血清中のアルカリ性ホスファターゼは,通常各種の臓器組織で産生された後,血液中へ移行することによってもたらされ,生化学的に異質な成分からなり,また,その電気泳動パターンは支持媒質の種類によって相違することが指摘されている.そこで,このような点に留意して分離能の優れた澱粉ゲル電気泳動法により,ヤギ血清アルカリ性ホスファターゼの遺伝的な変異を究明するために,その主要な成分について種々の阻害試験および電気泳動的な挙動による生化学的類似性を比較し,それらの成分の示す変異型の遺伝分析を試みた.その結果,本酵素は5つの活性zoneに分離され,主に易動度の速いA zoneとそれに付随して発現する傾向にあるB zoneは,それぞれ,0.01M L-phenylalanine(阻害率45.0%, 46.5%), 0,05M L-lysine (57.8%,59.3%), 0.05M L-glutamic acid (61.8%,60.2%),0.001M sodium cyanide (39.0%,47.0%)および6M urea (42,7%, 47.1%)の各阻害剤の処理に対して同程度の感受性を示し,0.01M sodium taurocholate処理ではA zoneがB zoneより若干感受性が低かった(9.5%,15.8%).このような類似の阻害性を示すA, B zoneは,生化学的に同質の成分であると考えられた.さらに,これらの泳動域には2種類の変異型,Alp-F型およびAlp-O型,が認められ,前者は主としてA, B zoneを発現するもので,後者はその両方のzoneを欠き活性の検出されないものと,極めて淡く検出されるC zoneのみを示すものとであった.2つの変異型は,交配成績から単純な遺伝的支配を受け,これまでと同様に優劣関係にある一対の対立遺伝子(AlpFおよびAlpO)によって発現するものと思考された.また,血清ロイシンアミノペプチダーゼのアイソザイムパターンとは関連性の無いことが認められた.
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