日本畜産学会報
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74 巻, 2 号
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解説
  • 高橋 正郎
    2003 年 74 巻 2 号 p. 169-175
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    2003年1月現在,わが国では牛海綿状脳症(BSE)患牛は7頭確認されている.その1頭目が確認されたのは2001年9月のことであった.イギリスを中心としたBSEの大量発生から15年も経緯していて,十分な情報を得ていたにも関わらずわが国ではBSE発生に対する危機管理体制が準備されておらず,その発生は畜産関係業界だけでなく,一般消費者を巻き込んだ一種のパニックを生起させた.その混乱の中,農林水産大臣と厚生労働大臣の私的諮問機関「BSE問題に関する調査検討委員会」が組織され,そのことに関する行政対応の検証と今後の食品安全行政のあり方について検討し答申が出された.本解説は,その答申内容を紹介するとともに,それを受けて政府が展開しようとしている新たな食品安全行政を検証し,さらに,それ以外の政府,とくに農林水産省の食の安全に向けた対応,ならびに関連学会のBSE発生にともなう対応などを自己批判的を含めて検討し,そのことから何を学ぶかを考えたい.
一般論文
  • 藤中 邦則, 道後 泰治, 太田垣 進, 佐々木 義之
    2003 年 74 巻 2 号 p. 177-185
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    主効果としての枝肉市場の有無が,種牛の育種価予測に及ぼす影響と,偏りのない予測を行うための方法について検討した.材料として1988~2000年に兵庫県内の5枝肉市場に出荷された黒毛和種肥育牛22,756頭分の枝肉成績を用いた.枝肉市場間で枝肉形質の市場別平均値に差が見られた.ある市場の枝肉重量平均値が軽く,その市場へのある父牛の後代の出荷割合が高い場合,その父牛の後代の枝肉重量平均値も軽い傾向であった.枝肉記録中に直接の後代を持つ父牛と母牛について,それぞれの後代の各枝肉市場への出荷割合を計算した.次に,主効果として枝肉市場を含む場合と含まない場合の育種価を予測し,2つの育種価の差を計算した.枝肉重量の軽い市場に多くの後代が出荷されている種牛で,枝肉市場を含んで予測した育種価が重かった.この市場への出荷割合と育種価の差との相関係数は正の値をとった.枝肉重量の重い市場では逆の傾向であった.すなわち,枝肉市場を含むモデルで予測した育種価は偏っていると考えられた.枝肉市場を年度×農家と組み合わせることで相関係数は小さくなった.したがって,偏りのない育種価を予測するために,主効果としての枝肉市場を含まないモデル,または他の条件から枝肉市場を含まざるを得ない場合には,枝肉市場×年度×農家の組み合わせ効果を含むモデルが適切であると推察される.
  • 川田 啓介, 兼松 重任, 黒澤 弥悦, 揖斐 隆之, 佐々木 義之
    2003 年 74 巻 2 号 p. 187-193
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    岩手県南地方における黒毛和種集団の育種の妥当性を検証するため岩手県前沢町から出荷された黒毛和種肥育牛3,467頭のフィールド記録を用いて,産肉性形質に関する遺伝的パラメータ,育種価および遺伝的趨勢を推定した.産肉性形質に与える有意な環境要因の影響では,BMSの最良線形不偏推定量が年を経るごとに減少することが注目された.産肉性形質の遺伝率はBMS 0.66, DG 0.51,枝肉重量0.64,ロース芯面積0.36,バラ厚0.25,皮下脂肪厚0.33といずれも中程度から高めであった.BMSとその他の産肉性形質の間の遺伝相関はDG 0.1,枝肉重量0.18,ロース芯面積0.48,バラ厚0.37,皮下脂肪厚-0.24であった.遺伝的趨勢を見ると1991年を境としてBMSと皮下脂肪厚を重視した改良が進められ,枝肉重量は考慮されていない様子がうかがえた.一方,同年を境に同町産の肥育牛の肉質等級は年々低下する傾向にあるが,この原因は改良以外の要因にあると推察された.
  • 鈴木 剛, 堀口 健一, 高橋 敏能, 萱場 猛夫
    2003 年 74 巻 2 号 p. 195-202
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    乾燥コーヒー抽出残渣(Dried Coffee Grounds : DCG)を反芻家畜用飼料として開発するために以下の試験を行った.3頭のヒツジを供試して,DCGを添加して給与する二瓶選択法を応用した嗜好試験を行い,添加量と偏向率からDCGの嗜好性について評価した.さらに,5頭のヒツジに対し,チモシー乾草2 : 配合飼料8を混合した飼料のうち,乾草の0,25,50,75および100%をDCGで代替した5種の飼料を与え,5×5のラテン方格法により消化試験を行った.GoatcherとChurch(1970a, b)による,DCGの嗜好の下弁別閾値は6.54%と推定された.DCGの配合量の増加に従って,粗タンパク質,可溶無窒素物および粗繊維消化率が低下した.DCGをヒツジに給与することにより,第一胃内液の酢酸/プロピオン酸比は低下する傾向であった.また,DCG給与により反芻時間が有意に短縮した.以上の結果,反芻家畜の飼料へDCGを5%給与することは実用可能であると考えられた.
