犬を水平な踏み板に立たせ,正常な駐立姿勢をとらせる.踏み板の頭側または尾側をひきあげ,傾斜が25°に達してから静かにもとの位置に戻すことによつて,犬に前より姿勢または後より姿勢をとらせる.踏み板の頭側と尾側を交互にひきあげて踏み板をseesawのように動かし,前述の姿勢を連続してくり返すことをさせる.踏み板を交互に横に傾けて,身体の1側がはじめ負重側ついで免重側になるようにする.以上の4種類を課題にして,その間の筋活動の変化を50種の筋について筋電図によつて調べた.主な成績は次の通りである.
1) 前より姿勢は頭頸部の前出と後肢の伸展による重心の前方移動からはじまる.
M. deltoideusの収縮による肩関節の閉鎖と.
M quadrices femoris, M. sartorius, M. gastrocnemiusなどの収縮による膝関節の開張,固定が前出した重心を安定に保持する基礎になる.原位置に復帰しても筋の活動はそのまま続き,なかんずく頭頸部の回復がもつともおくれる.
2) 後より姿勢は頸背側筋群の強い収縮による頭部の後方牽引,
M. brachiocephalicusの収縮による上腕の峻立,腕,指関節屈筋群の収縮および
M. sartoriusの収縮による膝関節の閉鎖などによつて重心が後方に移動することからはじまる.極端な後より姿勢では前肢上部の関節は完全に伸展し,後肢上部の関節は中間位に近く固定される.この姿勢は疲労し易く,永続きしない.姿勢の回復は筋の活動と並行せず,多くの筋が回復後も移動中の活動を持続している.
3) seesawの上で平衡をとつて立つことは訓練された犬でもむつかしく,ぎごちない仕草が現われる.体壁の筋群は持続的に緊張し,躯幹背側の長筋群が踏み板の上下とともに弛張をくり返して,重心の移動と躯幹の成形を行なう.傾斜が10°以下の場合の動作はむしろ被働的で,重心の転移に追従して筋の活動が起つているが,10°を越えれば,積極的に前より,または後より姿勢をとるために,肢上部の比較的かたちの大きな筋たとえば前肢の
M. brachiocephalicus, M. deltoideus, M. triceps brachii,後肢
M. gluteus, M. quadriceps femoris, Mm. adductoresなどに強い活動が現われてくる.
4) 右側と左側に交互に傾斜をかえる踏み板の上では,体の1側が負重側になるか,免重側になるかのくり返しで,筋の活動はおよそ被働的である.負重側になる場合は正常駐立時はの筋の活動がさらに強化された状態となり,免重側になる場合は急激に活動が止むだけの変化であるが,肢の自由部を内転する
Mm. pectorales, Mm. adductoresおよび肩帯の上部を固定する
M. serr-atus, M. rhomboideusの活動は著しく強くなつている.
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