計24頭のホルスタイン種搾乳牛を用い,実験計画としてラテン方格法あるいは反転法に従って3回の試験を実施した.そしてパーム油から調製した脂肪酸カルシウムの給与が乳量,乳脂肪率,乳脂肪酸組成および暑熱ストレスに与える影響ならびにその給与の経済効果について調査した.乳牛には対照区の飼料として,試験1では混合飼料を,試験2では配合飼料,ビートパルプ,アルファルファ•ヘイキュウブおよびギニアグラスサイレージを,そして試験3では配合飼料,ビートパルプ,イタリアンライグラス乾草およびヘイレージを給与した.試験区の飼料として,これら対照区の飼料に加えて試験1および2では,脂肪酸カルシウムを1日1頭当り,処理1および2としてそれぞれ220gおよび330g給与し,試験3では処理3として,154g給与した.対照区と比べ試験2の処理2では,乳脂肪率(0.27%)と乳脂肪生産量(85g/日)が有意に増加し,また試験1の処理2では,乳蛋白質率(0.07%)が有意に低下したが,その他では,乳量,乳脂肪率,乳脂肪生産量,乳蛋白質率,SNFおよび全固形分率は,いずれも対照区と試験区との間で有意な差が認められなかった.しかし乳量,乳脂肪率および乳脂肪生産量は,脂肪酸カルシウムの給与量の増加とともに,増加する傾向が見られた.乳脂肪酸では,脂肪酸カルシウムの給与により試験1および2でオレイン酸のみが有意に増加し(試験1でp<0.01および試験2でp<0.05),また乳脂肪酸生産量では,パルミチン酸,ステアリン酸およびオレイン酸が有意に増加(p<0.05,ただし試験3のパルミチン酸を除く)した.特にオレイン酸の増加量は著しく,対照区と比較し処理1,2および3で42.0,24.5および17.7g増加した.このことはパーム油の脂肪酸の一部が,直接乳脂肪に移行していることを示唆していた.脂肪酸カルシウムの給与は,呼吸数,体温,飼料摂取量および体重の変化には影響を与えなかった,これらの試験結果から,例えば夏期高温時の乳量および乳脂肪率が低下する時期に,脂肪酸力ルシウムを平均乳量20kgの搾乳牛に1日1頭当り330g給与すると,30頭の搾乳牛を飼養している農家では1月当り189,900円の収益増になる場合もあることが計算できた.
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