  • 蔡 義民, 藤田 泰仁, 徐 春城, 小川 増弘, 佐藤 崇紀, 増田 信義
    2003 年 74 巻 2 号 p. 203-211
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    緑茶飲料残渣を有効に利用するため,小規模発酵試験法を用い,緑茶飲料残渣とトウモロコシとのサイレージを混合調製し,その発酵品質を検討した.緑茶飲料残渣のみのサイレージ調製では,材料に可溶性炭水化物含量が少なく,サイレージ発酵に関与する乳酸菌は検出されず,好気性細菌,糸状菌および酵母は高い菌数レベルで存在していたため,良質なサイレージの発酵はしなかった.しかし,トウモロコシではグルコース,フルクトース,シュークロースなど可溶性炭水化物含量は高く,Lactobacillus plantarumやWeissella confusa など付着乳酸菌も多かったため,高品質サイレージが調製された.また,トウモロコシと緑茶飲料残渣を混合調製したサイレージでは発酵初期に乳酸菌数が顕著に高まり,好気性細菌と糸状菌の菌数が急減し,良質なサイレージの発酵パターンを示した.これら混合サイレージでは乳酸含量が高く,pH値とアンモニア態窒素含量が低い高品質サイレージが調製され,長期貯蔵でも安定した品質が保持された.また,混合サイレージでは粗タンパク質,カテキン類,カロチンおよびビタミンEなどが多く含まれた.以上の結果,緑茶飲料残渣はトウモロコシとの混合調製により,発酵品質が良好で長期貯蔵も可能なサイレージが調製される.
  • 宮地 慎, 上田 宏一郎, 秦 寛, 塙 友之, 近藤 誠司, 大久保 正彦
    2003 年 74 巻 2 号 p. 213-219
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    サラブレッド系交雑種ウマに,同一原料のチモシーから調製した乾草とグラスサイレージ(以下サイレージ)を給与し,自由採食量,消化率,および採食行動を比較した.サイレージは,中程度の水分で調製した(46%).乾草とサイレージの自由採食量に差はなかった.粗タンパク質を除く成分の消化率は,乾草とサイレージに差は見られなかった.粗タンパク質消化率は,サイレージが乾草より有意(P<0.05)に低かった(51.7 vs. 61.0%).これは,糞のDAPA排泄量においてサイレージの方が有意(P<0.05)に多かったことから,内因性の窒素が影響したためと考えられた.自由採食下における可消化エネルギーおよび可消化粗タンパク質の維持要求量に対する充足率は,乾草とサイレージに有意な差はなかった.サイレージは乾草より1日の採食期数が少なく(13.3 vs. 16.5/日),採食期の平均継続時間が長い傾向にあった(63.0 vs. 51.0分).以上から,栄養価の面で,サイレージはウマに給与する粗飼料として,乾草と遜色なく利用できることが窺えた.
  • 角川 博哉, Margaret BLACKBERRY, Dominique BLACHE, Graeme MARTIN
    2003 年 74 巻 2 号 p. 221-227
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    反芻動物での血中レプチン濃度の調節機構には未解明な点が多い.そこで短期絶食後に再給飼およびVFA類似の糖源性溶液の経口投与を行い,これらの処置中の血中レプチン濃度の変化を調べ,グルコース・インシュリン・インシュリン様成長因子(IGF-1)の濃度変化との関係について調べた.雄ヒツジに対し48時間の無給餌をした後に給飼を再開し,同時に水または糖源性溶液を12時間間隔で2日間経口投与した.処置中は12時間間隔で採血し,レプチン濃度を牛レプチン用ラジオイムノアッセイにより測定した.絶食によってグルコースと全ホルモンの血中濃度が低下したが,給飼再開後に水群ではレプチンのみが有意に増加した.糖源性溶液投与によってグルコースとインシュリン濃度が高値で推移し,再給飼によるレプチン濃度増加効果を増幅させた.したがってレプチン濃度はエネルギバランスの変動に応じて短期間に変化する.レプチン濃度調節機構へのグルコース・インシュリンなどの関与については更に研究が必要である.
  • 守屋 和幸, 吉村 哲彦, 北川 政幸, 小山田 正幸, 杉本 安寛
    2003 年 74 巻 2 号 p. 229-234
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    林内放牧牛にGPS受信機を装着し,同時に実施した行動調査の結果とGPS測位記録とを用いて調査牛の行動履歴の解析を行った.2001年8月27日から9月1日(8月30日のみ雨天)に,スギ人工林(約1.4ha)に放牧されている黒毛和種繁殖雌牛4頭のうち2頭にGPS受信機を装着し,10秒間隔でGPS測位記録を収集した.あわせて,1分間隔で調査牛の行動を移動・佇立・採食・横臥・反芻に分類して記録した.このうち採食行動については採食した植物種も記録した.調査牛は周囲が開けている高台の休息場所と低地の水飲み場との間を往復しながらその途中で採食する行動をとった.調査牛の行動は,移動(10%),採食(40%),その他(50%)であった.調査牛はススキに対する採食頻度がもっとも高く,次いでワラビ,クズの順であった.
