実験1では水酸化ナトリウム(NaOH),水酸化カルシウム(Ca(OH)
2),2種のセルロース分解酵素,尿素あるいはアンモニアおよび前4者と尿素を組み合わせて稲ワラの処理を行った.乾物(DM)含量を65%と80%に調整し,添加物の添加割合を変えて発酵品質,化学組成およびin vitro乾物消化率(IVDMD)の測定を行った.pHはNaOH, Ca(OH)
2と尿素処理により増加した(P<0.05).尿素の単独処理あるいはDM 80%のCa(OH)
2以外の添加剤と尿素との組み合わせの場合,カビの発生が抑制された.尿素あるいはアンモニア処理によりワラの粗タンパク質含量が高くなった(P<0.05). NaOH,Ca(OH)
2の添加により尿素からのアンモニアの生成が抑制された.粗灰分含量はNaoH, Ca(OH)
2処理により高くなった(P<0.05).各種の処理によって中性デタージェント繊維(NDF)含量は減少し(P<0.05),全体としてDM 65%の場合のNDF含量がDM 80%の場合よりも低かった(P<0.05).酸性デタージェント繊維(ADF)はNaOH, Ca(OH)
2および尿素処理の場合,DM 65%の場合よりDM 80%の方が低かった(P<0.05).しかし,酵素処理の場合は,これと逆の結果が得られた.DM 65%の場合のNaOHとCa(OH)2処理では,その添加割合に応じてIVDMDがかなり改善された.尿素とアンモニア処理でもIVDMDが改善された(P<0.05)が,その程度はNaOHとCa(OH)
2に比べて低かった.NaOHとCa(OH)
2処理に尿素を付加してもIVDMDの改善効果は認められなかった.一般的に,IVDMDはDM 80%に比べてDM 65%の方が高かった.
実験2では稲ワラの乾物100kg当たり6kgの尿素あるいは3kgのアンモニアで処理して,DM含量を65%,72.5%と80%に調整した.pHはアンモニア処理よりも尿素処理の方が低い傾向を示した.アンモニア処理によりNDFとヘミセルロース含量は低くなる傾向を示した.尿素処理およびアンモニア処理によってそれぞれ添加窒素の69-88%と70-79%が保持された.IVDMDは調整したDM含量の影響を受けず,尿素処理では無処理に比べて14-19% (P<0.05),アンモニア処理では36-38%高くなった(P<0.05).実験1と2でのアンモニア処理の効果の違いは,処理方法が異なったためと考えられた.以上の結果から,稲ワラのIVDMDはDM 80%の場合よりも65%の方が高く,添加剤としてはNaOHとCa(OH)
2処理が最も効果的であると判断された.尿素処理とアンモニア処理でも効果が得られたが,酵素処理では期待されたような効果はみられなかった.
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