ヤギルーメン内容液にショ糖を添加して培養した時の乳酸およびエンドトキシン(ET)生成量に及ぼすイオノフォアの影響をみるため2つの実験を行なった.実験1では市販の配合飼料とヘイキューブ(2:1)で飼育した成雌トカラヤギ3頭から給餌前に採取したルーメン液を用いた.ろ液のpHを測定後,リン酸緩衝液(pH6.8)とショ糖を加え,さらに6μg/m
lのサリノマイシン(SL)あるいはモネンシン(MN)のメタノール溶液を添加して,39°Cで12時間嫌気培養した.培養後のpHを測定し,遠心分離した上澄液のVFA, L (+)型およびD (-)型乳酸濃度を測定した.実験2ではヤギルーメン液に2μg/m
lのSLあるいは6μg/m
lのMNを添加し,実験1と同様の方法で培養し,実験1の測定項目に加え,ET濃度の測定およびバクテリアやプロトゾアの分類•計数を行なった.両実験ともショ糖とメタノールを添加して培養し,対照とした.培養後のpHは培養前に比べ著しく低下したが,イオノフォア添加によってその低下は抑制された(p<0.05).総VFA濃度,酢酸,プロピオン酸,酪酸およびイソ酪酸のモル比率にイオノフォアの影響はみられなかった,L (+)型乳酸は培養後著しく上昇したが,イオノフォアによってその上昇は抑制された.D (-)型乳酸の上昇はL (+)型乳酸より大きく,イオノフォァによる影響はほとんどみられなかった.これらの結果は両実験とも同様の傾向がみられたが,実験2においてSLはMNの1/3の濃度でpH低下およびL (+)型乳酸上昇を抑制した.したがって,SLはMNより乳酸アシドーシス予防に効果的であると思われた.実験2の培養後にみられたET濃度の上昇は,イオノフォアによって抑制される傾向がみられた.培養後のプロトゾア数は培養前の約10%まで減少し,バクテリア数はグラム陰性菌の減少により約75%まで減少した.イオノフォアにより菌叢が変化し,特に
Streptococcus bovisを含むグラム陽性球菌の増加が抑制された.以上のことから,イオノフォアは菌叢を変えることでL (+)型乳酸の生成量を減少させ,アシドーシスを予防し,その結果,ETの生成量を減少させる可能性が示唆された.
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