牛の筋肉の部位別および肥育をとくに行なわない牛と肥育牛によつて,総燐脂質の脂肪酸組成がどのようにかわるかを明らかにするためと,同一筋肉中に存在する燐脂質以外の脂質の脂肪酸組成との比較を目的として,肥育をとくに行なわない牛と肥育牛の咬筋,背最長筋および大腿二頭筋の燐脂質,コレステリンエステルおよびトリグリセリドの脂肪酸組成および遊離の脂肪酸の分布をガスクロマトグラフィーにより分析したところ,次のような知見が得られた.
1. コレステリンエステル,トリグリセリドの脂肪酸組成および遊離の脂肪酸の分布には筋肉別に差がみられないが,肥育をとくに行なわない牛と肥育牛を比較した場合,肥育牛にはステアリン酸が少なく,オレイン酸が多かつた.
2. 燐脂質の脂肪酸組成は筋肉別に非常に異なつており,咬筋には背最長筋および大腿二頭筋よリパルミチン酸とオレイン酸が少なく,ステアリン酸,リノール酸およびアラギドン酸が多い.しかし,背最長筋と大腿二頭筋ではこのような差はまつたく見られない.
3. 肥育をとくに行なわない牛と肥育牛を比較した場合にも燐脂質の脂肪酸組成は異なつており,肥育をとくに行なわない牛は肥育中に対して,咬筋を他筋肉と比較した場合と同じ組成間の差がみとめられた.
4. 燐脂質の脂肪酸の組成に差の起る原因として,運動量の多少が関係しており,運動量が多くなれば,パルミチン酸とオレイン酸が少なくなり,ステアリン酸,リノール酸およびアラキドン酸の含量が増加し,総PUFA量も多くなると考えられ,これらは肉質にも重要な意味があることを示唆した.
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