化と神経分泌との関連を形態学的に追究した.
交尾後,視索上核と脳室旁核の細胞は,細胞体および細胞核の肥大,顆粒の減少,Hofbildungおよび分泌空胞などを伴う著しい分泌亢進像を示した.また一部の神経細胞では,交尾の侵襲によって生じたと考えられる細胞全体がHERRING体化したものや,細胞質が細胞膜から離解して濃縮し,退行変性を示すものもみられた.交尾後の視床下部下垂体路では,顆粒は神経分泌性神経細胞の変化に応じて量的に変動し,後葉への顕著な移動増加を示した.交尾後の後葉では,顆粒は急激に減少し,特に顆粒の減少は血管の周囲で顕著であり,循環系への放出増加を示した.
交尾後,視床下部下垂体路および後葉から腺性下垂体に進入する神経分泌顆粒は急激に増加し,前葉では,最初の20分間にもっとも多量に認められた.
交尾後の前葉では,最初の10分間には酸好性細胞と塩基好性細胞に主として細胞体の肥大と顆粒の増加がみられ,20分以後では顆粒の減少と空胞化を伴う著しい顆粒の放出像がみられた.このように,交尾後前葉に神経分泌物が増加する時期と,前葉細胞に分泌活動がみられる時期は時間的に一致した.
交尾後の甲状腺,副腎皮質およびランゲルハンス島の細胞は,それぞれ分泌亢進と考えられる細胞学的変化を示した.
以上の結果から,交尾の刺激は,視床下部-下垂体後葉神経分泌系に分泌亢進を起こさせる.同時に,神経分泌物の一部は,視床下部下垂体路および後葉から直接前葉に進入し,前葉から生殖線刺激ホルモンおよびその他の向腺性ホルモンを分泌させるものと想像される.
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