子牛を全乳のみで飼育すると混合唾液分泌能は未発達のままであるが,飼料摂取によって著しくそれを発達させることができることを著者はすでに観察した.本報告の実験目的は,飼育条件をかえることによって異なれる唾液分泌能発達過程を示す唾液腺の代謝能発達を,腺におけるエネルギー利用の基質的特異性を考慮しつつ検索することである.成牛の耳下腺スライスが酢酸をよく利用することは,すでに梅津•佐々木が報告している.
ホルスタイン種雄子牛12頭を6頭ずつ2群に区分し,一群(MHG区)は全乳を制限給与したほかに乾草および濃厚飼料を自由摂取させ,他群(M区)は全乳のみで飼育し,1,4および13週令において両区2頭ずつを実験に供した.すなわち,左側耳下腺導管にカニューレを挿入して唾液分泌速度を計測してのち放血屠殺して耳下腺重量を知り,ついで,酢酸あるいはブドウ糖添加時における耳下腺スライスの酸素消費量を固有呼吸とともにワールブルグ検圧法(Krebs-Ringer phosphatebuffer, pH7.2,気相酸素,38°C,3時間振盪)により求め,別に同様条件下で,酢酸,プロピオン酸,酪酸およびブドウ糖の基質消費量を測定した.その結果,以下の知見が得られた.
1. MHG子牛の耳下線は体重の増加および週令にともなって重量を増すが,M子牛耳下腺の体重に対する比率はむしろ低下する.
2. MHG子牛の耳下腺唾液分泌速度が顕著に増加するが,M子牛のそれはまったく発達をみせない.
3. 週令にともなう耳下腺スライスの固有呼吸発達はMHG子牛に高く,M子牛における発達はきわめて低い.酢酸添加による固有呼吸増加効果は,M子牛に比較してMHG子牛において良く発達し,ブドウ糖添加の効果は,両区とも各週令を通じてまったくみとめられない.
4. 基質消費よりみた酢酸の利用は,M子牛におけるよりもMHG子牛において著しく発達し,また,ブドウ糖利用の発達は両区ともにみとめられない.
5. 上記の結果から,唾液分泌能のいまだ発達していない子牛耳下腺スライスでは酢酸の利用がかなり低いが,唾液分泌量の増加とともにそれが急速に発達し,子牛を全乳のみで飼育して唾液分泌の発達を抑制すると,酢酸の利用もほとんど促進されないことが結論づけられる.
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