  • 伊藤 秀一, 田中 智夫, 吉本 正
    2003 年 74 巻 2 号 p. 235-239
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    岐阜地鶏の採食行動特性を明らかにするため,8個の飼槽を種鶏用ケージの周囲に設置してパッチ状の餌場とし,パッチ移動回数と餌獲得率についてコマーシャル産卵鶏と比較した.1日30分間の時間制限給餌において,岐阜地鶏の採食量はコマーシャル産卵鶏の約1/2であったため,岐阜地鶏の各飼槽には10gの成鶏用飼料を,コマーシャル産卵鶏の各飼槽には20gの成鶏用飼料を入れた.また,パッチの質を変えるために,両鶏種ともすべてのパッチに小石300gを加えた状態をRich環境,小石500gを加えた状態をPoor環境とした.パッチ間の移動に際してエネルギー負荷をかけるため,各パッチに止まり木を設置した.実験はRich環境とPoor環境について1日30分間,それぞれ7日間連続で行った.なお,実験時間以外には餌を与えなかった.岐阜地鶏のパッチ移動回数は,Rich環境で9.6回,Poor環境で10.5回となり有意な差は見られなかった.一方,コマーシャル産卵鶏では,Rich環境での10.1回に対し,Poor環境では13.8回と,環境が悪化すると移動回数が増加する傾向が見られた(P=0.066).また,各環境における餌獲得率は,岐阜地鶏では有意な差が見られなかったが,コマーシャル産卵鶏ではPoor環境において有意に減少した(P=0.032).本実験において,餌環境を悪化させたことが,岐阜地鶏の行動および餌獲得率に変化を及ぼさなかったことから,岐阜地鶏はコマーシャル産卵鶏に比べて餌を探す能力が高いものと考えられた.
  • 青山 真人, 駒崎 孝高, 杉田 昭栄, 楠瀬 良
    2003 年 74 巻 2 号 p. 241-250
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    ウマ同士の社会行動にともない顔や体に現れる特徴の意味の把握は,ウマがヒトに対しても同じ行動を取ることから,現場でのウマの取り扱いにおいて重要な情報になると考えられる.そこでわれわれは,日常的にウマに接している者(ウマ取扱者)およびウマに接する機会が少ない者(非取扱者)を対象に,互いに社会行動をしている2頭のウマの写真からその社会的関係を推察し,さらに判断の手がかりとして注目した部位を回答させるアンケート調査を行なった.ウマ取扱者189名の正解問題数の平均は6.01問(全11問 ; 正解率54.6%),非取扱者53名のそれは5.26問(正解率47.9%)であった.両群とも,無作為に回答した場合よりも有意に高い正解率であったが,ウマ取扱者のそれは非取扱者のそれよりも有意に高かった.ウマ取扱者が回答の際に注目した部位については,耳が38.0%でその頻度がもっとも高く,次いで体全体33.5%,顔全体 23.9%の順であった.非取扱者による注目部位は,高い順に耳29.6%,顔全体20.6%,目15.6%であった.一方,回答者を7問以上正解者(7以上群)と6問以下正解者(6以下群)に分けて比較すると,ウマ取扱者については耳(ただしP=0.091)および顔全体において,非取扱者では首の向き・角度および体全体において,7以上群の方が有意に高い頻度でこれを注目した.各問題の回答を解析すると,一方のウマがその耳や首をもう一方のウマに向けている状態(社会的に劣位のウマが耳を上位のウマに向けて気にしている様子など)が正解の手がかりとなった状況については,ウマ取扱者と非取扱者の正解率や観察の仕方は類似した.しかし,ウマの耳や首がもう一方のウマの位置と関係なく特異的な状態になる場合(耳を後方へ倒す威嚇の表情など)は,ウマ取扱者と非取扱者の観察の仕方は異なり,ウマ取扱者の正解率が高かった.ウマに接して来た経験をもとにウマの耳および首の向き・角度に注目することは,ウマの社会的な状況を推察するのに有効であると示された.
  • ―埼玉県川里町を事例として―
    稲垣 純一
    2003 年 74 巻 2 号 p. 251-260
    発行日: 2003年
    公開日: 2006/06/15
    ジャーナル フリー
    政策的に食料自給率の向上が要請されている下で,農用地の有効利用の観点から,稲発酵粗飼料の生産と利用が注目されている.転作作物として水田に飼料作物を生産することは従来からおこなわれてきたが,稲発酵粗飼料の生産は,乾田化して飼料作物を生産する必要がないことから,きわめて有効な農用地の利用方式であるといえる.しかし,その実現のためには,大幅なコストダウンや土地利用集積などが求められる.埼玉県川里町では,農業公社が整備されたほ場において土地利用調整をおこなうとともに,飼料用稲の生産を受託して耕畜連携システムを確立させることで,農地の有効利用とともに安定的な飼料供給を実現していることが確認された.ただしこのシステムを実現させるためには,生産過程に加えて,流通,利用過程までを対象とした助成措置と農用地の面的集積によるコスト低減が必要であることが確認された.
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