乳牛の初産と2産の泌乳量のように,2つの形質の間の遺伝相関rGが高く,それらの遺伝率h
12およびh
22が似かよっているときに,それらの記録を単一形質の反復記録と見なすことが選抜の正確度に与える影響について理論的に検討した.まず,基準としてそれら2形質を含む選抜指数による選抜の正確度r
IHを求める式を決めた.続いて,それら2形質の記録を遺伝率がh
02である単一形質の反復記録と見なして,2つの記録の和で選抜したときの選抜の正確度r
ERを,反復率とh
02を使って表した.さらに,2形質に関する表型および遺伝的パラメターが既知であると仮定し,それらのパラメターを用いて,2つの記録の和で選抜したときの選抜の正確度r
RTを表現した.そして,r
ERとr
RTのr
IHに対する比をそれぞれ,R
1=r
ER/r
IHおよびR
2=r
RT/r
IHと書くこととした.実際にR
1とR
2を求めるときには,2形質の表型分散(ケースI),遺伝分散(ケースII)および環境分散(ケースIII)のいずれかが等しいと仮定し,想定遺伝率h
02が0.1~0.5の範囲にあるとして,h
12とh
22,rGおよび表型相関rpを変化させて,その影響をみた.h
02が0.1と低く,かつh
02とh
12,h
22との差が小さいときには,どのケースのR
1の間にも差がみられず,R
2にも差がみられなかった.しかし,h
02とh
12,h
22との差が大きいときには,ケースIIのR
1が最も大きく,逆にR
2が最も小さい値をとる傾向にあった.一方,h
02が0.5と高いときには,いずれのケースにおいてもR
1,R
2ともにほぼ同じ値となり,R
1はrGが小さくなるにつれて大きくなった.また,R
1はh
02が0.3および0.5のときは,h
02とh
12,h
22との差が大きくなるにしたがってわずかに減少し,rpの変化の影響はほとんど受けなかった.しかしh
02が0.1と低いときのR
1は,h
02とh
12,h
22との差が大きくなるにしたがい,またrpが高くなるにしたがって減少した.R
2はh
02が同じく0.1のとき,h
02とh
12,h
22との差の増加にともなって急速に減少した.このR
2の減少量はh
02が高まるにつれて小さくなり,h
02が0.5に達すると,h
02とh
12,h
22との差が大きくなってもR
2はほとんど減少しなかった.また,h
02が0.5のきには,rGおよびrpの変化はR
2にほとんど影響を与えなかった.以上の結果より,R
1およびR
2は,特にh
02が低い場合に両形質の遺伝率の差や両形質間の遺伝および表型相関の強さの影響を受けることが明らかとなった.このことは,h
02が低いときには,産次の異なる記録を同一形質の繰り返し記録と見なす際に,選抜の正確度について検討しておく必要があることを示している.
抄録全体を表示