ラットを用いて,代謝エネルギー(ME)4水準と可消化粗蛋白質(DCP)3水準との組合せにより,調製した12種類の飼料を定量給与し,分娩に近い妊娠20日において,維持に要するME量とDCP量を求めた.そして,妊娠時と同一飼養条件下で飼育した,非妊娠ラットにおけるそれらと比較検討した.なお,妊娠の場合は,胎児,胎盤等をとり除いた,いわゆる母体部における維持の養分量を求めた。本実験では,エネルギーおよび蛋白質の蓄積量がともに0になる時のMEおよびDCP摂取量をもって,維持に要する養分量と仮定した.なお,この値は,MEおよびDCP摂取量とエネルギー,または蛋白質の蓄積量との三者間の関係式を重回帰分析により求め,エネルギーまたは蛋白質の蓄積量が,それぞれ0となる2つの曲線式の交点の値を求めることにより算出にた.妊娠時の維持に要するMEおよびDCP量は,それぞれ148.3kcal/day, W
kg0.75および8.64g/day, W
kg0.75となった.一方,非妊娠時においては,それぞれ168.0kcal/day, W
kg0.75および2.85g/day,W
kg0.75となった.この結果より,維持に要するME量は,妊娠と非妊娠とでは,大きな差が認められないが,DCPについては,妊娠時が非妊娠時に比べて約3倍も増大することが明らかになった.この原因は,母体蛋白質の胎児蛋白質へのくみかえ時における蛋白質効率の低下,および妊娠の後段における胎児および胎盤の急速な成長のために,母体の蛋白質が動員された結果によるものと推測された.したがって,本実験で求めた妊娠時の維持の蛋白質量には,従来の維持の蛋白質量に加えて,胎児および胎盤などの受胎産物の生産過程で消費された養分量が含まれているものと考えられる.
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