飼料中への硝酸塩添加がめん羊の増体および血液に及ぼす影響を検討するため,生後約6ヵ月令の去勢めん羊41頭を用いて,つぎのような3つの試験を行なつた.
1. 第1試験ではめん羊16頭を4区に分け125日間育成した.1区では硝酸塩を与えず,2区では1日当たり体重の0.04%,3区では0.06%,4区では0.08%の硝酸カリウムを飼料に添加し,朝夕2回に等分して給与した.基礎飼料としてはエネルギー水準がかなり低いものを用いた.その結果,1日当たりの増体量は平均1区53.6g,2区49.6g,3区52.8g,4区37.6gで,硝酸塩の添加量が体重の0.08%になると,増体は悪くなつた.
2. 第2,第3試験では,第1試験で増体の抑制が認められた硝酸塩添加量の前後で,硝酸塩が増体に及ぼす影響を再検討してみた.まず第2試験ではめん羊15頭を2区に分け140日間育成した.1区では硝酸塩を与えず,2区では1日当たり体重の0.06%の硝酸カリウムを飼料に添加して給与した.その結果,1日当たりの増体量は平均1区,63.8g,2区63.4gで,この程度の硝酸塩の添加は増体に,ほとんど影響を及ぼさないようであつた.つぎに第3試験ではめん羊10頭を2区に分け140日間育成した.1区では硝酸塩を与えず,2区では1日当たり体重の0.08%の硝酸カリウムを飼料に添加して給与した.その結果,1日当たりの増体量は平均1区90.0g,2区75.7gで,硝酸塩の添加量が硝酸カリウムとして1日当たり体重の0.08%となると増体は抑制されるようであつた.なおこの場合めん羊が摂取した硝酸塩を飼料乾物中の硝酸カリウムとして示すと,3.3~3.7%となり,飼料乾物中の硝酸カリウム含量が3.3%以上になつて,はじめて増体の抑制が認められたことになる.
3. これら3つの試験を通じて,試験期間中および終了時に測定しためん羊血液中の総ヘモグロビン含量,メトヘモグロビン含量および赤血球数は,いずれも硝酸塩の添加量が多くなるにつれて増加した.これは硝酸塩を摂取しためん羊の血液中にメトヘモグロビンができると動物の組織に酸素が充分送れなくなるため,血液中の総ヘモグロビン,赤血球数が代償的に増した結果であろう.しかし白血球数については一定の傾向が認められなかつた.
4. 試験終了後にめん羊を屠殺し,その臓器を剖検したが,肝臓,膵臓,腎臓,消化器,甲状腺,副腎,などは硝酸塩の摂取によつて,とくに異状を示すことはなかつた.ただし硝酸塩を多く添加した区において,脾臓が腫脹しているものが認められた.これはメトヘモグロビンによる酸素不足が影響したものと考えられた.
5. これら3つの試験を通じて,飼料中の硝酸塩がめん羊に及ぼす影響は,動物個体間にかなりの差異があるようであつた.
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